第五話 ざまぁの榊の悪役令嬢物。『婚約破棄されたので全員に相応の報いを受けてもらいます』
## 榊編
エレナ・ヴァルモント公爵令嬢は、王太子アルベルトから婚約を破棄された。
聖女ミリアを虐げたという、身に覚えのない罪を着せられて。
家族は彼女を庇わなかった。
貴族たちは笑った。
国民もまた、悪女が裁かれたと喝采した。
エレナは国外へ追放された。
だが、その後。
隣国の王子レオンに見初められた。
レオンは彼女の無実を知り、彼女を愛し、やがて二人は結婚した。
ここまでは、それほど重要ではない。
本当に重要なのは、その後だった。
「エレナ」
レオンは言った。
「君を傷つけた者たちに、相応の報いを受けさせよう」
エレナは静かに彼を見た。
「そこまでしてくださるのですか?」
「当然だ」
まず、アルベルト元王太子。
レオンは外交交渉の末、彼を王位継承権から外させた。
それだけではなかった。
「今後、君には立って生活してもらう」
「……立って?」
「正確には、空気椅子だ」
「え?」
アルベルトは壁に背をつけ、膝を九十度に曲げた。
「待て。これは何の意味がある」
「エレナを公衆の面前で立たせ、断罪したそうだな」
「それとこれとは」
「同じだ」
「全然違う!」
「一生だ」
「一生!?」
こうしてアルベルトは、一生空気椅子で暮らすことになった。
食事も。
読書も。
謁見も。
睡眠も。
「寝られない!」
「工夫しろ」
次に。
エレナの断罪を支持した国民たち。
レオンは旧王国との和平条約に、新たな条項を加えた。
《全国民、歯科矯正を受けること》
「なぜだ!」
国民たちは叫んだ。
「必要ない者まで!?」
「義務だ」
装置が取り付けられた。
定期的にワイヤーが締め直された。
硬いパンが食べにくい。
口内炎が痛い。
何かを噛むたびに歯が疼く。
「痛い……」
「いつまで続くんだ……」
「数年だ」
「長い!」
かつてエレナを罵倒した広場には、絶え間ない歯の痛みに苦しむ人々の声が響いた。
そして聖女ミリア。
「あなたは虚偽の証言によってエレナを陥れた」
レオンは言った。
「よって、運転免許を剥奪する」
ミリアは青ざめた。
「そんな……」
「永久にだ」
「待ってください」
「何だ」
「この国、車社会ですよ?」
「知っている」
「最寄りのスーパーまで車で二十分ですよ?」
「歩け」
「駅もないんですよ!?」
「歩け」
「病院は!?」
「バスがある」
「一日二本しかない!」
「計画的に動け」
ミリアは崩れ落ちた。
「そんな……免許なしで、どうやって生きていけば……」
レオンは冷たく見下ろした。
「それを考えるのも、罰だ」
最後に。
エレナの両親。
断罪の日。
父も母も、彼女を見捨てた。
娘の言葉を信じず、家名を守るためだけに追放を受け入れた。
「二人には、私自身が復讐します」
エレナはそう言った。
両親は身構えた。
だが、処刑されることも。
財産を奪われることも。
牢に入れられることもなかった。
数日後。
エレナは一つのブログを開設した。
タイトルは、
《公爵令嬢だった私が毒親に育てられた話》
第一回。
《幼少期、褒められた記憶がありません》
第二回。
《家名のためなら娘の気持ちは無視する父》
第三回。
《母に言われた「あなたは公爵家の娘なんだから」の呪い》
第四回。
《断罪の日、両親は私を見捨てました》
記事は瞬く間に拡散された。
《これ親ひどくない?》
《普通に毒親》
《娘より家名》
《父親最悪》
《母親も止めろよ》
翌朝。
父が震える手で新聞を握っていた。
「エレナ……」
母は顔を覆っていた。
「社交界で、みんなが私たちを見るの……」
「知らない人まで記事を読んでいる……」
「昨日、伯爵夫人に『ブログ拝見しました』と言われた……」
二人は外へ出られなくなった。
ブログはさらに伸びた。
ついには書籍化の話まで来た。
エレナは出版社から届いた契約書を見て、静かに笑った。
「やっと、私の話を聞いてもらえました」
その頃。
元王太子は空気椅子を続け。
国民は歯を痛め。
聖女は徒歩でスーパーへ向かい。
両親は毒親ブログのコメント欄を見て眠れない夜を過ごしていた。
エレナは隣国の王宮で紅茶を飲んだ。
「少し、やりすぎではありませんか」
レオンが尋ねた。
エレナは首を横に振った。
「いいえ」
そして、穏やかに微笑んだ。
「相応です」
☆☆
【kとの質疑応答】
『素晴らしい!』
『これだ! これこそ榊君だ!』
Kの声には、これまで以上の熱がこもっていた。
『追放! 隣国の王子! 結婚! そこまでは大胆にダイジェスト!』
『なぜなら重要なのは、その後だからだ!』
榊が静かに頷いた。
「分かっているな」
『もちろんだ! 物語の中心は恋ではない! 報復だ!』
『王太子には一生空気椅子!』
「うん」
『国民には歯科矯正!』
「うん」
『聖女には運転免許剥奪!』
「うん」
『両親には毒親ブログ!』
『断罪の仕方が見たことのないものばかりだ!なんて癖が強い!』
榊は満足そうだった。
「俺は24時間、ざまぁのことだけを考えている。普通の断罪では満足できないのさ」




