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自分の娘に転生したので息子を当主にするべく暗躍します。  作者: あとりえむ


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第七帖

春の陽光が降り注ぐ、息を呑むほどに美しい宮中の庭園。


色とりどりの花々が咲き誇り、穏やかな風が甘い香りを運んでくるその楽園の中心で、私は若き最高権力者と正面から対峙していた。


十歳という年齢でありながら、人間離れした、神仏の造形物のように完璧で冷たい美貌を持つ少年。帝である。


最高級の豪奢な装束を身に纏い、庭園の奥の御簾の前に座る彼の周囲には、彼のご機嫌を取ろうと必死に媚びへつらう大人たちが群がっていた。


しかし、帝の瞳には何の感情も宿っていなかった。

生まれながらにして絶対的な権力を持ち、大人たちが自分の前で這いつくばる姿を物心ついた時から見続けてきた彼にとって、この世のすべてはひどく退屈で、無価値な盤上遊戯に過ぎないのだ。


彼に見つめられた大人は皆、その虚無の奥にあるサイコパスめいた冷酷さに本能的な恐怖を覚えるという。


だが、私と視線が交差したその瞬間、彼の瞳の奥で何かがパチンと弾けるような音がした。

子供らしい無邪気な仮面の下に、大人たちを冷酷に手玉に取る私の本性を、彼は一瞬で見抜いたのだ。



沈黙が流れる。

周囲の大人たちが息を詰めて見守る中、帝の完璧な唇の端が、ほんのわずかに、しかし明確な歓喜を帯びて弧を描いた。


「皆の者、下がれ。この葛城の娘とは、少し二人きりで話がしたい」


帝の静かで絶対的な命令に、周囲の大人たちは一斉に平伏した。

私の横に控えていた父親の景冬は、帝が私に興味を示したことに狂喜し、顔を真っ赤に上気させながら深く頭を下げた。


「ははっ! なんなりと、沙羅をお使いくださいませ。ほら沙羅、帝の御前だ。失礼のないようにな」


私を至高の道具として売り込むことに成功した景冬は、満足げな足取りで庭園から立ち去っていった。


名門の姫である鈿芽の権力すらも凌駕する、絶対権力者との繋がり。家の繁栄と己の権力欲しか頭にないあの愚かな男は、自分が私を帝に献上したことで、葛城の家の未来が盤石になったと信じて疑っていないのだろう。



広い庭園に、私と帝の二人きりが残された。

遠くで鳴く鳥の声さえも、彼が放つ圧倒的な威圧感の前に掻き消されていくような気がした。


帝はゆっくりと立ち上がり、衣擦れの音をさせて私の前まで歩み寄ってきた。

そして、七歳の私の目の高さに合わせるように、静かに身を屈める。

白磁のように滑らかな指先が、私の頬にそっと触れた。


「……見つけた」


その声は、周囲の大人たちに向けていたような冷たく無機質なものではなかった。

十歳の少年には到底不釣り合いなほどにねっとりとした熱を帯び、背筋が粟立つような完成された男の色気を孕んでいた。


私は内心で微かに動揺しながらも、子供の仮面を被ったまま首を傾げてみせた。


「帝様? どうかなさいましたか?」


「ふふっ……美しいな。その見事なまでに作り込まれた無邪気な笑顔も、その奥底に隠している、私と同じひどく冷め切った目も」


帝の指先が、私の頬から艶やかな黒髪へと移動し、愛おしそうに梳いていく。


前世の記憶と大人の精神を持つ私でさえ、彼の瞳に宿る暗く重たい熱に、本能的な警鐘が鳴り響くのを感じた。


この少年は、危険だ。


私が今まで相手にしてきた、打算と享楽にまみれた景冬や、特権階級のプライドだけで動く傲慢な鈿芽などとは次元が違う。

彼は、私が同類であることを完全に見透かしている。


「お前も、この世界が退屈で仕方がないのだろう? 周囲の大人たちが皆、自分の欲望のためだけに踊る滑稽な虫けらに見えているはずだ」


帝は私の耳元に顔を寄せ、甘く、そして恐ろしい言葉を囁いた。


「父親の強欲を利用して貢ぎ物を巻き上げ、裏で換金して実の兄に貢いでいる。そして、あの傲慢な妾とその実家を地獄へ突き落とすための罠を、着々と張り巡らせている。……違うか? 私の愛しい悪女よ」


心臓が、大きく跳ねた。

なぜ、この少年が私の裏工作のすべてを知っているのか。

私が登代を使って極秘裏に進めてきた資金の流用も、香香丸の派閥を形成するための根回しも、景冬にすら一切気づかせていないというのに。

私が息を呑むと、帝は楽しげにくすくすと笑った。


「私の耳目を甘く見ないことだ。宮中はおろか、都の隅々まで私の盤上なのだから。お前のその美しくも冷酷な遊戯、特等席で見せてもらったよ。本当に、久しぶりに心が躍った」


彼の言葉には、私を罰しようという響きは微塵もなかった。

むしろ、退屈な世界で初めて見つけた自分だけの玩具に対する、強烈な歓喜と狂気的なまでの執着が満ち溢れていた。


私はもう、無邪気な子供の仮面を被り続ける意味はないと悟った。

顔に貼り付けていた作り笑いを消し去り、感情の抜け落ちた氷のような視線で彼を真っ直ぐに睨みつける。


「……私の計画を邪魔なさるおつもりですか、帝様」


七歳の少女の口から出たとは思えない、低く冷え切った大人の声。

その私の態度の変化に、帝はさらに嬉しそうに目を細めた。


「邪魔? とんでもない。私はお前の味方だ。いや……共犯者と呼ぶべきか」


帝は私の両手をそっと包み込み、宝物でも扱うかのように優しく撫でた。


「お前のその美しく白い手を、泥で汚させるわけにはいかない。お前が望むのなら、私がすべての道を作ってやろう。兄を葛城の当主にするための官位も、邪魔な妾の実家を根絶やしにするための権力も、すべてお前の思い通りに動かしてやる」


それは、絶対権力者だからこそ言える、あまりにも異常でスケールの大きい愛の告白だった。


彼にとって、大貴族の没落も、朝廷の人事も、私が喜ぶための単なる遊戯に過ぎないのだ。

私にすべてを与え、私の世界を自分という存在だけで満たしたい。私には何もさせず、ただ自分の用意した安全な場所で笑っていてほしい。


それは圧倒的な庇護であると同時に、決して逃げ出すことの許されない、甘く危険な鳥籠の形成を意味していた。


「さあ、私に願いを言いなさい、沙羅。お前を縛るすべてのものを、私がこの手で壊してやろう」


魅入られたように囁く彼に、私は背筋が痺れるような感覚を覚えながらも、決して目を逸らさなかった。


狂気的な執着だろうが、鳥籠だろうが構わない。

私の目的は、愛する香香丸を誰も手出しできない絶対的な安全圏へ導くことだ。そのためならば、この最狂の若き覇王の手を取ることに、いささかの躊躇いもなかった。


「……ならば、お願いがございます。私のお兄様を、どうか最も高い場所へお導きくださいませ。そして……」


私が残酷な計画の続きを口にすると、帝は最高に美しい笑みを浮かべて頷いた。




その日を境に、私と香香丸の計画は、帝という絶対的な安全地帯を得て恐ろしいほどの速度で加速し始めた。


景冬は私が帝の寵愛を一身に受けていると勘違いし、有頂天になっていた。

名門の姫である鈿芽の機嫌をとる必要すらなくなった彼は、私を葛城家の至宝として扱い、家の財産を湯水のように私へと注ぎ込んだ。

私はその財産をすべて香香丸のための資金とし、さらには帝が裏から回してくれる莫大な財力と権力をも利用した。



数日後、私は本邸の庭の隅で、香香丸と落ち合っていた。

香香丸の背丈は以前よりもずっと伸び、華奢だった体つきも、日々の過酷な鍛錬によって引き締まった青年のそれへと変わりつつあった。


彼は周囲の目を警戒しながら私の前にしゃがみ込み、私の小さな両手を自らの手で温めるようにそっと包み込んだ。


「沙羅。お前をこんな危険な目に遭わせて、兄として本当に情けない。……すまない」


彼が私を見つめる瞳には、妹を心配する深い愛情と、自分自身の無力さを不甲斐なく思う焦燥感が入り混じっていた。

大人を一切信用せず、心を固く閉ざして生きてきた香香丸にとって、私という妹だけがこの暗闇の世界を照らす唯一の光なのだ。


妹の前にしゃがみ込み、その小さな手を必死に守ろうとする兄の姿。

私はその立派に育っていく姿に、胸の奥が熱くなるような深い母性を感じていた。


ああ、私のかわいい香香丸。あんなに小さくて泣き虫だったあなたが、こんなにも頼もしい私のお兄様になってくれるなんて。


私が内心で激しく愛しさに身をよじらせていると、不意に香香丸の眉が鋭くひそめられた。

彼が顔を上げ、私の着物の袖に鼻を近づける。


「……沙羅。この香は……葛城の屋敷で使われているものではないな。ひどく高貴で、重たい……」


彼の鋭い嗅覚と警戒心が、宮中で帝から移り香としてつけられた最高級の香木に反応したのだ。


私は少しだけ驚きながらも、子供らしい無邪気さを装って穏やかに微笑んだ。


「宮中に伺った折に、少し焚き染められただけですわ。気になさらないで、お兄様」


しかし、香香丸の瞳に宿る暗い炎は消えなかった。

彼は私が背負っている危険な遊戯に薄々気づいている。私が実の父親を騙し、裏で強大な力を持つ何者かと結託して、彼のために道を切り拓いていることを。


妹を守るべき兄である自分が、逆に妹の裏工作によって生かされているという事実は、彼の強烈な保護欲と自尊心を激しく刺激するらしかった。


「……俺は、もっと強くならねばならない」


香香丸は私の手を両手で強く握りしめ、自分に言い聞かせるように、低く、熱を帯びた声で誓った。


「この葛城の家を完全に掌握し、俺自身が当主となる。そうすれば、お前にこのような危険な真似をさせる必要はなくなる。……沙羅をお守りするのは、兄であるこの俺だ。他の誰にも、絶対にお前を傷つけさせはしない」


それは、過保護な兄としての、そして頼れる兄としての絶対的な決意の表れだった。


帝の狂気的な執着と、兄の妹に対する深く重い愛。

二つの強烈な矢印を一身に受けながら、私はただ静かに微笑みを返した。


盤面の駒は、すべて完璧に揃った。

愚かな景冬も、傲慢な鈿芽も、自分たちの足元が完全に崩れ去っていることにまだ気づいていない。



彼らの破滅へのカウントダウンは、もう止められないところまで来ていた。

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