プロローグ 一般魔法使いの俺。パーティを追放されたので魔道具店員始めますー②
「……っえ……?」
いきなり彼女は血相を変えたように振り返り、驚きが混じったような、それでいて少し怒った? ような表情をして捲し立てるように言葉を放つ。
って、えぇ??? どういうこと???
「大体ねぇ! アンタは昔から……~~~ってこれはどうでもよくて! アンタ、今の状況わかっているの!?」
「い、今の状況……?」
そう言われて俺は周囲を見渡すが、そこには怒った顔で見下す幼馴染と、同じように俺のことを見下す二人の仲間だけ。
「……何もおかしいところはないと思うんだけど……?」
そう俺が言うと、仲間のうちの屈強な男性――ルークが大きな手のひらを顔に当て。
神秘的な女性――シャルロッテが上を向いた。
「お前なぁ……いや……う~ん……?」
「……これはまた……」
なんだ、二人して俺を憐れむ顔をして?
いったい何がおかしいというのだろう。
ただ俺は―――。
「まぁ、確かに今は魔力切れで床に"倒れて"しまってるけど……こんなのは今更だろ?」
そう、気軽に告げた瞬間。
部屋中に響き渡る声量で、彼女は俺の頬を両手で挟んだ。
「ハァ~~~~~~~~~~~~!? バッッカじゃないの!?!? それに決まっているでしょう!!!! こんの、馬鹿アレクッ!!!!!」
「っ!? ばっ、馬鹿!?」
うわぁ!? びっくりした……!
彼女がこんなに大きな声を出すなんて珍しい……そんな怒ることか……?
「もう! なんでアンタはそんな呑気に~~~……。あのね? 最近は何らかの影響で魔王の力が増しているせいで、周辺の魔物たちも強くなっているでしょう!? ……アレクが最近魔物を一人で倒したのはいつ?」
そう言われ、俺は頭にいくつかの魔物を思い浮かべて……。
「……うぐ……覚えて、ないかも……」
「はぁ~~~~~……。……いい? アンタが一人で魔物を倒したのは、三日前の陽の沈む頃! 雑魚中の雑魚魔物のプニカス一体よ!? しかもあんなのにわざわざ二度の炎魔法に雷魔法まで使っちゃって……! あのプニカスによ!? プニカスに!!!! あり得ないわ!?」
あぁ、そうそう! あのプニカスな!!
って、おいおい、よくそれを覚えてるな……??
っていうかソレ、もはや俺への悪口よりプニカスの悪口になってないか??
……っと、それはさておき。
「そう、だけどさ? ほら、最近魔物が強くなったせいで、俺の魔法が全然効かなくなってることは前にも話しただろ? ……元々魔物たちは魔素から生まれた存在だから、魔素を利用した魔法が効きにくい、ってのはみんなも理解してくれていたと思うんだけど……」
確かに彼女の言う通り、魔物が力をつけた今、最近は魔法使いである俺一人では魔物を倒すのも難しくなってきている。
最初は、俺のほうがクラリスよりも魔物の討伐数が多かったぐらいなんだけどね?
……でも、徐々にそれも並ばれ、いつしか追い越され……。
「じゃあ聞くけど。アレクの今日の戦績は?」
「え~、っと……あ、クズリスを数体――」
「それ、倒したのは私でしょ? アレクは牽制してくれてたけれど死んじゃいないわ?」
「あ、あ~っと、それじゃ、ヌメロウ、とか……?」
「む……なんとも言いにくいが、それは俺だな……。あっ、無論! お前ェさんの氷魔法による足止めと固形化は非常に助かったぞ!?」
「……じゃあ、チビコウ―――」
「……それは私よ。……というか貴方、その時すでに倒れてたわよね……? よく言えたわね?」
……そうして俺は黙る。
あれ? もしかして俺って……本当に一人で魔物を倒せないんじゃないか……???
……っ、そうだ。
思い返せば酒場で仲間を募集したのは確か、初めて俺が魔物を倒せずに傷を負ってしまった日からだった!
あの時は、たくさん仲間が居たほうが俺の負担も減るだろうから、とクラリスは言っていたけれど……本当はそうじゃなくて……。
―――俺が役に立たないから、クラリスは代わりの強い仲間を求め、この二人を仲間にしていたんだ。
ルークさんは魔法に依らない武闘家で、自慢の筋肉を使った肉弾戦で数々の魔物を倒してきた、王都守護隊の一員としての経歴がある冒険者だ。
そして、シャルロッテさんは自分の気配を断つという珍しい魔法を使用して、気づかぬうちに魔物を倒すという、ルークさんの補助的な活動をしていた冒険者。
どちらも俺に代わりが務まるような存在ではなく……。
二人ともにクラリスに劣らずの戦績を示し、このパーティでは今……俺だけが、役に立っていない。
「……確かに、俺がここ最近で自分で倒した魔物は、少ししか……いや……まったくない……けど……! でも、それでも俺は、みんなと冒険を――!」
俺は、みんなの顔を見上げる。
しかし……彼らは皆一様に、俺から顔を背けた。
「……っあ……」
それが意味すること。
俺は……痛いほどに理解出来てしまった。
魔物は以前にも増して力をつけてきている。
そんな状態では、お荷物の魔法使いなんてパーティに居ない方が全員の生存率も上がるだろう、と。
……じゃあ俺も魔法使いなんてやめて、剣を持ったらどうだろうかと考えた時も勿論あった。
だけど……。
「なぁ、クラリス……じゃあやっぱり俺に剣を教えてくれないか? 俺も頑張れば―――」
そう俺が言い、震える体で立ち上がろうとしたとき、すぐにクラリスが俺の肩を支えて叫んだ。
「――っ、頑張るですってぇ!? バカなこと言わないで? アレクが頑張る意味なんてないじゃない! それに、アレクには"剣の才能なんてない"んだから、自分が振る剣なんかで体を怪我でもされたら私が困るのよ! っていうかそもそもだけど、アンタに私が教えられることなんて一つもないわ!」
そう口にしている彼女の手は、細かく波打っていた。
仮にも、数年間をともにしてきた仲間。
こうは言っているが……彼女にしても、あまり言いたくないことだったのだろう。
だって、彼女の言うこれは……紛れもない事実だったから。
俺が剣を持っても重くて地面ごと斬っちゃうし。
村の近くにいた魔物だけを斬ろうにも、その余波で近くにある建物まで斬ってしまって、村人には迷惑をかけてしまった。
王都からやってきた兵士さんがご厚意で手合わせをしてくれた時だって、クラリスは一本取って褒められていたのに……俺は、手も足も出なかったどころか、三日三晩気絶する始末……。
その才能の無さのせいで、俺は村でも唯一剣を持つことが許されない異端者扱いをされていたほどに。
でも……クラリスは違った。
彼女は俺に剣の才能がないと知っても、ずっと傍にいてくれた!
剣がダメなら魔法をと、彼女は高いお金を払ってまで魔導書を買ってくれた……!
それでも全然魔法が覚えられない俺に対してさえ、決して諦めないで、ずっと応援してくれた……!
だから!!
魔法が使える人は村にはいなかったけれど、そんな彼女と並び立つために、俺は必死に魔法を勉強した!!
彼女のために、たくさんの魔法だって覚えた……!!
………でも。
「そ、っか。いやぁ、そう、だよなぁ……。……っ……クラリスにこんなこと言わせて……本当に、ごめん……」
……結局、何の役にも立てなかった上に、彼女に伝えにくいことをわざわざ言わせてしまった。
俺は彼女に面と向かってそう告げると、支えてくれていたクラリスの手を放し、ゆっくりと立ち上がって……二人に目を向けた。
「ルークさん、シャルさん……いつも俺のことを守ってくれて、ありがとうございました」
「……」
「……えぇ」
彼らは、クラリスの実力に惚れ込んで、仲間になってくれた人たちだ。
それなのに、いつも俺のことを大切に扱ってくれて、本当に優しい人たちだった。
そんな彼らなら、大切なクラリスを安心して任せることが出来る。
そして……。
「クラリス……今まで、俺と一緒に冒険してくれてありがとう。君との冒険は俺のかけがえのない宝物で……ずっと忘れないと思う。……ここで離ればなれにはなってしまうけれど……、もし、辛いときや苦しい時があったら、また、いつでも俺を頼ってほしい」
クラリスは、再び後ろを向く。
それでも……俺は構わない。
「……無理だけはしないでほしいけれど……でも、もし君が危険な目にあったときは……必ず俺が助けに行くから。……またね、クラリス―――――」
そう言い残した俺は……喉に詰まる声と、あふれ出る涙を必死で抑え……ゆっくりと部屋の扉から廊下に出た。
――――今日、俺はこのパーティから……追放された。
更新は"不定期"【AM0時】更新予定ですが、プロローグ、第一話終了までは"毎日"投稿いたしますので、ぜひ、気になった方は読んでみてください!




