第一話 集められた6人の男たち
目を覚ますと、知らない部屋にいた。
白い壁。
窓はない。
出口らしい鉄扉には、内側から開けられそうなものが何も付いていない。
部屋の中央には長机があり、俺を含めて六人の男が座っていた。
「……誘拐された、でいいんだよな」
俺が言うと、何人かがこちらを見た。
そのとき、正面の壁が光った。
モニターだった。
顔を影で隠した男が映っている。
『目が覚めたようだね』
「誰だ」
『私はK。諸君をここへ集めた者だ』
「やっぱり誘拐か」
『そう理解してもらって構わない』
構うだろ。
『目的は一つ。諸君には短編小説を書いてもらう』
誰も反応しなかった。
『題材は――悪役令嬢だ』
全員が画面を見た。
『私は素人の書く悪役令嬢ものが大好きでね。完成されすぎていないものがいい。作者の趣味、癖、思想、欲望。そういうものが隠しきれずに滲み出ている作品ほど素晴らしい』
「そのために六人も攫ったのか」
『そのためだ。私はねえ。人生のすべてで成功を収めてきた。だが素人の書いた悪役令嬢ものを見なければ興奮できなくなってしまったのだよ。そこでこの闇のゲームを開催することにする』
「狂ってる。どういう基準で選んだんだよ」
俺は周囲を見た。
制服姿の高校生までいる。
『良い質問だ、斉藤君』
Kの声が弾んだ。
『では紹介しよう』
「紹介?」
『そうだ。諸君は私が三か月かけて選び抜いた、最高の六人だ!』
嫌な予感がした。
画面に文字が出る。
《斉藤――文句の斉藤》
「やめろ」
『まずは斉藤。あらゆる作品を読み、あらゆる作品に文句をつける男!』
「誤解を招く紹介をするな」
『主人公に魅力がない。展開が雑。設定が甘い。終盤が弱い。だが自分では――』
「もういい」
『なかなか書かない!』
「そこ強調するな」
『私は見たい。批評だけは一流の男が、いざ自分で書いた時に何を出すのか!』
「帰せ」
『素晴らしい素材だ』
「素材って言うな」
Kは勢いよく次へ進んだ。
《屑木――哲学の屑木》
屑木が少し顎を上げた。
『何を書かせても哲学になる男!』
屑木は満足そうに目を細めた。
『恋愛を書けば愛とは何かを問い、料理を書けば食べるとは何かを問い、犬を書けば人間とは何かを問う!』
「悪くない紹介だ」
「誇らしげになるなよ」
『悪役令嬢という記号を前に、彼はいったい何を問い始めるのか!』
屑木は静かに言った。
「悪とは、誰が決めるのか」
『そう! それだ!』
「もう始まってるじゃねえか」
《吉田――パクリの吉田》
吉田が背筋を伸ばした。
『圧倒的既視感! どこかで見た設定! どこかで聞いた展開! しかし本人に自覚はない!』
吉田は少し照れたように笑った。
「まあ、影響は受けやすいですね」
「褒められてないぞ」
『魔法学校! 特別な血筋! 巨大な壁! 失われた指輪! 選ばれし少年! すべてを自然に自作へ取り込む男!』
「アイデアの幅が広いってことですかね」
「違うと思う」
『悪役令嬢という巨大ジャンルに彼を放り込んだら何が起こるのか! 私は非常に楽しみだ!』
「任せてください」
「任せるな」
《鈴木――高校生鈴木》
鈴木が画面を見た。
『高校生!』
鈴木は少し胸を張った。
「はい」
「そこ誇るところか?」
『悪役令嬢の知識、ほぼゼロ!』
「逆に新鮮ってことですよね」
「前向きだな」
『既存の文法を知らない! だからこそ常識に縛られない!』
鈴木が得意げになった。
「たしかに」
『私は期待している! 何も知らない高校生が悪役令嬢を書いた時、それを悪役令嬢と呼んでいいのかどうかすら分からない作品が生まれることを!』
「やってみます」
「何で乗り気なんだよ」
《大谷――百合の大谷》
大谷が明らかに嬉しそうな顔をした。
『あらゆる関係性を百合へ変換する男!』
「変換ではない。あるべき形に戻している」
『その思想! 素晴らしい!』
「お前ら分かり合うな」
『男がいれば女にする! 恋敵が男なら女にする! 主人公が男でも女にする!』
大谷は腕を組み、満足そうに頷いた。
「基本だな」
「基本じゃない」
『そして悪役令嬢は、最初から女性が多い!』
「理想的だ」
『私は今回、彼に最も恵まれた舞台を与えたと思っている!』
「期待に応えよう」
「何の大会なんだよこれ」
最後に表示された。
《榊――ざまあの榊》
榊がゆっくりと顔を上げた。
『復讐の申し子!』
榊の口元がわずかに上がった。
『主人公を見下した者は没落! 裏切った者は破滅! 捨てた恋人は後悔! 追放した組織は崩壊!』
「当然だ」
『少し嫌味を言った者にも相応の報い!』
「当然だ」
「相応か?」
『そして悪役令嬢ものには、婚約破棄、断罪、追放がある!』
榊が初めてはっきり笑った。
「いい題材だ」
『そうだろう!』
「なんで意気投合してるんだよ」
Kは画面の中で両腕を広げた。
『文句の斉藤! 哲学の屑木! パクリの吉田! 高校生鈴木! 百合の大谷! ざまあの榊!』
五人は、それぞれまんざらでもなさそうな顔をしていた。
俺だけだった。
この状況をおかしいと思っているのは。
『素晴らしいメンバーだ!』
「どこがだよ」
『これだけ異なる才能が一堂に会したことを、私は奇跡だと思っている!』
「お前が攫ってきたんだろ」
『さあ諸君!』
Kの声が高まる。
『最高の悪役令嬢を私に見せてくれ!』
隣を見る。
屑木はもう考え込んでいる。
吉田は自信満々だ。
鈴木は妙にやる気になっている。
大谷は嬉しそうだ。
榊は完全に獲物を見つけた顔をしている。
俺だけが思った。
なんでこいつら、喜んでるんだ。




