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灰かきの少年

春とはいえ、まだ息は白い。

ほんの少しだけかじかんだ手に息を吹きかける。


いつものように列に並んだ。自分の番が来る。ぺらぺらした紙に、名前と年齢と前の職業を書く。早川俊太、13歳、中学生。それだけ書いて、受付のおばさんに渡す。


「はいはい。いつもごくろうさん。いつもどおりで大丈夫かしら?」

「ええ。大丈夫です。よろしくお願いします。」


おばさんはぺらぺらの紙に今の時刻を書いて、自分の名前を書いて、それからそれをもう1回確認してから、僕に手渡した。


ぺらぺらの紙を折りたたんでポケットに入れる。それから受付のように運動会のテントが並んでいるところに行く。地面にはブルーシート、さらにその上に、ここで働く者が勝手に持ち込んだ段ボールやら毛布やらが無造作に置かれている。相変わらず砂にまみれていた。


その横をすり抜けると、スコップやバケツや一輪車がつみあがっている場所がある。ここで手ごろなスコップとバケツを選んだ。30番のスコップに、62番のバケツ。今日の相棒だ。


その横に、目立つ腕章をつけたおっさんが立っている。


「どこに行けばいいですか?」

「おうボウズ。そうだな。昨日と同じ、あっちのブロックに行ってくれ。」



言われたところに行って、足元の火山灰をひたすらすくってはバケツに入れる。バケツがいっぱいになったら一輪車やリヤカーのところに持っていって捨てる。これの繰り返しだ。


これが俺の仕事さ。


かっこよくつぶやいてみた。僕もやっぱり中学生だ。





噴火の時、両親は親戚の結婚式のために九州に行っていた。必死に自宅へ帰ろうとしたが、後1歩のところで封鎖にあってしまった。


両親は散々抗議し、密入国(僕たちの間では、封鎖地域に外部の人間が入ろうとすることをこう呼んでいた。)までしようとしたが、すんでのところで見つかってしまったらしい。幸い通信環境はある程度復旧したので、お互いの無事は確認できた。


今、両親は浜松の知り合いの持っているアパートの1室を借りて生活しており、そこから必要なものを送ってくれる。封鎖への反対や、住民やボランティアの出入りの自由などを訴えて、いろんな運動に参加しているらしいのだが、ウイルスの問題が解決しない限り、封鎖は解かれないだろうという状況らしく、肩を落としていた。


家は2階の部屋がいくつか砂まみれになったくらいで、住むことはできる。小学生の妹と、1階のリビングとキッチンを使えばまったく問題はなかった。配給や避難所の炊き出しをもらいながら、何とか生きている。


両親が外に残されたのは、ある意味幸運だった。両親からヘリコプターや特別トラックで送られてくる荷物やお金は、僕らの生活を豊かにしてくれた。


近所の人も気にかけてくれて、一緒に住もうとまで言ってくれた。僕らは「留守を守りたい」と断ったが、それでも協力してくれた。今でもそうだ。お互いに助け合いながらなんとかやっている。


学校は無期限の休校状態だった。1週間に1度、大学生や先生が交代で避難所に巡回に来てくれる。その時に避難所となっている学校に行って、少しだけ勉強する。自習を心がけてはいるが、やはり気がかりだった。


配給はあったけれど、復興にも協力したかったし、とにかく何かしたくて、誰でも大歓迎の、灰かきの仕事を始めて、もうずいぶん経つ。





休憩や昼食は勝手だ。いや、出勤退勤も自由だ。手続きが面倒なので、運動会テントの下で持ってきたビスケットを食べる。ただしあまり長い時間休んでいると、監督のおっさんにどなられてしまう。


食べ終わると、改めて布マスクを付けて、その上からマフラーで顔までぐるぐると巻いてしまう。それから帽子を被って、また作業を始める。


5時になるとベルが鳴る。スコップとバケツを返して、ぺらぺらの紙を受付に持っていく。おばちゃんが今日の給料を計算して、渡してくれる。


500円玉1枚と、100円玉が3枚。


それをポケットに入れて、家路につく。


途中、闇市場に入っていく。いつものうどん屋で、80円ばかりのうどんを頼む。それを思いっきりかっこんだ。それから100円で肉を少しだけ買って帰る。きっとこれは明日の朝飯か夕飯になるのだろう。



妹が待つ家にむかって、歩いていく。夕日に浮かぶ富士山のシルエットは、今日もきれいだ。


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