プロローグ 一般魔法使いの俺。パーティを追放されたので魔道具店員始めますー③
――――今日、俺はこのパーティから……追放された。
そのまま何も考えずに廊下を歩き、外へと続く扉を開く。
外は未だ明るく、日差しはちょうど真上に差し掛かり、俺のことを照らしていた。
「……っ……っはぁ~……これから何するかなあ……」
……これからのことに思いを馳せていると、ふと目の前の通路で、ばたばたとたくさんの本を路上に落としている老人を見かけた。
「っ! 大丈夫ですか―――?」
それを拾おうと、おじいさんに向って走り出して……ふと、思う。
……いや、いつまでも悔やんでいても仕方がない。
俺が追放されたところでこの世界で何かが変わるわけじゃないし、誰も何も変わらない。
それならば……俺自身がこれから何をするか。
ゆっくり考えていこうかな――――!
◆◇◆
「……んで……だ」
アレクが外に出てから、数分後。
先の部屋の一室で、ルークの声が落ちる。
彼の表情は、険しく……しかしどこか気まずそうに、一人の女の子の顔を覗き込んで、ぎょっとした。
「って、うぉい、おいおいっ!? お前、泣いてんのかぁ!?」
彼がそう言って少し後ずさりをすると、シャルロッテがどこから取り出したのかわからない布を、目の前の女の子の目元に当てながら彼に苦言を呈する。
「あのねぇ……こういう時ぐらい、泣いたっていいじゃないのよ? ……さ。防音魔法は施したから。……もう、我慢しなくていいわよ……?」
「……っ……ぐ……」
彼女がそうして、女の子の頭に手を置いた、瞬間――――。
「うあぁぁあああああああああああああああああああああああんっ!!!! やだよぉおおおお~~~~っ……! ぐすっ、アレクのバカぁあああああ!!! いかないでよぉおおお~~~~~~~……っ!! はぁ、ひっく……なんで出て行っちゃうのよ……っ、うっ、うぅ~~~~~~……っ!!」
絶叫が、部屋に響く。
「~~~~~~っ、ってえなぁ!?!? ……おいシャル! これ、俺に対して防音魔法付与してないだろっ!? うるさくて死にそうだ!!!」
「えぇ、当然でしょう? 貴方が女の子の涙を馬鹿にした罰よ」
「はぁ!? 別に、俺は馬鹿になんかして―――」
「―――うわああああああああんっ……!! うっく……どっ、どうしてぇ……どうして私を置いていくの!? 行かないでよ~~~~~!!! 嫌な態度とってごめんなのはこっちだよぉおおおお~~~~!! お願いだから……っ、戻ってきてよぉおおおお!!! うぇええええええええんっ……!!」
再びの絶叫に、ルークは思わず彼女の口を塞ぐ。
「うるっせぇぇええええ~~~~~~ったくよぉ!! なんでお前はそんなにあいつのことを思ってんのにわざわざ追い出したんだよ!!! こんなになるぐれぇなら、まだ一緒に居たほうがよかったじゃねェか!!」
「っ、ぐ……だって……だってぇ……! あのままじゃ……アレクが危険だと思ってぇ……っ……」
そう言いながらもなお泣きじゃくる彼女―――クラリスは、そのまま、アレクが先ほどまで突っ伏していた床に、同じように突っ伏す。
「うぁあああん……アレクの温もりがまだっ……あぁあああああん……あったかいよぉおおおお!!!」
「うぉ!? なんだお前、気持ち悪ッ!? つーか、危険、って言ったってお前……"わざわざアイツを守るために俺たちを雇った"んじゃねぇのか?? ……馬鹿みてぇな金額提示してきやがってよ……!」
「……あら? それでもお金は要らないって言ってついてきたんだから、文句はナシよ? それに、可愛らしい女の子相手に気持ち悪いはないでしょう?」
「おいおいシャルよぉ……これは文句じゃねェし、今のコイツは普通にキモいぞ? まぁなんだ? 俺からすれば、それほどまでに"好き"なんだったら、一緒に居たほうがいいんじゃねぇかって思っただけだ。つーかよ、シャルだってこいつがアレクに対して恋だ愛だと集中しやがらねぇから戦いずらいってずっと言ってただろうがよ!」
「……それはそれよ。……全く、乙女心の分からない野蛮な男は嫌われるわよ?」
「……過去の男の温もりのある床を嘗め回すこいつが乙女だってんなら……俺は一生その気持ちは分からなくていいぜ……」
「……」
そう言いながらルークは気まずそうなシャルとともに、一つしかないベッドに腰掛け、突っ伏しながら無様に床を舐める彼女の姿を、アレクと同様に……いや、それ以上に見下す。
「だってぇ……アレクは……っ、ぐすっ、本当は……ちゃんとした魔法使いじゃないのに……っ! 私のために……魔法を覚えてくれてぇ……っ、うぇ、ひっく……! でもっ、今の魔物には……っ! 全然効かなくなっちゃったし……っ、もう、これ以上……あんなに苦しそうな姿、見せられたら……っ、無理させられないじゃない……っ! うっ、うぅ~~~~っ……!! れろんっ」
「ゥオイッ! まずはその床を舐めるのをヤメロ!! 違う意味で掛ける言葉が見つかんねぇよ! ……ったく……お前、本当にあの貴族の令嬢かぁ……?」
「……それには同意するわね……でもさ? 前から何度も聞いているけれど、本当にこのままでいいの? さっきも彼が言ってたけどさ……あの子に剣を持たせてあげればいいじゃない? 私たちにも彼に剣を持たせないように注意していたけれど……そんなに下手なの……?」
シャルがそう言い終えると、クラリスはゆっくりと立ち上がり、彼女に目線を合わせて言い放つ。
「馬鹿言わないでっ……!? アレクが剣の才能がないなんて全部嘘に決まってるじゃないっ!!! 彼が剣なんて持ったら、きっとすぐに魔王を倒しちゃって……そしたら私と一緒に冒険できなくなってしまうもの……っ!!!!!」
「……すごい言い切りだぞオイ」
「それに……っ、アレクが有名になっちゃって、私から離れちゃったりしたらもう~~~……っ……! あの時だって大変だったのよ!? 私の見てない隙に、アレクが王都守護隊の隊長と戦った時だって……あの後、アレクが王都に行かないように私、すんごいお金と権力を使って根回ししたんだから……っ……!」
「……根回しだとか……そういう貴族の暗い話は、私たちにもあんまり言わないでほしいわね……? ……それにしても、その時期の王都の守護隊長って言うと……えっ、もしかしてあの人のこと?」
「……あぁ、そうだろうな……。俺も昔、あのオッサンに一度だけ話を聞いたことがあったんだが……後にも先にも、年端も行かない子供相手に本気を出したのはあの時だけだ、って……。……ったく、あんときは面白れぇ冗談だと思ったもんだが、しかし驚いたさ。俺もアレクを見て何となく感じただけだが……あいつぁやっぱり……"英雄の子"、だよな?」
「英雄の子、って……かつて、魔王を瀕死にまで追いやり、封印までした英雄――セレスティアルとフェリクス……。彼らが死ぬ前に、二人の子供をどこかの村にそれぞれ隠した、っていう言い伝えの? でもそれってもう百年も前のことよ? あの子の年齢で見れば、彼らの子供とするには時系列がおかしいわ」
そういい渋るシャルに、いつの間にか泣き止んだクラリスが無い胸を張る。
「ともかくっ! アレクはすごいんだから! ……村ではアレクのすごさを隠そうとしてたみたいだけどね!」
「……あら? クラリスちゃんは彼のことを有名にはしたくないのに、どうして閉鎖的な村から連れ出したのかしら? 貴方も村の民ならわざわざ連れ出す必要もなかったんじゃない?」
「それは……だって、仕方ないじゃない……! こうでもしないと私は王都の王子と婚約させられて、アレクとは一緒に居られなかったんだから……! そのために守護隊長まで村に送り込んでくるほどだったのよ!?」
「っ、お前なぁ……そんな私利私欲であいつを振り回してんのか……? ……まぁなんでもいいけどよ、実際これからどうすんだ? ここは王都も近いし結構栄えた街だぜ? お前さんの言う、その大好きな彼をこんなところに放り出して良かったのか?」
「だっ……っ、えへへ……そんな、好きとか、そういうんじゃ……」
「……で?」
「もうっ! ルークは馬鹿ね! ここまでアレクのことをお……お……想ってる……私が……? 何も考えていないと思う? そんなの全部手配済みに決まってるじゃない!!」
「「……は……? 手配ぃ……?」」
更新は"不定期"【AM1時】更新予定ですが、プロローグ、第一話終了までは"毎日"投稿いたしますので、ぜひ、気になった方は読んでみてください!




