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第二話 文句の斎藤の悪役令嬢物。『目が覚めたら乙女ゲームの悪役令嬢だったので、十一年後の婚約破棄と国外追放を回避するため、まず王国の制度と公爵家を取り巻く情勢を整理します』

 俺が悪役令嬢に転生した理由を説明するには、まず前世について説明しなければならない。


 俺は日本に住む三十二歳の会社員だった。


 別にブラック企業に勤めていたわけではないし、トラックに轢かれたわけでもない。


 金曜日の夜、自宅で『聖女マリアと七人の王子』という乙女ゲームを遊んでいた。


 このゲームについても説明が必要だろう。


『聖女マリアと七人の王子』は、平民として生まれながら強大な光魔法を持つ少女マリアが、王立アルヴェリア魔法学院に入学し、七人の攻略対象と交流しながら魔王復活を阻止する恋愛シミュレーションゲームである。


 舞台となるアルヴェリア王国は、大陸中央部に位置する人口約八百万人の封建国家だ。


 北部には鉄鉱山があり、南部では小麦の生産が盛んで、西部には隣国エルガントとの交易路がある。


 なお、貨幣制度について説明すると、金貨一枚が銀貨二十枚、銀貨一枚が銅貨五十枚に相当する。


 この換算比率が後々重要になる。


 たぶん。


 そして、この世界には魔法が存在する。


 魔法は火、水、風、土、光、闇の六属性に分類され、生まれつき一人につき一属性を持つのが原則である。


 ただし王族には二属性持ちが多い。


 これは建国王アルベルト一世が火と光の二属性を持っていたことに由来する。


 アルベルト一世についても説明しておこう。


 彼は今から四百二十七年前――


 いや、これは今はいい。


 重要なのは俺だ。


 俺が転生したのは、このゲームに登場する悪役令嬢、エリザベート・フォン・クラウゼン。


 クラウゼン公爵家の長女である。


 なぜ男だった俺が令嬢になったのか。


 分からない。


 ただ、転生直前の状況については覚えている。


 俺はゲームをしながら寝落ちした。


 そして目覚めると、五歳のエリザベートになっていた。


 つまり死亡したのかどうかすら分からない。


 ここは読者として気になるところだと思う。


 俺も気になる。


 しかし確認する方法がない。


 さて、クラウゼン公爵家について説明しよう。


 クラウゼン家は王国東部に広大な領地を持つ四大公爵家の一つで――


 いや、その前に四大公爵家とは何かを説明した方がいい。


 アルヴェリア王国には、公爵家が全部で六家存在する。


 そのうち建国以前から続く四家を、俗に四大公爵家と呼ぶ。


 残り二家は三代前の国王の治世に新設された。


 ちなみに爵位の序列は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵である。


 ただし辺境伯については侯爵と伯爵の中間というわけではなく――


 ここも今はいい。


 とにかく俺は、ゲーム開始時点で十六歳。


 第一王子アルフォンスの婚約者。


 そしてヒロインであるマリアを執拗にいじめ、最終的には卒業記念舞踏会で罪を暴かれ、婚約破棄された上で国外追放される。


 いわゆる悪役令嬢だ。


 なお、国外追放後のエリザベートについてゲーム中では描写されない。


 つまり死ぬかどうかは不明である。


 だからこそ俺は、この未来を変えなければならない。


 そのためにはまず、アルフォンスとの婚約をどうにかする必要がある。


 しかし王族との婚約は個人間の問題ではない。


 クラウゼン家と王家の政治的関係、東部領の軍事的重要性、四大公爵家内部の派閥、隣国との外交関係――それらすべてが絡んでいる。


 単純に「婚約をやめたい」と言えば済む話ではないのだ。


 そして何より。


 あと十一年後。


 マリアが王立アルヴェリア魔法学院へ入学する。


 その瞬間から、ゲームの物語が始まる。


 俺は窓の外に広がるクラウゼン領を見つめた。


 この世界で生き延びるために。


 破滅の運命を回避するために。


 俺にできることを、今から始めなければならない。


 俺たちの戦いは、これからだ。

☆☆☆

【kとの質疑応答】

『素晴らしい!』


「どこがだよ」


『実に斉藤君らしい!』


「嫌な褒め方だな」


『悪役令嬢に転生した理由を説明し、ゲームの設定を説明し、国家制度を説明し、貨幣制度を説明し、魔法体系を説明し、貴族制度を説明し――』


「並べるな」


『そして何も起こらない!』


「起こる前に終わっただけだ」


『これだよ! 私はこういうものが読みたかったんだ!』


 Kは明らかに興奮していた。


『作者本人は必要だと思って全部書いている! そこがいい!』


「絶賛されてる気がしない」


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