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第四話 百合の大谷の悪役令嬢物。『転生した悪役令嬢は、もう一度あなたに恋をする』

 朝。


 目を覚ました私は、最初に天井を見た。


 見覚えのない天井だった。


 白い天蓋。

 薄桃色のカーテン。

 磨かれた家具。

 鏡台の上には、見たこともない宝石箱が並んでいる。


「……ここ、どこ」


 起き上がって、鏡を見た。


 金色の髪。

 青い瞳。

 自分ではない顔。


 けれど、その顔には見覚えがあった。


「嘘……」


 エレナ・アルフォード。


 前世で遊んでいた乙女ゲーム『聖女と白薔薇の誓い』に登場する悪役令嬢。


 王太子の婚約者であり、ヒロインを虐げた罪で最後には断罪される女。


 私は、そのエレナに転生していた。


「お嬢様?」


 扉が開いた。


 一人のメイドが入ってくる。


「大丈夫ですか? 先ほどからお返事が――」


 私は、その顔を見た。


 時間が止まった。


「……彩音?」


 メイドの表情が変わった。


「え」


「彩音」


 私はベッドから飛び降りた。


「会いたかった」


 そのまま抱きついた。


「ちょ、お嬢様……?」


「彩音。彩音、彩音……」


「……まさか」


 腕の中で、彼女の身体が震えた。


「その呼び方……」


 私は顔を上げた。


「私だよ」


「……」


「美咲」


 彩音の目から涙が落ちた。


「美咲……?」


「うん」


「本当に?」


「本当に」


 次の瞬間、今度は彩音の方から抱きしめられた。


「会いたかった……」


 声が震えていた。


「ずっと会いたかった」


「私も」


「もう二度と会えないと思ってた」


「私もだよ」


 二人で泣いた。


 どうしてこの世界に来たのか。


 なぜ私は悪役令嬢で、彩音はそのメイドなのか。


 そんなことは、今はどうでもよかった。


 前世で、私たちは恋人だった。


 事故で私が死ぬ、その日まで。


 それだけで十分だった。


 その夜。


 私たちは屋敷の庭に出た。


 この世界の空には、見たこともないほど多くの星が浮かんでいた。


 彩音の手を握る。


 彩音も、握り返した。


「今度は」


 彩音が言った。


「ずっと一緒にいられるかな」


「いるよ」


「でも、美咲は王太子の婚約者なんでしょう?」


「知らない」


「え?」


「そんなの、どうでもいい」


 彩音が笑った。


 私も笑った。


「今度こそ離れない」


「うん」


「何があっても」


「うん」


 私たちは手を繋いだまま、星を見上げた。


 国も。


 身分も。


 婚約も。


 悪役令嬢の運命も。


 全部、私たちの間には入れない。


「愛してる」


「私も」


 星空の下で、私たちは永遠の愛を誓った。

☆☆

【kとの質疑応答】

『素晴らしい!』


『いや、これは鮮やかだ! 悪役令嬢に転生したと思った次の瞬間には、もう前世の恋人と再会している!』


 Kは明らかに感心していた。


『大谷君、一つ聞きたい』


「何だ」


『なぜ、相手をメイドにした?』


「近くにいるからだ」


『なるほど』


「目覚めてすぐ会える」


『なるほど!』


「一瞬も百合を待てなかった」


 Kは黙った。


 数秒後。


『……素晴らしい』


『普通ならまず悪役令嬢としての状況を確認する! 王太子との関係! 断罪の未来! ゲーム世界の設定! だが君は違う!』


 大谷は静かに頷いた。


『百合を一瞬も待たなかった!』


「待つ理由がない」


『潔い!』


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