第20話 初めての友達と初めての喧嘩
二時間に及ぶ研修が終わり、受講生たちは探索者協会を後にした。
協会の玄関を出ると、海咲が少し不安そうに周囲を見回す。
二郎は先ほど廊下で絡まれていたことを思い出した。
「北八王子へ帰るんだよね?」
「はい。」
「さっきみたいな連中がまた絡んでくると面倒だから、バス停まで送るよ。」
海咲は少し驚いた後、嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございます。」
二人は八王子駅南口のバスターミナルへ歩いていく。
途中、研修の話や探索者の話をしながら歩いていると、北八王子行きのバスが到着した。
海咲は乗車口へ向かい、振り返る。
「八木二郎さん!」
「はい?」
「北八王子行きのバスで魚加工場前という停留所で降りると魚人街があります。」
「そのBゾーンにカツヲ商店という兄のお店があります。」
「ぜひ遊びに来てください!」
「待ってます!」
二郎は笑顔で頷いた。
「分かった。」
「何日かしたら行ってみるよ。」
海咲は満面の笑みを浮かべる。
「はい!」
「待ってます!」
バスのドアが閉まり、海咲は窓越しに大きく手を振る。
二郎も手を振り返した。
バスはゆっくりと北八王子へ向かって走り去っていった。
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「さて。」
「俺も買い物して帰るか。」
八王子駅ビル地下の食品売り場へ向かう。
鮮魚売場を見て回ると、美味しそうな刺身が並んでいた。
「今日はこれにするか。」
サーモンの刺身。
イカの刺身。
二つを買い物袋へ入れてもらう。
するとダニッジが嬉しそうな声を上げた。
『ほほう……。』
『ついに初サーモンじゃ!』
『楽しみでたまりませぬぞ!』
二郎は苦笑した。
「そんなに楽しみか。」
『当然じゃ。』
『スシジローでも人気じゃったからのう。』
買い物を終え、駅から少し離れた駐輪場へ向かう。
その途中。
人気の少ない路地で、三人の男が待ち構えていた。
研修センターで海咲へ絡んでいた三人組だった。
リーダー格の男がニヤニヤ笑う。
「よう、ちび山羊。」
「さっきはずいぶんカッコつけ王子みたいだったじゃねぇか。」
二郎はため息をつく。
「人としてのマナーの問題だ。」
「若いうちからそんなことをしてると、碌な人間にならんぞ。」
男の一人が顔を真っ赤にする。
「この野郎!」
勢いよく二郎の買い物袋を蹴り飛ばした。
袋が地面へ転がる。
パックの刺身が飛び出した。
『あっ!!』
『サーモンがぁぁぁ!!』
ダニッジの絶叫が響く。
その瞬間。
二郎の周囲に、黒い圧のような空気が漂った。
ダニッジの声も低くなる。
『……ほう。』
『八木一族に喧嘩を売るとは……。』
『いい度胸じゃ。』
男たちは一瞬たじろぐ。
「な、なんだ……?」
だが、もう遅い。
二郎は一歩踏み込む。
ゴッ!!
硬い山羊の角が男の鼻へ直撃した。
「ぶげっ!!」
鼻血を噴き出しながら男は地面を転げ回る。
その隙を逃さず、
ドスッ!!
二郎の膝が男の股間へ突き刺さる。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
男は白目を剥き、泡を吹きながら倒れた。
残る二人が飛び掛かる。
「ぶっ殺す!」
二郎は一人の拳をかわし、腹へ拳を叩き込む。
「ぐふっ!」
さらに回し蹴りで吹き飛ばす。
最後にリーダーだけが残った。
「このガキ!」
拳を振り下ろす。
二郎はそれを受け流し、
腹。
顎。
鳩尾。
脇腹。
容赦なく拳を叩き込む。
「ぐぁっ!」
「げほっ!」
「ま、待っ……!」
最後は右ストレート。
ドゴォッ!!
リーダーは道路へ吹き飛び、大の字になった。
二郎はしゃがみ込み、男の財布を取り出す。
中から紙幣を数枚抜く。
「刺身の弁償代だ。」
「もらっていくぞ。」
リーダーは苦しそうに睨みつける。
「俺の兄貴は……!」
「レッドバッファローってクランのリーダーなんだ!」
「フィールドで見つけたら八つ裂きにしてやる!」
二郎は肩をすくめた。
「そうか。」
それだけ言って踵を返す。
地面へ落ちた買い物袋を拾い上げる。
パックを確認すると、ラップは破れていなかった。
「大丈夫そうだ。」
『並びが少し崩れただけじゃ。』
『なら問題なかろう。』
ダニッジは安心した様子で息を吐く。
そして倒れている三人へ向かって毒づいた。
『サーモンの刺身を粗末にするとは……。』
『ダゴンに尻の穴でも掘られてしまえ!』
『このカスどもが!』
二郎は思わず吹き出した。
「まだ弁償代が残ってるな。」
『ほう?』
「駐輪場の近くに肉のマサハナがある。」
「牛ステーキ肉とガーリック醤油を買って帰ろう。」
『おおっ!』
『今日は豪華じゃのう!』
二郎は自転車へ跨る。
夕暮れの八王子を走りながら、一人と一匹は今日の夕食を楽しみに家路へ就くのだった。




