第一話 第二節「いつ来るんだ」
【12月20日 3:06】
大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
よし、落ち着け。
まず何から聞くか、だ。それは当然――。
「レイは何者なんだ。
宇宙人、なのか?」
「半分正解で半分間違いなのだ。
先ほど拝也が自分の名前を作ったとき、『グレイ』と言っていたのだ?
地球人の言う『グレイ』は、正確には、レチクル座ゼータ連星系に属する惑星の知的生命体のことなのだ。
自分は、そのグレイに造られた合成人間なのだ」
そこまで聞いた俺は、レイに向かって無言で片手を開き、「待て」とジェスチャーする。
予想どおりだが、一つ一つ整理してゆっくり噛み砕かなけりゃ、全ッ然頭に入ってこねぇ。
とりあえず、レイは人間じゃない。俺のよく知るグレイに造られた――。
「ん?グレイそのものじゃないのか?」
「違うのだ。グレイはまだ地球に入れないのだ。
自分は、防壁に穴を開けて出来る限りの調査を行うよう指示されているのだ」
ああクソ、一つの疑問が次の疑問に繋がっちまう。
「あ〜。すまん、分かるように教えてくれ。
まだ地球に入れない?防壁ってなんだ?」
「原理は解明できていないのだが、知的生命体を有する星の多くは、異星人の侵入と活動を拒むのだ。
何より、今の地球の大気は汚染が酷すぎて、まともに活動が出来ないのだ」
「異星人は今までにいっぱい目撃されてるじゃねぇか。そりゃ、中にはフェイクニュースもあるだろうが…」
「それらは、地表や空中に投影された映像なのだ。『穴』を開けなければ、異星人が真の意味で侵入することは不可能なのだ」
「なんなんだよ、その『穴』って」
「その星の知的生命体と同一の遺伝子構造を持つ生命体ならば、防壁に穴を開けて侵入できるのだ。
自分はそのために、長期の研究を経てようやく完成した初めての成功例なのだ」
自慢げに胸を張るレイは、確かにどこから見ても人間にしか見えない。その自慢げな部分にさりげなく視線を落としたところで――。
「お待たせしました〜。チョコバナナパフェでぇす」
無慈悲なる店員が来た。
ヤツは、これでもかと甘味を詰め込んだ物体Xを手に取り、俺の視線を寸断する形でテーブルに置きやがった。
「ごゆっくりどうぞ〜」
うるせぇ!
「おお…。これが、年頃の女子が好むというスイーツなのだな。映えるヤツなのだな。
腹が減っていたのだ。さっそくいただくのだ」
スチャリとスプーンを構えると、レイは生クリームをたっぷりとすくい上げ、躊躇なくパクっといった。
――次の瞬間。どちらかというとクール寄りだったレイの顔が、一気にほころんだ。
「んほぉぉぉ!甘い!甘いのだ!
なんと刺激的で、暴力的な……。
これが『甘い』という味覚なのだ⁈
のう、拝也!のう⁈」
「ちょ、ちょっと落ち着け、他の客もいるから。
話は後でいいから、落ち着いてソレ食っててくれ」
この時間でよかった。慌てて店内を見回したが、オッサン一人がうるさそうにジロリと一瞥してきただけで済んだ。
俺の言葉に無言で頷くと夢中でスプーンを進めるレイをよそに、俺はさっきの話を必死に整理する。
つまり――。
①地球は宇宙人の侵入を拒んでいる。
②当然、グレイも宇宙人なので入れない。
③そこでグレイは地球人と同じ遺伝子構造のレイ
を作って送り込んだ。
――ってことか。
ん?いや待て、おかしいだろうが。
疑問をぶつけようと顔を上げると、パフェを綺麗に平らげたレイが、名残惜しそうに空のグラスを見つめていた。
早い。
「レイ。さっきのレプティリアンも地球人と同じ遺伝子で出来てるってことなのか?どう見てもトカゲ人間だったが」
レイの表情がすこし曇る。
「アレは自分の宇宙船にこっそり乗り込んで、自分が開けた穴を勝手に使って入り込んでしまったのだ。
このままでは地球の危機なのだ」
「苦労して開けたドアに一緒に入ってきたって訳か。
――でもなんで地球全体の危機なんだよ。
さっきの一匹だけじゃないってことか?
それともその穴を使って次々入ってくるってことか?」
「アイツは一匹だけなのだ。
それに穴はすぐ閉じるのだ。
――問題は、既に地球上にいる生物には防壁が作用しないということなのだ」
は?いや、待て。待て待て待て。
「待て。それ――具体的にどうなるんだ」
「拝也がレプティリアンと呼ぶ知的生命体全てが、自由に地球に入れるようになるということなのだ。
ヤツらは他の星を荒らすのが大好きだから、喜んで押し寄せてくるのだ」
めまいを感じた俺は、強く瞼を瞑った。
――大袈裟でもなんでもない、マジで地球の危機じゃねぇか。
「いつ来るんだ」
「自分が地球に降りたのは昨日の朝のことなのだ。
アイツはすぐに信号を出したから、それが太陽系外縁の巡回船団に到達するのに約十六時間。――もう届いてるのだ。
そこから船団が全速力で向かって来るだろうから―― 船団の速度から計算すると、地球到達まで、今から約百二十時間なのだ」
話が急すぎて頭がうまく回んねぇ。百二十時間って……。
「約五日、なのだ」




