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自分の娘に転生したので息子を当主にするべく暗躍します。  作者: あとりえむ


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第九帖

「本当に、退屈で反吐が出るほど旧態依然とした連中だ。法の抜け穴を使えば、私の遊びの邪魔ができるとでも思っているのか」


宮中の奥深く、帝の私室に呼び出された私は、若き覇王の不機嫌そうな声を聞いていた。


帝は盤上の双六の駒を退屈そうに指先で弾き飛ばしながら、子供らしい純粋な怒りと残酷さを浮かべていた。


彼の足元には、鈿芽の実家が雇ったはずの裏社会の暗殺者や、偽装工作を指示された者たちが、全身を縄で縛られ転がっている。


私は、用意された最高級の甘い菓子をつまみながら、内心で彼を微笑ましく観察していた。


言っていることは恐ろしいけれど、要するに自分のお気に入りの遊び相手を邪魔されて腹を立てているだけなのよね。ひたむきで過保護なお兄様とはまた違う、生意気で絶対的な権力を持った推しって感じで、なんだか愛着が湧いてしまうわ。


「帝様。名門の方々は、公式な監査会議で私のお兄様を追い詰めるおつもりのようです。あちらが用意した横領の証拠は、書類上は完璧なものですわ」


私がそう言って余裕の笑みで見上げると、帝はふいっと顔を近づけ、私の手から菓子を奪うように自分の口へと放り込んだ。


「書類上の真実など、いくらでも作り出せる。だが、物理的な金の流れと、人間の恐怖はごまかせない」


私と帝は、香香丸が役職に就いた初日からこの罠に気づいていた。

私は景冬から巻き上げた資金を使い、長年かけて構築した裏の商人ネットワークを総動員して、横領された金がどこへ運ばれているのかを完全に捕捉していたのだ。


帝は私の隣にどさりと座り込み、子供っぽい我儘を言うように私の着物の袖を引っ張った。


「あんな連中の相手など、私がまともにするわけがないだろう。……それより、沙羅。お前はただ、私と遊んでいればいいんだ」


甘えん坊の少年のように袖を引いていた彼が私を見つめたその瞳の奥に、ぞくりとするような底知れぬ狂気と、年齢に見合わない恐ろしいほどの色気が一瞬だけ閃く。


「私の盤面を荒らす塵芥は、私がすべて綺麗に掃除してあげるから。……だからお前は、ずっと私のそばで、私だけを見ていればいい」


ただの我儘な子供の顔から一転、将来、誰も逆らえない絶対的な覇王になるであろう危うい片鱗を不意に見せつけられ、私は思わず心臓が大きく跳ねるのを感じた。


やっぱりまだ子供ね、なんて大人の余裕で侮っていたけれど。時折見せるこの完成されたオスとしての表情には、中身が大人の私でもどきりとさせられてしまう。




数日後、朝廷の大広間にて、公式な監査会議が開かれた。

大勢の貴族たちが居並ぶ中、鈿芽の父親である名門の長が、重々しい足取りで進み出た。


「帝に申し上げます。誠に遺憾ながら、大社造営の責任者である葛城香香丸殿の管轄下にて、莫大な国庫の金が横領されている事実が発覚いたしました。ここに、動かぬ証拠となる帳簿と、配下の者たちの証言がございます。責任者として、彼を厳正に処罰すべきかと存じます」


その堂々たる、法に則った告発に、朝廷内は重い沈黙に包まれた。

しかし、玉座に座る十二歳の若き帝は、つまらなそうに頬杖をつきながら冷たく見下ろしていた。


香香丸もまた、焦るどころか、冷ややかな視線で鈿芽の父親を哀れむように見つめている。彼からすれば、妹である私に手を出そうとするような愚か者たちなど、路傍の石以下の存在に過ぎないのだろう。


「動かぬ証拠、か。……ご苦労だったな。だが、その帳簿に記された金がどこに消えたのかについては、調べがついていないようだな」


帝のひどく退屈そうな声に、鈿芽の父親はわずかに眉を動かした。


「それは、これから厳しく追及すべきことで……」


「必要ない。すでに朕の直属の兵が、消えた金の隠し場所を押さえている」


帝が指を鳴らすと、大広間の扉が開き、重そうに木箱を担いだ近衛兵たちが次々と入ってきた。


木箱の蓋が開けられると、中には眩いばかりの黄金と、大社造営のために使われるはずだった高価な品々がぎっしりと詰まっていた。

そして、それに続いて広間に引きずり出されてきたのは、名門の屋敷を管理する家令たちだった。


「な……っ!」


鈿芽の父親の顔から、一瞬にしてすべての血の気が引いた。


「消えた金はすべて、そなたの領地と隠し蔵から見つかった。香香丸の配下に横領を指示し、その金を自らの懐に入れ、責任だけを香香丸になすりつける。……見事な手口だが、欲をかきすぎたな」


帝の無機質で絶対的な声が、広間の空気を完全に凍りつかせた。

書類上の罠は、圧倒的な情報網による物理的な証拠の前に木っ端微塵に打ち砕かれたのだ。


さらに、香香丸の配下として名門から送り込まれていた役人たちも引き出され、彼らは帝の底知れぬ恐ろしさに完全に発狂したように泣き叫びながら証言を始めた。


「す、すべてこのお方から指示されたことです! 香香丸様に罪を被せろと! どうか、命だけはお助けください!」


「ば、馬鹿な! 私ではない! これは何かの間違いだ!」


名門の長が悲鳴のような声を上げたが、もはや誰の耳にも届かなかった。

帝は玉座から立ち上がり、虫けらを見下ろすような虚無の瞳で、冷酷な判決を下した。


「国庫をかすめ取り、私の遊びを邪魔した罪は重い。一族郎党、一人残らず捕縛し、身分を剥奪の上、流罪とせよ」


法の番人を気取っていた名門貴族は、自らが用意した罠によって逃げ場を失い、一瞬にしてその地位と権力のすべてを剥奪され、無惨にも兵士たちに引きずられていった。


帝の絶対的な権力と、私たちが裏で引いた完璧な布陣の前では、彼らの狡猾な謀略すらも滑稽な喜劇に過ぎなかったのだ。



その日の午後、名門一族の突然の没落と逮捕の知らせは、葛城の屋敷にも雷鳴のように響き渡った。


「嘘よ……嘘よ! 私のお父様が、一族が、横領罪で捕らえられただなんて! 何かの間違いよ!」


鈿芽は私室で髪を振り乱し、獣のような悲鳴を上げて泣き叫んでいた。

彼女の絶対的な盾であり、その傲慢さの根源であった実家の権力は、文字通り跡形もなく消え去ったのだ。


そして、実家が大罪に問われたとなれば、その一族の娘である鈿芽がこの葛城の家でどうなるかなど、火を見るより明らかだった。


「旦那様! 旦那様はおいでですか! どうか、どうか私をお助けください!」


鈿芽がすがるような思いで景冬の執務室へと駆け込むと、そこにはすでに、彼女を汚物のように見下ろす景冬の姿があった。


家の繁栄を至上命題とする景冬にとって、罪人のレッテルを貼られた没落貴族の娘など、もはや葛城の家に泥を塗るだけの最悪の厄介者でしかない。


「気安く私に触れるな、罪人の娘が。お前は今日限りでこの家を追放する。御雷丸も連れて、さっさと私の目の前から消え失せろ」


かつて私を離れへと追いやった時と全く同じ、氷のように冷酷な声。

鈿芽はその場に崩れ落ち、自らの完全な破滅と転落の事実に、声にならない絶望の叫びを上げた。


愚か者たちの謀略は、自らの首を絞めるだけの無惨な結末を迎えたのだ。



私はその一部始終を少し離れた廊下から見つめ、幼い顔に大人の冷ややかな笑みを浮かべていた。

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