第21話 鑓水ダンジョンの準備
夕暮れ。
二郎は自転車でアパートへ戻ると、買ってきた食材を冷蔵庫から取り出した。
「今日は少し豪華だな。」
まな板の上には、
サーモンの刺身。
イカの刺身。
そして、少し奮発して買った国産牛肩肉。
牛肉は表面だけを香ばしく焼き上げ、薄く切って皿へ並べる。
刻んだ小ネギをたっぷりとかけ、ステーキ用ガーリック醤油を回しかける。
香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がった。
炊飯器を開ける。
二合炊きの小さな炊飯器から湯気が立ち上る。
茶碗へご飯をよそい、赤だしのインスタント味噌汁へお湯を注ぐ。
ダニッジの分も小皿へ取り分けた。
食卓へ並べると、二人は声を合わせた。
「「いただきます。」」
まず二郎はイカの刺身を口へ運ぶ。
「……うま~!」
「駅ビルの魚屋だけあって鮮度がいいな。」
噛むほどに甘味が口いっぱいへ広がる。
「イカ刺し最高!」
ダニッジはサーモンを一枚くわえる。
『ほう。』
『これがサーモンとやらか。』
わさびを少し付け、醤油へくぐらせて口へ運ぶ。
『む……。』
『むむっ……。』
『脂が柔らかい。』
『濃厚じゃ。』
『美味い!!』
二郎は笑った。
「それ、アトランティックサーモンだからな。」
「少し高かったけど、その分うまい。」
ニヤリと笑うと、スライスオニオンとアボカドを盛った皿をダニッジの横へ置いた。
「今度はこれ。」
「サーモンにオニオンとアボカドを乗せて、シーザーサラダドレッシングをかけて食ってみ。」
「飛べるぜ。」
『なに!?』
『わさび醤油より美味いというのか!』
恐る恐る一口。
『……。』
『…………。』
『くはぁーーーっ!!』
『美味い!!』
『世界は広いのう!!』
『サーモンにこんな食べ方があったとは!』
二郎は笑いながら牛肉の皿を差し出した。
「こっちも食べてみ。」
「ステーキ肉をタタキにして、小ネギたっぷり。」
「ガーリック醤油をかけてある。」
「わさびを少し付けるともっと美味いぞ。」
ダニッジは言われた通りに食べる。
『ほう……。』
『これも中々美味いな。』
「今日絡んできたあのクソ共からの詫びだからな。」
「結構いい肉になった。」
『因果応報というやつじゃな。』
二人は笑いながら夕食を楽しんだ。
食後、お茶を飲みながら二郎が切り出す。
「ダニッジ。」
「近いうちに鑓水フィールドへ行こうと思う。」
「魔力電池シリンダーも三本とも魔力が満タンだ。」
「そろそろ新しい符呪を作りたい。」
ダニッジが頷く。
『何を作るつもりじゃ?』
「投げナイフ。」
「火炎の符呪を付けようと思ってる。」
ダニッジは少し考えてから首を横へ振った。
『それは少し待った方が良い。』
「どうして?」
『最初に戦う相手は何じゃ?』
「ショゴススライム。」
「ジャイアントローチ。」
『そうじゃ。』
『数の多い雑魚相手じゃ。』
『火炎の符呪ではショゴススライムの万能細胞片まで焼いてしまう。』
『貴重な素材を自分で駄目にすることになるぞ。』
「……確かに。」
『それより投げナイフへ【魔力捕縛】を付ける方が良い。』
『中距離から投げナイフで仕留める。』
『魔力はそのまま捕縛され、魔力シリンダーへ回せる。』
『近距離は火かき棒で十分じゃ。』
二郎は納得したように頷いた。
「分かった。」
「明日は投げナイフへ魔力捕縛の符呪を施そう。」
「準備を整えてから鑓水フィールドへ向かう。」
『うむ。』
『それが一番効率が良い。』
二郎は机の上へ三本の魔力シリンダーを並べた。
どれも青白く輝き、十分な魔力を蓄えている。
「また魔力シリンダーをいっぱいにして。」
「符呪をどんどん作っていこう。」
ダニッジも満足そうに頷いた。
『強くなるには準備が何より大切じゃ。』
『焦らず、一歩ずつ力を蓄えていけばよい。』
二郎は静かに投げナイフを手に取る。
明日はいよいよ、探索者として初めての本格的なダンジョン探索へ向けた準備が始まるのだった。




