第二話 美食家のご注文-④
「地面が揺れるぅ!!!?」
なんだあの大きさは!?
山がっ!? 山が迫ってくるぅううう!?
などと……彼が一歩踏みしめるごとに足元からガタガタと大地が揺れる状況に俺が驚いているが、しかしそれを意に介さぬ男性はそのまま師匠のもとへと到達し、息を弾ませながら口を開いた。
「はぁっ、はぁっ……っ! うんだ、ベクダーさん!!! おらんかど思っだど~~~!! どごいっどっだだが~~~???」
―――!?
この人今なんて言った!?
「ほっほっほ、そう焦らずとも、ワシがアンタを忘れることはなかろうて!」
「だっほっほ! だしかにそうだべなぁ! うんだ、こん時期が来ただに、だのじみではやぐ来ちまっただよ~~!」
こ、これは東方訛りか?
依然聞いたことがあるにしても、この人のはすごい訛り方だけど……ん? あれ?
そういえばさっき、この時期が来たから来たって……てことはやっぱり?
「し、師匠……? この人が……さっきの話の?」
俺が思わずそう口にすると、師匠はどこか気まずそうにしながらも彼を紹介する。
「おぉ、そうじゃったな。そうじゃ。この人が先ほど言った特殊な……ゥごほんごほんっ!! えぇ~~~、毎年来てくださる、例のお客様じゃよ」
「……この人、が……?」
俺はそのまま目の前のお客さん……? に視線を向けると、彼は大きな巨体から見下ろすように俺に手を伸ばして頭に乗せ――――つっ、潰される!? ……なんてことはなく。
彼はそのまま俺の頭の上に大きな手を乗せて、豪快にお腹の肉を揺らしながら笑った。
「うんだ? おめさん、ベグターざんの弟子だべか?? だっはっは! わげぇのにすごいんだなぁ!」
「―――!!!」
でっ、でっ、弟子~~~!?
そ、そうか……! 俺はそう見えているのか……!!
なんていうかそれは……嬉しいぞ!?
「弟子……え、へへ……はい、そうです! 俺、アレクって言います!」
「おっほぉ~! げんぎがあっでいいなぁ! べぐだーざん、どこでこんないい子を拾ってきたんだべか~~??」
そう言って彼は再び俺の頭を撫でまわす……が、ふと、なんだか少しだけ頭に違和感を覚え、俺は彼の手が乗った自分の頭を触ってみる―――と、ぬちゃっ、という音とともに、手のひらにねばついた何かが付く感触を感じる。
ん? なんだこれ……? ヌメロウの感触みたいな……。
「ほっ……ほっほ……たまたまじゃよ……たまたま。ところで、ホッグス殿。早く来てくれたところ大変申し訳ないのじゃが……まだ肝心の準備ができておらんのじゃ……。少しここで待っていてくれたら準備をすぐに済ませるんじゃが……どうするかのう?」
「んだば! オデが早すぎだんだべ、明日でも明後日でもいぐらでもまづだよ!」
そう言って彼は、自分の大きな指を口に運んで……含んだ。
……含んだ……?????
って、こ、と、は……これは……もしかして……!!!???
「いやぁ~、だのじみすぎで、オデ、涎がどまらんでよぉ~!」
「ほっほ、そうであれば早くせねばのう! ではアレク君、さっそく手伝って―――って、おや? なんで気を失っておるんじゃ……???」
「――――――……」
――――後から聞いた話では、老齢な師匠には倒れた俺の体は運べなかったので、代わりにホッグスさんに小部屋まで運んでもらったのだという。
……当然、それを聞いた俺は……もう一度、意識を手放したのだった―――――。
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