第二話 美食家のご注文-⑧
今度は目の前に―――――冷たく、仄暗い洞窟が広がった。
湿気の混じった冷気が肌を撫で、天井か滴る水滴が静寂に響く。
地面にはいくつもの鍾乳石が幻想的な形を成し、それぞれが独立した年月を感じさせる。
気が付けば、周囲には沢山のヌメロウたちがこちらを見て、涙を流し―――。
「―――ってなんですかこれは!!?」
「ほっほっほ!! いやぁ良い反応をするのう、お主は!!」
「うんだうんだ!! これがみだぐでオデは魔物食を広めているとごろがあるんだでな!」
これが見たくて???
悪夢じゃないかほとんど!!!
「……それで、何が見えたんじゃ?」
何が見えたって??
そりゃあ……。
「いや……まぁ最初は良い景色? でしたけど……なんでか、最後に食べた魔物が泣きながらこっちを見るんですよ! なんていうか……強制的に罪の意識に苛まれるんですが!?」
俺がそう言うと、二人は再び腹を抱えて笑う。
そんなに面白いことか???
暫くの後、ようやく彼らの笑い声が落ち着いたころ、師匠はこう語る。
「今、お主に見えたそれはのう……"残滓"、というものでな? これまでの研究によると、どうやら、食べた魔物が見た中で、最も印象に残っている記憶が垣間見えるというものなんじゃよ」
「最も印象に残っている記憶……? まぁ確かにいい景色は見えましたけど……。あれ? じゃあ、最後にみんなが泣いていたのはなんなんですか? あれは記憶とは違う感じがしますけど……」
「あぁ、そでは魔物食にはよくある現象だん!! 食べた魔物はそのまま力尽きて魔素になるでな? 口の中で弾けた魔素が、その記憶に混じっで、彼らの悔しざや恨みが垣間見えるんだで!」
なんだそりゃ気持ち悪!? ていうか、それじゃあやっぱ呪いじゃんか!!!
なんてものを食わすんだこの人たちは!!
にしても……。
「……まぁ今更それを考えてもアレなんでいいですけど……それよりも、この鉄の板は何の意味があるんですか? 見たところ、加熱調理魔道具に似てますけど……」
俺は嫌な記憶を消すように、さきほどまで魔物が乗っていた鉄の板を見て首を傾げた。
ぱっと見では火の魔法が込められているのが分かることから、今やどの家にも普及した加熱調理魔道具のようにも見えるんだけど……これ、何度見てもただの鉄の板だよな……?
「うむ、実はこれは加熱調理魔道具の簡易的なものでのう。単純に、火の魔法を鉄の板に蓄積して熱した板上で、"加熱調理をしながら"大勢で食事を楽しめる、というものなんじゃよ」
「うんだ! 魔物は火加減を間違えるとずぐに魔素になっで消えてしまうでなぁ? 火加減を見ながらすぐに食べられるこでは、魔物食には欠かぜない便利なものなんだな!」
はぁ~、なるほど……!
言ってしまえば、巨大な加熱調理魔道具の上にある器を大きくしたもの、ってところか?
あれ? ってことは、だ。
「ちなみに、さっき食べたのは焼いた魔物食だったってことだと思うんですが……生のままだと味とか、感じ方って変わるんですか?」
その俺の一言に、ホッグスの目が輝く。
そして同時に、俺は聞かなければよかったとも思った。
だって、次にこの人が何を言うのかを……理解できてしまったから。
「うんだぁ!? 興味もってぐれただか!? ほんだらずぐに何体かとってくるでよ! すこじまっででだよ!!!」
―――そう言い残すと、彼はその巨体からは想像だにしない速度で店を出るや、俺たちを置き去りにして宵闇の中に姿を消してしまった……。
え~……と。
……カチャリ。
「……お主……無言で店のカギを閉めるでないぞ? まぁ気持ちはわかるがのう……あやつも善意でやっとることじゃから、少しだけ付き合ってくれんかの……?」
くそぅっ……逃亡失敗、かっ……。
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