第一話 狩人のご注文-②
――魔道具の製作は、物によっては一日もかからずに出来る場合もあれば、数日を要する場合もある。
それらは、作りたい魔道具の大きさや精密さ、持たせたい機能によって大きく変動するために、とりあえず来てくれたお客さんは、俺たち魔道具店員に希望を伝えたら一度帰宅してもらうことになる。
そうしてお客さんが帰った後が―――俺たちの仕事だ。
お客さんが望む魔道具の考案。
同意が得られれば図面の製図。
図面が書ければ、それを基に製作。
そして最後に、魔法を注ぎ込む。
この一連の流れをして、俺たちは、初めて魔道具店の店員としての責任を果たすことができる。
ちなみに、最終工程である魔法の注ぎ込みについては魔法を使えるものなら誰でもできるらしく、そのため、どんなに優れた魔法使いでさえ、全く同じ魔道具であれば差異はないという。
そこで俺は、ふと気になったことをベクターさんに聞いてみた。
「……そういえば前に魔道具店についての説明を聞いたとき、この街にはここ以外にも魔道具店はたくさんある、って言ってましたよね? どうしてさっきのお客さんは、わざわざ俺のような新人に頼んだんですか? 実際、他の魔道具店に行けば、俺よりももっと優秀な人が良いものを作ってくれたかもしれないのに……」
……まぁ、実際には彼は勘違いによって俺を新人だとは思っていないのだけど、それにしたってあの場にいたベクターさんを差し置いてまで俺を指名するのはおかしな話だろう。
そう思っていると、ベクターさんは少し考えるような仕草をして目を細めた。
「む? うーむ……お主は一つ、思い違いをしているやもしれぬな?」
「……思い違い?」
「うむ、よい機会じゃ! ここらで一つ、問題を出してやろう」
首を傾げる俺の前でベクターさんはおもむろに部屋の奥に行くと、何かを漁っては二つの魔道具を取り出して来て、机の上に置いた。
「これは、朝に見せた雷の魔道具の一つ。そしてこっちが……」
「……これ……同じようだけど……形が少し小さい……?」
そこに置かれたのは、朝に見せてくれた豆や野菜をすり潰すための魔道具。
そして、それによく似ているが、少しだけ小ぶりなもう一つの魔道具。
「そうじゃ。じゃが、これも同じ機能を持つ、雷の魔道具なんじゃ。……さて、こちら二つの違いをまずは見極めてもらおうかの」
「違い、ですか? う~ん……大きさや形は違うってのはそうだけど……他になにが……」
そんな風に思いつつ、俺はとりあえず大きい方の魔道具の突起を押して起動する。
すると、朝にも聞いた騒音が鳴り響くと同時に瓶の中にある刃が高速回転し始めた。
(う~~ん……やっぱりうるさいよなぁ……もっとこう……音が小さくなればいいのに……)
そうして俺は大きな魔道具を停止させ、次は小さな魔道具を起動して―――目を見開いた。
「……!!! こっちの方が音も小さいし、刃の回転も遅い……!?」
俺はそう答えながらベクターさんを見やると、彼は絶えず笑顔を浮かべて両手を合わせた。
「うむ、正解じゃ! こっちの魔道具は、あえて込める雷魔法を微弱にすることで、回転数を抑えて騒音を減らしているのじゃ!」
なるほど、それで……!
確かに回転が遅ければ音も小さくなる……!
これならさっきほどうるさくはない……けど……?
「あれ? でも、なんでそんなことを……?」
確かに俺はもう少し音が小さくなればいいなとは思ったけれど、回転が遅い、ということは速度が遅いってことだから、それは必然的に潰せる豆とか野菜とかも少なくなるってことじゃないか?
性能が劣化しちゃったら元も子もないというか……。
そう思う俺の表情が分かりやすかったのか、ベクターさんは片手で指を二つ立てながら再び楽し気な笑みを浮かべる。
「ふむ、ではそれが、第二問目じゃ。何のために性能を落としてまで小さくする必要があったんじゃろうかのう?」
う~~~~ん????
実用性を下げてまで、あえて音を小さくする必要性……???
音が小さくなったのは確かに良いことだけど、それで性能面が下がるんじゃ、わざわざこっちを使う意味なんてないよな?
……って、いや、待てよ?
逆に、音が小さいからこそ得られる利点を考えたらいいんじゃないか?
とすれば―――?
「……誰にも見つからないようにする状況で使いたい時……暗殺用とか?」
俺が少し自信なさげにそう答えると、これまで笑顔だったベクターさんの顔がやや引き攣った表情へ変わる。
「調理魔道具じゃと言うておろうに……。ま……それも一種の正解かのぅ……? そうじゃ。言ってしまえば、小さくしなければいけない状況で使うためのものじゃな! して――」
――と、ベクターさんが何かを言いかけた時、そこで俺は気づいた。
「……! そっか! お客さんがその時その状況で使いたい物によって、俺たちの作る魔道具は違う。だから、お客さんは理想の魔道具を作れる魔道具店を……魔道具師を選ぶ……ってことですか……?」
俺がそう答えた瞬間、ベクターさんは一瞬目を丸くしたけれど、すぐに笑顔に戻る。
「……うむ、三問目は必要なさそうじゃな!」
魔道具師とは、お客さんの要望に合わせて魔道具を考案していく仕事。
だからお客さんは、自分が望むものを作り出せそうな店員を探しに店に行く。
大きくて性能が高い魔道具を考えられる人。
小さくても利便性がある魔道具を考えられる人。
考えっていうのは人によって様々だから、彼らにとって理想の魔道具が作れそうな店員がいれば、彼らはその人に仕事を頼むんだ。
それが、たとえ若い魔道具師だとしても。
つまり――。
「……期待されてるのか……俺は……」
少しだけ、手が震える。
俺はこれまで、冒険者としてだけ活動してきた。
魔物を倒すのは最初は村の人のためだったけれど、村を出ることになってからは、自分の思いのためだけに戦い続けた。
例えそこで俺がヘマをして、魔物を取り逃がしたとしても、最後には必ずクラリスが倒してくれて……これまでは助け合いとしてはそれでよかった。
だけど、ここにクラリスも、ルークさんも、シャルさんもいない。
ベクターさんは俺のことを助けてはくれるだろうけれど……それでは俺自身が、いつまで経ってもお客さんの期待に応えられたとは言えないだろう。
初めて感じる、責任感。
その重さに、俺が息を深く吐いたの見て、ベクターさんは再び優しく……それでいて、真剣な表情でこう告げた。
「……そうじゃ。ワシらの商売は信頼関係でのみ成り立っておる。そこに経歴や年齢は関係なく、客が求めるものにいかに完璧に応えられるかだけが、自らの力の証明じゃ。経験豊富な魔道具師であれ、適当な仕事をしていれば客は離れていくじゃろう。じゃが、逆にお主が期待に応えてくれると信じてもらえれば、たとえ若かろうが、ワシよりもお主が選ばれ続ける。この仕事を続けていくのであれば、積み重なる信頼を重荷に感じることもあるじゃろうが……。大切なのは、客が信じるための自分自身を、まずは自ら信じてやることじゃ。……そしてそれは、商売人であっても、冒険者であっても何ら変わらぬことじゃろう?」
……!
……自分自身を……信じる……。
確かにここ最近は、魔物も一人で倒すこともできず、パーティのみんなに迷惑をかけていて、自分自身を信じることが出来ていなかったかもしれない。
……もし、あの時俺が自分自身を肯定出来ていたら……俺はまだ、彼女らと冒険していたのだろうか?
……なんて。
思ったところで……今の俺に、そんな余裕はあるのか?
彼は、勘違いだとしても俺を信じてくれた。
後ろを向く暇があるのなら、まずは、前を向くべきじゃないのか?
そうだ。
あの時出来なかったのなら、今! 俺自身を、俺が信じてあげればいい……!
だから―――――!!
「……何だか、少しだけ分かった気がします。……俺、必ずお客さんの期待に応えたいです……!」
そうして俺は、力強く拳を握りしめた。
「ウム……その意気じゃ!」
気づけば手の震えはもう―――止まっていた――――。
更新は"不定期"【AM1時】更新予定ですが、プロローグ、第一話終了までは"毎日"投稿いたしますので、ぜひ、気になった方は読んでみてください!




