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スライム討伐系キラキラ冒険者粘液添え

 キリリィ、というよく聞いた音が静かな草原に流れる。

 スライム――さらにその(コア)に狙い狙いを定めたのか、小さく照準を修正すると矢から指を離した。


 キュンッ、という音と共に弓から飛び出した矢は弧を描き、先に居る無防備なスライムに突き刺さった。


「ピギィィィィィィィイ!!」


 うす緑の体を震わることで共鳴し、それが鳴き声とされるスライム。

 200メートルの距離がありながら、(コア)に向かって突き刺さった矢――。


『浅いッ!』


 出そうになった声を押し殺す。

 俺はカメラマンとして、勇者(この)の力を発揮しなければならないッ!!


「まかせてっ!」

「あぁっ!」


 俺が気づいたことに悠と朱音も気づいたようで、2人して驚くほどの勢いで飛び出した。


『しまった。このままでは』


 背中から追うだけの映像なんて愚の骨頂。


「ふっ!」


 腹部から太もも、つま先へとつながる力を入れ、すでに飛び出した2人を追いかけるように跳び、そして抜かす。


「「えぇっ!?」」


 俺が2人を抜かしたことに対しての驚きか、それともバックステップではなく全力で跳ぶように駆ける2人にカサカサ後ろ歩きして追い付いていることに対しての驚きか。

 こっちだって仕事を任されているのだから、そりゃ本気にもなるさ。


「朱音ちゃん、行くよ!」

「あっ、あぁっ!」


 戸惑いながらも出された悠の号令に、朱音も大声で返答する。


「えぇいっ!」


 振り上げられた悠のショートソードは、力一杯振り下ろされスライムに直撃(・・)した。


「はぁあっ!」


 一緒に買ったのだろうか、悠と同一のショートソードを振り上げた朱音は、悠よりもキレある振り下ろしでスライムに斬撃を与えたが、両者ともズムン!と鈍い音を上げるに留まった。


「ラッシュ!」


 相手(スライム)の動きを止めるほどではない二撃にもかかわらずラッシュとは、ちょっと早くないだろうか。

 しかし、まだ第一階層でさらに最弱なモンスターにとっては先の二撃は痛打だったようで、2人からタコ殴りと言うのがピッタリくるほど殴られまくっている。


 「ザシュッ」や「シュイン」といった斬撃の音ではなく、「ズムン」や「ドッ」といった打撃音なのが気になるが、まぁ効いているならいいか。


『そろそろ、逃げの態勢に入るな』


 やられそうになったモンスターが取る行動は2種類あって、一つは捨て身の戦法で突っ込んでくるものと、もう一つが逃げることだ。

 ボロボロになっているので遠くまで逃げることはできないが、まだ初心者の3人にとってここで逃げ出されると面倒くさいことになるだろう。


「ピギッ!? ピヒュアッ!」


 (コア)にヒビが入った瞬間に不気味な悲鳴を上げたスライムは一瞬、身を縮めたかと思ったら、一気の伸ばし飛び上がった。


「あっ!?」

「逃げやがった!」


 2人が踏み込んだ瞬間に逃げられたのでスライムを撃ち落とすことができず、逃走を許してしまった。


「ほっ、とっ」


 なるべく声を出さないように、飛んできたスライムを足で受け止め、2人に向かって蹴り返す。

 逃げてきたスライムにカメラを極限まで近づけ、蹴る足を映さないこのカメラワーク。

 初心者とは思えない考え抜かれた技法に、周りは褒めても良いんだぜ?


「すごっ!?」

「あっ、行きすぎッ!」


 だが、力が入りすぎてしまったのか、目標とした悠と朱音の居場所を通り過ぎ、それよりも遠くに飛んでしまった。


「涼子、悪い!」

「ぎょぼっ!?」


 弓をしまい、メイスに持ち替えてから駆けてきていた涼子は、目の前に落ちてきたスライムを見て変な声を上げた。


「やっちゃえ、涼子!」

「頼んだ!」


 完全に観戦者モードに入った2人をよそに、俺は全力で駆けて涼子の元へ向かう。

 敵を倒すというクライマックスだ。

 撮れなかったなんて失敗、絶対にやってはいけないシーンだ。


「えっ、ちょっ、いやっ」


 しかし、トドメを刺したことがないのか、涼子は目の前に転がってきた弱ったスライムを目にして右往左往するばかりだ。


「ぴ……ぎゅぃ……?」


 相手が攻撃してこない人間だと察したのか、スライムはいやらしい笑みを浮かべてそうな気色の悪い鳴き声を発すると、バインと跳ねて一目散に逃走を図った。


『まぁ、落ち着けって』


 右往左往するだけの涼子を撮影していたところ、跳んで逃げようとするスライムを掴み、すぐさま地面に叩きつける。


「ぴげるしっ!!」


 さんざん攻撃されて傷だらけになっていたスライムは、叩きつけられた衝撃でヒビが入り、中に詰まっていた体液を大量に外に噴出した。


「ぐあぁぁぁあ」


 ねっとりぐちょぐちょした体液をぶっかけられた涼子は、顔に似合わない野太い声を上げると、持っていたメイスでスライムを殴打し始めた。


「なんてことをっ! 女の子の顔にこんなんぶっかけてっ! 許されるとっ! 思ってんですかっ!」


 ドムンドムンと始めは張りがある音だったが、すぐにネチャネチャと粘性のある打撃音に変わり、すぐにスライムは動かなくなり溶けていった。


「涼子、だいじょうぶ!?」

「悪い、たいへんなことになったな」

「大変どころじゃないよっ!」


 涼子の姿は体中に粘性の液体をしたたっており、見た目はエイリアンに食われる直前の風貌だ。

 大変というのは、見た目から伝わってくる。


 その大変さを、冒険者が決してキラキラするだけではないという戒めを含めてしっかりと(・・・・・)撮影したあと、カメラの録画を止めた。


「スライムの討伐は終わったけど、2体目には行くの?」


 行くなら早い方が良い。近くにまだ居るしな。

 だが、悠と朱音は顔を見合わせ、涼子に至っては頭を力ずよく振って拒否の一点張りだ。


「じゃぁ、今回はここまでということで」

「そうだね。私、疲れちゃった」

「あぁ、いつも以上に疲れた気がする」

「もう最悪……」


 三者三様のなかでも、今回のMVPは涼子だろう。

 矢の一撃で動きを鈍くし、最後の〆も涼子だ。

 逆に言えば、悠と朱音は動きは悪くないが攻撃力がまだまだ低く無駄な切り込みがある。


「あ~……。帰ってから編集とか、チョ~めんどいぃ~。朱音やらない?」

()だよ、今回は疲れたもん。取り分、多くてもパス」


 ここで涼子の名前が上がらないのは、2人の優しさだろうか。


「スライムの討伐って()は幾らくらいなの?」


 建前では、俺は夢破れてホームレスになっているお兄さんだから、スライム討伐の値段を知らないのはおかしい。

 多分、倒した時に出る魔石を買い取っているんだろうけど、その価格が分からなかったので、昔と値段が違うことを懸念している風を装った。


「前回、私らが倒した時に換金したら魔石1個で3000円くらいだったから、今も変わらないと思う」


 俺の質問に涼子がサラッと答えてくれた。

 そして、笑みが零れる。

 たかがスライム1匹で3000円!?


 美味すぎて本当かどうか疑ってしまうが、たぶん国側もダンジョンの扱いに手をこまねいているんだろう。

 ならこの美味しい期間を逃す手はない……。


「おじさん!」

「わはぃっ!?」


 耳元で突然、呼ばれて驚いてしまった。

 そちらを見ると、怒った様子の悠が立っていた。


「どっ、どうした?」

「どうしたじゃなくて、私たちもう帰るけど、おじさんはどうするの?って」

「あっ、あぁ、そうか。そうだな……俺は久しぶりだからもう少しそこら辺を見て回ってから出るよ」


 獲らぬ狸の皮算用をして、意識だけ異世界にトリップしていたようだ。

 しかし美味い。美味すぎる話だ。

 あとはもう一丁、なにかお金を稼ぐ手段があれば――そうか。


「これも何かの縁だ。もし良かったら、編集もこっちでやっておこうか?」


 こう見えて、友人がやっているバンドのPVを作ったことがある。

 難しいことはできないが、フリーの動画編集ソフトで切った張ったする程度はできると自負している。


「えぇっ!? 本当に、良いの!」

「高いお金は払えないけど、良いの!?」

「…………」


 悠は素直に喜び、朱音はお金の心配を、そして涼子は神様にお祈りするように柏手(かしわで)を打ち、手を合わせた。なんでだよ。


「そんなに凝った編集はできないけど、簡単な奴なら問題なくできるはずだ」


 異世界に行っている間に、俺の動画編集スキルは古代の遺物になってしまっただろうが、その代わり感覚的に扱えるソフトも増えているだろう。

俺の心強い言葉に持っていたカメラをそのまま貸してくれた。

ありがてぇ。これで、やりたいことができる。

この日は、ホールまでいかずこの第一階層で3人と別れることでお開きとなった。


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