第八帖
あれから二年の月日が流れ、香香丸が十二歳という年齢で元服の日を迎えた。
葛城の本邸で行われた儀式は、右近衛大将である景冬の嫡男にふさわしい、目も眩むほどに豪奢で盛大なものだった。
かつて北外れの離れで、隙間風に震えながら泥水をすすっていた少年の面影は、もはやどこにもない。
二年にわたる過酷な鍛錬と、私が裏から雇い入れた最高の家庭教師たちによる教育の成果が、彼の全身から明確に滲み出ていた。たっぷりと栄養を摂り、引き締まった体躯に最高級の絹の正装を纏った香香丸は、十二歳という年齢以上に凛々しく、そしてどこか冷ややかな大人の色気を漂わせる青年の顔つきへと見事に成長していた。
烏帽子を被り、涼やかな目元を伏せて完璧な作法で杯を受けるその姿に、列席した貴族たちからは感嘆の溜息が漏れていた。
「さすがは我が息子だ。葛城の家を背負って立つにふさわしい、見事な若武者ぶりではないか」
上座に座る景冬は、満足げに目を細めて高笑いしていた。
彼は香香丸のこの見事な成長ぶりを、すべて自分自身の血の優秀さと、自分が与えた環境の賜物であると信じて疑っていない。
私が裏で景冬の財産を湯水のように換金し、有力貴族たちへの根回しや賄賂として二年間もばら撒き続けていたことなど、この打算と享楽にまみれた男は微塵も気づいていないのだ。
九歳になった私は列席の端に座り、扇で口元を隠しながら、誇らしさと愛しさに胸を熱くしていた。
ああ、私のかわいいお兄様。あんなに小さくて泣き虫だったあなたが、こんなにも立派な姿になって。私のすべてを懸けて、あなたを絶対に誰にも脅かされない場所へと導いてみせるわ。
私が内心で狂気的なまでの母性を爆発させていると、ふと香香丸が顔を上げ、群がる大人たちを完全に無視して、私だけを真っ直ぐに見つめてきた。
その瞳には、父親への敬意など一切ない。ただ、妹である私への絶対的な愛情と、兄としてこの小さな妹を守り抜くという重く過保護な決意だけが静かに燃えていた。
香香丸の出世は、元服の儀を終えた後、恐ろしい速度で加速していった。
私が二年間かけて裏で作った盤石な派閥の力に加え、宮中の奥深くで絶対的な権力を振るう若き帝の、見えない極甘なサポートがあったからだ。
帝はただ、私と遊ぶための盤面を整えるという娯楽のためだけに、朝廷の重要ポストを次々と香香丸に与え、異例の若さで要職に就けた。香香丸の周囲には、またたく間に新たな権力の渦が形成されていった。
景冬は自慢の娘と優秀な息子を利用しているつもりで悦に浸っていたが、家の実権と家臣たちの忠誠心は、すでに水面下で景冬から香香丸へと完全に移りつつあった。
しかし、この事態に極限の危機感を抱き、激しく焦燥している者がいた。
名門の姫である、妾の鈿芽である。
「どういうことなの……! なぜ、あのような卑しい血のガキが、朝廷でそれほどまでに重用されているというの!」
鈿芽の私室では、またしても高価な調度品が床に叩きつけられ、無惨な音を立てて砕け散っていた。
彼女の足元には、怯えて泣きじゃくる十一歳の御雷丸がすがりついている。
名実ともに葛城の次期当主となるはずだった自分の息子が、十二歳の香香丸の圧倒的な実力と権力の前に、完全に空気のような存在へと追いやられていたのだ。
特権階級の誇りの塊である鈿芽にとって、私が景冬の寵愛を独占し、香香丸が力をつけていくのを指をくわえて見ていることしかできなかったのは、天地がひっくり返っても許されない屈辱だった。
プライドと憎悪で完全に理性を失った鈿芽は、すぐさま自分の実家である名門の長、すなわち彼女の父親へと密書を送った。
彼女の実家もまた、香香丸という新興の若者が朝廷で急速に台頭してくることを苦々しく思っていた。
朝廷の重鎮である鈿芽の父親は、狡猾で盤石な罠を仕掛けることにした。
彼は自らの権限を使い、香香丸を国家の重要事業である大社造営の責任者に推挙したのだ。
十二歳の若者には到底不釣り合いな重責だが、帝の覚えもめでたい彼ならばという大義名分で外堀を埋めた。そして、香香丸の下で働く役人たちに、自分の息のかかった手駒を大量に配置したのである。
彼らの狙いは単純かつ致命的だった。手駒の役人たちに意図的に造営資金を大規模に横領させ、その責任と帳簿上の証拠のすべてが責任者である香香丸に行き着くように巧妙な罠を数ヶ月かけて構築したのだ。
朝廷の公式な監査会議の場で、複数の高官たちと同調して香香丸の深刻な管理責任と横領の事実を告発する。どれほど帝が香香丸を気に入っていようと、確固たる証拠と官僚たちの総意を前にしては、法に則り彼を罰し、失脚させざるを得なくなる。
それこそが、何代にもわたり朝廷を支配してきた名門貴族の、逃げ場のない政治的な処刑方法だった。
「これで終わりよ。法の裁きを受けて、惨めに散りなさいな」
鈿芽は私室で扇を口元に当て、数ヶ月ぶりに会心の笑みを浮かべていた。
しかし名門貴族たちは、自分たちが相手に回したのが誰なのかを根本的に理解していなかった。










