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深淵の符呪師 ヨグソトースの落とし子  作者: ケロン藤野


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第28話 柏木少佐

その装甲車の二十ミリ・マウザー機関砲銃座では、一人の女性が気楽な様子で腰掛けていた。


軽装甲プロテクターを身にまとい、腰には50口径ロングバレル仕様のデザートイーグルをホルスターに収めている。


身長百九十八センチ。


鋭い眼差しに、黒いウルフカット。


その立ち姿だけで周囲を圧倒する存在感を放っていた。


八王子軍警少佐。


機動装甲擲弾兵中隊――ヘルハウンド隊隊長。


柏木沙織。


降魔戦争開戦時、十四歳で民間防衛隊へ志願。


戦功を重ねて国防軍へ編入され、大阪防衛戦、広島解放作戦、四国解放作戦、福岡解放作戦、熊本奪還作戦、沖縄上陸作戦、台湾上陸作戦、韓国解放作戦と、数々の激戦を生き抜いた歴戦の英雄である。


終戦後は八王子軍警へ転属し、現在は少佐として機動装甲擲弾兵中隊「ヘルハウンド隊」を率いていた。


その隣の銃座には、副官の橋本凛が腰掛け、周囲を油断なく警戒している。


一方の沙織は、そんな緊張感とは無縁と言わんばかりに、銃座脇へ固定された隊長用クーラーボックスを開けた。


保冷剤の冷気がふわりと立ち上る。


「おっ、まだキンキンや。」


中から取り出したのは、大きなシャインマスカットシュークリームだった。


「橋本ちゃん。このシュークリーム、マジでうまいから食べてみぃ!」


凛は苦笑する。


「勤務中ですよ、隊長。」


「ええやん、一個くらい。」


「甘いもん食べると頭回るで?」


そう言って沙織はシュークリームを一口かじる。


「うっまぁ……。」


思わず頬が緩む。


「ほんま、平和って最高やわ。」


空を見上げ、ぽつりと呟いた。


「うちら、ずっと戦争ばっかりやったやろ?」


「レーション食うて、蛇を焼いて食うて、缶詰ばっかり。」


「甘いもんなんか夢のまた夢やった。」


「ほんま、あのクソみたいな降魔戦争が終わって良かったわ。」


凛は静かに頷く。


「……はい。」


沙織の視線は遠い昔へ向けられていた。


「戦争が始まった頃な……。」


――そうして、彼女は誰にも語りたくない戦争の記憶を、静かに語り始めた。

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