第十三帖
あの一夜の処刑劇から、季節は静かに、しかし確実に巡っていった。
葛城の家を覆っていた長く暗い呪縛は、冬の冷たい風と共に完全に都から吹き払われていた。
かつて権力の絶頂に立ち、私と愛するお兄様を理不尽に虐げた者たちの末路は、あまりにも惨めで、そして呆気ないものだった。
すべての実権を奪われ、完全に心が折れて廃人と化した景冬は、葛城の屋敷から遠く離れた辺境のうらぶれた寺へと送られた。もはや自分の名前すらまともに口にできなくなったかつての美丈夫は、ただ薄暗い御堂の隅でうずくまり、見えない何かに向かって許しを乞うだけの抜け殻として、残りの惨めな余生を消化していくこととなった。
そして、名門の威光を笠に着て横暴の限りを尽くした鈿芽と、その息子である御雷丸。
実家が横領と大逆罪で取り潰された彼らは、身分を平民にまで落とされ、都を追放された。
特権階級の誇りだけで生きてきた彼女が、泥にまみれて日々の食事にも事欠く生活にどれほど耐えられるかはわからない。ただ、確かなことは、彼らが二度と私や香香丸の前に姿を現すことはないという、完全なる排除の事実だけだった。
葛城の家は、十二歳という若さで当主となった香香丸の手によって、かつてないほどの強固な統治体制を敷いていた。
彼は不要な派閥や腐敗した家臣たちを冷酷なまでに切り捨て、実力と忠誠心のみを重んじる新しい風を屋敷に吹き込んだ。
この若き当主の姿に、一族の長老たちも深く平伏し、葛城の家は絶対的な盤石さを手に入れたのだ。
ただ愛する妹を守り抜くという強烈な行動原理だけで動いているとは、彼らは知る由もなかったが。
私の悲願であった、香香丸を誰も手出しできない絶対的な安全圏へ導くことは、ここに完璧な形で達成された。
愛する息子にして頼もしい兄である彼を理不尽な悪意から守り抜き、この手で最も高い場所へと押し上げた。その果てしない達成感と安堵感が、私の胸の奥に澱んでいた前世からの重たい執着を、春の雪解けのように優しく溶かしていった。
私はもう、過去の因縁に縛られる必要はない。
これからは、私自身の新しい人生を、ただ穏やかに生きていけばいいのだ。
春の柔らかな陽光が降り注ぐ、宮中の広大で美しい庭園。
色鮮やかな花々が咲き乱れ、甘い香りを運ぶ穏やかな風が吹き抜けるその楽園の中央で、私は優雅なお茶会の席についていた。
入内を果たし、正式に帝の妃として後宮に入った私の毎日は、かつての隙間風が吹き込む離れでの生活が嘘のように、途方もなく豪奢で満ち足りたものだった。
最高級の薄紅色の絹で仕立てられた美しい打掛を羽織り、私は用意された甘い茶菓子をゆっくりと口へ運んだ。
「沙羅。今日の茶は特別に異国から取り寄せたものだ。お前の口に合うといいのだが」
私の正面に座り、ひどく上機嫌な声で話しかけてくるのは、若き絶対権力者の帝だ。
彼は公式な場で見せる冷酷な覇王の顔を完全に隠し、今この瞬間だけは、ただの一人の少年として私に無邪気な笑みを向けている。
そして私の隣には、護衛という名目で宮中に入り浸り、片時も私のそばから離れようとしない過保護な葛城家当主、香香丸が静かに控えていた。
「はい、帝様。とても香りが良くて、素晴らしいお味です。いつも私のお気に入りのお菓子までご用意してくださって、感謝いたします」
私がふんわりと微笑んで答えると、帝は満足げに目を細めた。
「当然だろう。私の愛しい妻には、この世の最も美味なるものだけを与えたいからな」
帝は立ち上がり、気怠げな、しかしひどく洗練された足取りで私のそばへと歩み寄ってきた。
そして私の隣に座り込むと、ためらうことなく私の腰に腕を回し、ぐいっと強引に自らの胸元へと引き寄せた。
「私の妹から離れてください、帝」
すかさず香香丸が鋭い声を上げ、私のもう片方の袖を強く握りしめた。
その涼やかな瞳には、帝に対する敬意よりも、愛する妹を奪われまいとする猛犬のような威嚇の色が濃く滲んでいる。
しかし帝は、香香丸の殺気などそよ風程度にしか感じていないように鼻で笑った。
「うるさいな。沙羅は私の妃だ。夫が妻を抱きしめて何が悪い。……なぁ、沙羅? お前も、兄の顔ばかり見るのはもう飽きただろう? これからは私だけを見て、私の腕の中だけで甘やかされていればいいんだ」
帝は私の耳元に顔を寄せ、大人の男のように低く、そしてねっとりとした甘い声で囁いた。
その吐息の熱さと、将来誰も逆らえなくなるであろう覇王としての重たい独占欲。少年とは思えないその危うい色気に、私は思わず背筋をぞくりと震わせた。
このまま強引に口付けでもされるのではないか。
私がわずかに身をこわばらせ、恐る恐る顔を上げて、間近にある彼の完璧な顔を真っ直ぐに見つめ返した、その瞬間だった。
「……っ」
私と正面から視線が交差した途端、大人の余裕を気取っていた帝の動きが、ピタリと止まった。
彼の白磁のように滑らかな頬が、みるみるうちに耳の先まで真っ赤に染まっていく。
私を抱き寄せていた腕の力が不自然に抜け、彼はひどく狼狽したように視線を泳がせた。
「な、なんだ、その目は……。そんなに見つめられると、その……調子が狂うだろう……っ」
あんなに威圧的で強引だった若き覇王が、たった一度私に真っ直ぐ見つめ返されただけで、年相応の純情な少年のように激しく照れてしまったのだ。
結局、彼はそれ以上私に甘い言葉をかけることも、口付けることもできず、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
私はそのあまりにも可愛らしいギャップに、内心で吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
ふふっ、やっぱりまだ我儘な子供の男の子じゃない。言葉ではあんなに恐ろしいことを言うのに、いざとなると照れて何もできないなんて。
私が守ってあげなければと気を張っていたお兄様への母性とも違う。生意気で強引なくせに、私の前でだけは純情になってしまうこの絶対権力者が、なんだかたまらなく愛おしい推しのように思えてくる。
しかし、ただ可愛いだけではないのだ。
照れて顔を赤くしながらも、私を抱き寄せるその腕は決して離そうとしない。その奥底に潜む、私という存在をこの世の何よりも渇望し、絶対に独占するという途方もなく重い狂気。
その計り知れないギャップに、私はただの子供相手だと思っていたはずの心臓が、自分でも驚くほど大きく、そして甘く跳ねるのを感じていた。
これは、前世の打算や恐怖にまみれた感情とは全く違う。
私の新しい人生に落ちるであろう、本当の、甘く危険な恋の予感だった。
「ほら、帝。お顔が赤うございますよ。沙羅が困ってるではありませんか。さあ、私の方へ、沙羅」
香香丸がすかさずその隙を突き、私の肩を抱いて帝から強引に引き剥がした。
そして、私を自分の大きく頼もしい背中の後ろに隠すようにして、帝を冷ややかに見下ろした。
「帝といえど、妹をお守りするのは兄である私の役目。いくら勅命があろうとも、そう簡単にはお渡しできません」
「なんだと、香香丸! 沙羅は私のものだ! 私以外の男の背中に隠れるなど、絶対に許さない!」
「いいえ、沙羅は私の、世界で一番大切な妹です。どこの馬の骨とも知れぬ男から、たとえそれが帝であろうと、私が全力でお守りいたします」
「誰が馬の骨だ! 私は天下の主だぞ!」
若き覇王の底知れぬ独占欲と、過保護な若き当主の狂信的な嫉妬心による、あまりにも微笑ましく、そして容赦のない奪い合い。
春のうららかな庭園に、二人の少年の言い争う声が賑やかに響き渡る。
私は香香丸の頼もしい背中の後ろから、顔を真っ赤にして怒る帝の姿を見つめ、思わずふふっと声に出して笑ってしまった。
ああ、なんて騒がしくて、なんて幸せな日々だろう。
飢えと寒さに震え、絶望の中で散っていった前世の私が、今のこの景色を見たら、一体どんな顔をするだろうか。
私は両手で自分の頬をそっと包み込み、春の暖かな日差しに向かって目を細めた。
二つのあまりにも重すぎる愛情の矢印を一身に受けながら、私の新しい人生は、どこまでも明るく、そして幸せな大団円へと続いていく。
『春の野に 咲きいづる花 散らさじと
囲う御手こそ 永久の春なれ』
春の野に咲き誇る花(私)を、決して散らすまいと大切に囲い込んでくださる、その両手のひら(過保護な鳥籠)の中こそが、私にとっての永遠の春なのです。
(完)










