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世紀末な後始末  作者: 柊隼凌
第三章 運命の綻び
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#60 新たな縁

坂巻の目の前に、空から二人の子供が降ってきた。


白髪の少年――りゅと。

そして、炎の力を宿す少女――あち。


それが、坂巻にとって新たな縁の始まりだった。


三蔵から聞かされていた“神憑き”と“神持ち”という言葉。

それまで半信半疑だった概念は、りゅととあちを天眼で見たことにより、初めて現実のものとして坂巻の中に形を持った。


りゅとは神の力を宿した道具を扱う神持ち。

あちは、自らの魂に神の力を宿す神憑き。


二人と行動を共にする中で、坂巻は西の集落へと向かい、そこでタマモとナムチという二人の旅人と出会った。


そして、一行は悪魔憑きミュリンとの戦いへと巻き込まれていく。


戦いの末、りゅととあちは別の目的地へ。

坂巻はタマモ、ナムチと共に猫の都へ戻ることになった。


―――――


西の集落を離れ、三人は樹海の中を歩いていた。


挿絵(By みてみん)


先頭を歩く坂巻の少し後ろを、タマモとナムチが並んで進む。


しばらく無言の時間が続いたあと、坂巻がふと思い出したように振り返った。


「タマモさん。ミュリンとの戦いの最後に見せた、あの技……あれは一体何をしたんです?」


「妖刀・魂喰い…だな」


答えたのは、なぜかナムチだった。


坂巻が目を瞬かせる。


「妖刀……?」


タマモは小さく息を吐いた。


「私の刀は、肉体を斬る刀ではないの」

「では……?」


「魂。意識。記憶。そういった、形のないものを斬る刀よ」


坂巻の足が僅かに止まる。


タマモは淡々と続けた。


「あの場にいた蟲たちは、私たちとミュリンの戦いを見ていたでしょう?」

「はい」


「だから斬らせてもらったの。あの戦いに関する記憶をね」

「……記憶を、斬る」


坂巻は思わず振り返り、タマモの腰に差された刀を見る。


見た目は普通の刀だ。

だが、そこに宿る力はあまりにも異質だった。


「そんなことまで出来るんですか……」

「万能じゃないわ。斬れる範囲にも限界はあるし、相手によっては効かないこともある」


ナムチが横から口を挟む。


「でも、あの程度の蟲なら十分だ」

「余計な補足はいらない」


「事実だろ」

「そうだけど」


坂巻は二人のやり取りを見て、少しだけ笑った。


しばらくして、今度は坂巻の方から話題を変えた。


「猫の都についてですが、先に少し説明しておきますね」


タマモとナムチが顔を向ける。


「猫の都は今、大きく分けて二つの柱があります。人間と人獣です」

「人獣?」


「人の姿を取れる獣の者たち、と言えばいいでしょうか。猫又たちもそこに含まれます」


坂巻は歩きながら説明を続ける。


「タマモさんは人獣として猫又五人衆の管理下へ。ナムチさんは人間として、僕の管理下へ入ってもらう形になると思います」


ナムチは特に気にした様子もなく頷いた。


「分かった」


タマモは少し考えたあと、静かに尋ねる。


「管理下、というのは?」

「都内での力関係は、守る者と守られる者です」


坂巻は少し言葉を選ぶ。


「守るだけの強さを持つ者が都を管理する。守られる側の者たちは農業や狩猟、建築や衣食の仕事で生活を支える。今はそんな形になっています」


タマモは黙ったまま聞いていた。


「それで秩序が保たれているなら、私たちは従います」

「管理する側に回るつもりはありませんか?」


「ありません」


即答だった。


「私たちは安寧に暮らせれば、それでいいの。必要とあらば前に立って戦いますが、上に立ちたいわけではないわ」


ナムチも特に異論はないようだった。


坂巻は少し困ったように笑う。


「どちらにしても、僕の一存で決めることは出来ません。それに、お二人の強さを隠しておくことも難しいでしょうし」

「そうね」


「都に着いたら、皆で一度話し合いになると思います」

「指示とあらば、従うまでです」


タマモは淡々と答えた。


その口調には不満も反発もない。


ただ、自分たちが客人であることを理解し、その土地の決まりに従う。

それだけだった。


―――――


さらに数日。


道中、三人の歩調は自然と揃っていった。


坂巻が先を確認し、タマモが周囲の気配を拾い、ナムチが後方を気に掛ける。

誰が決めたわけでもないのに、いつの間にかそんな並びになっていた。


休憩の度に交わす会話は多くない。

それでも、互いに無理に踏み込まない距離感は、坂巻にとって不思議と心地よかった。


やがて木々の隙間から見慣れた中央塔の上部が覗く。


坂巻は足を止め、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。


人を連れて戻ることへの迷いは、まだ消えていない。


それでも今回は、助けを求める者を一方的に連れ帰ったのではない。

自ら猫の都を目指していた二人を案内しているだけだ。


そう自分に言い聞かせるようにして、坂巻は再び歩き出した。


三人はようやく猫の都へと辿り着いた。


外から見れば、以前よりも遥かに大きくなった都。


完成した中央塔。

五芒星を描くように建てられた五つの神社。

その周囲には多くの住居や畑、工房が広がっている。


挿絵(By みてみん)


「……ここが、猫の都」


タマモが足を止める。


ナムチは中央塔を見上げた。


「思ってたよりデカいな」

「でしょう?」


坂巻は少し誇らしそうに笑った。


だが、タマモは都の中へ入ってすぐ、別のことに気づいた。


外周に近い住居は簡素だった。


建物の傷みも目立ち、衣服も質素。

食事の匂いも薄い。


そこから内側へ進むほど、家屋は整い、道具も増え、人々の着ている服も少しずつ良くなっていく。


そして中央塔へ近づくほど、その差ははっきりとした。


タマモは何も言わず、周囲を見渡していた。


坂巻がそれに気づく。


「……何か?」

「いえ」


一度はそう答えたが、やはり気になったのか、タマモは静かに続けた。


「中心へ行くほど、暮らしぶりが良くなるのね」


坂巻の表情が僅かに固まった。


「……そう、見えますか」

「ええ」


それ以上、タマモは何も言わなかった。


責めるでもなく、問い詰めるでもない。


ただ事実として見えたものを口にしただけ。


それがかえって坂巻の胸に重く残った。


―――――


その日のうちに、中央塔では簡単な顔合わせが行われることになった。


集まったのは坂巻、ユアピ、猫又五人衆、鶴子、シュリ。


そして新たにやってきたタマモとナムチ。


中央塔の一室へ入った瞬間、五人衆の視線が揃ってタマモへ向いた。


二本の尻尾。

タマモもまた、五人衆の腰の後ろに揺れるそれを見ている。


(この者たちが、噂の猫又ね)


一方、五人衆はタマモの背後に揺れる三本の尾を見た。


(三尾……妖狐か)


普通なら、そこで多少の緊張が走ってもおかしくはない。


だが――。


「三尾ってことは、めっちゃ強い?」


ミケが真っ先に口を開いた。


挿絵(By みてみん)


「多分、強いんじゃない?」


シャムが続く。


ルナは少し嬉しそうに尻尾を揺らした。


「じゃあ警備当番、減らせるかも」


クロも腕を組みながら頷く。


「使える戦力なら歓迎だな」


素敵なボスに至っては、もう計算を始めていた。


「これで少しくらいゴロゴロする時間、増えるかしら」


タマモは僅かに目を瞬かせる。


予想していた反応とは、随分違った。


「……私を警戒しないの?」

「なんで?」


ミケがきょとんとする。


「都を壊しに来たなら困るけど、住むんでしょ?」

「ええ」


「じゃあ強い方が助かるじゃん」


あまりにも単純だった。


タマモは思わず苦笑する。


その横でユアピは、完全にタマモの三本の尾へ目を奪われていた。


「すっご……三本……」


ナムチのことなど、ほとんど見ていない。


一方のナムチもユアピには特に興味を示さず、部屋の中の面々を一通り見回したあと、すぐにタマモへ視線を戻した。


ナムチにとって、強者であるタマモ以上に興味を引く存在は、今のところここにはいなかった。


「では、改めて」


坂巻が場を整える。


「こちらがタマモさん。そして、こちらがナムチさんです」


簡単な紹介が終わる。


すると鶴子だけは、最初から別のところを見ていた。


タマモの着物だ。


袖。


裾。


織り。


生地。


視線が明らかにそこへ集中している。


「……そのお着物」


タマモが鶴子を見る。


「え?」

「少し、触れても?」


「どうぞ」


鶴子はそっと袖口へ指を添えた。


一度。


二度。


繊維を確かめるように、親指と人差し指で僅かに撫でる。


挿絵(By みてみん)


その表情が変わった。


「この着物……誰が仕立てたんです?」

「旅の途中で出会った女性よ。アヤという人」


「アヤ……」

「向こうでは“綾織姫”なんて呼ばれていたわ」


鶴子の指が止まった。


「織っているところは?」

「見せてもらえなかったわ。絶対に覗かないでって」


鶴子は一瞬だけ目を細めた。


そして、周囲には聞こえないようタマモの耳元へ顔を寄せる。


「……この反物、蜘蛛の糸です」

「蜘蛛の……?」


タマモの目が僅かに見開かれる。


「普通の糸ではありません。おそらく、作り手自身が紡いだものです」


タマモはしばらく袖を見つめた。


「……そういうことだったのね」


それ以上は何も言わなかった。


ただ、旅の途中で出会った“綾織姫”という女性の姿を、静かに思い返していた。


―――――


一通りの顔合わせが終わると、素敵なボスが二人へ説明した。


「人獣の住まいは、基本的には都の大外になるの」


タマモが頷く。


「ただ、毎回何かあった時に揃うまで時間がかかるのも困るから」


素敵なボスはさらりと続けた。


「二人は中央区に住んでもらうわね」


タマモは少しだけ間を置いた。


「……新入りなのに中央区に?」

「新入りとかは関係ないわ」


戦える者を中央へ置く。


都を守るためには、その方が都合がいい。


その判断自体は合理的だった。


だが、外周から中央区まで歩いてきたタマモには、それとは別の問題も見えていた。


戦えない住民たちの間では、都へ差し出せる物資や労力の多さが、住める場所の安全さにまで結びつき始めている。


守る側の配置と、守られる側の序列。


本来は別の話だったはずのものが、いつしか一つのヒエラルキーのように重なり始めていた。


けれど、タマモは反論しなかった。


「指示とあらば、従うまでです」


その一言だけで受け入れた。


―――――


挿絵(By みてみん)


モチベ維持のためにブクマや評価いただけるとありがたいです!宜しくお願い致します!

挿絵(By みてみん)

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