第18羽 探索者協会登録
翌朝。
八木二郎は左腕の探索者用情報端末を確認し、部屋を出た。
向かう先は八王子駅南口。
駅前は朝から多くの人で賑わっている。
その駅前広場に、一際大きな建物が建っていた。
探索者協会 八王子駅南口前支店
五階建ての近代的な建物で、入口には探索者協会の紋章が掲げられている。
「ここか。」
ダニッジが感心したように呟く。
『立派な建物じゃな。』
入口横の案内板には施設一覧が表示されていた。
* 探索者登録所
* 装備販売店
* G級講義研修所
* 初級白兵・射撃武器訓練センター
* 軽食レストラン
* 医務室
* 相談窓口
「思ったより施設が多いな。」
『探索者育成の拠点だからな。』
二郎は受付へ向かった。
「探索者登録をお願いします。」
受付の女性職員が笑顔で応じる。
「初回登録ですね。」
薫子から預かった紹介状を確認すると、職員は頷いた。
「登録には二つの研修を受けていただきます。」
「まず六十分のG級ビデオ研修。」
「続いて職員による六十分の基礎講習です。」
「すべて終了後、探索者証を発行いたします。」
「分かりました。」
職員から受講票を受け取り、二郎はG級研修室へ向かった。
⸻
研修室前の廊下。
開始までまだ十分ほど時間がある。
長椅子には受講者が思い思いに座っていた。
四十人ほどの受講生。
高校を卒業したばかりの若者。
会社員風の男性。
主婦らしき女性。
白髪交じりの老人。
年齢も職業も様々だ。
人外種は二郎を除けば、ただ一人。
水色のショートヘアの少女だった。
耳の後ろには小さなエラ。
手足には薄い水かき。
魚人の少女は緊張した様子で受講票を握り締めている。
その時だった。
三人組の若者が少女を取り囲んだ。
「おい。」
「魚人が探索者になるのか?」
「危なくなったら海へ逃げるんだろ?」
三人はニヤニヤ笑う。
少女は困ったように俯いた。
「や、やめてください……。」
「魚人街へ帰れよ。」
「ここは人間の仕事だ。」
二郎は静かに立ち上がった。
「そこまでにしたらどうですか。」
三人が振り向く。
「あ?」
「なんだ、お前。」
「獣人か。」
「魚人の次は山羊かよ。」
二郎は落ち着いた口調で言った。
「研修前に騒ぎを起こしたら、受講停止になるかもしれませんよ。」
「受付の人を呼びましょうか。」
三人は顔を見合わせる。
「……ちっ。」
「覚えてろ。」
舌打ちを残し、三人は廊下の向こうへ歩いて行った。
魚人の少女は深々と頭を下げる。
「あ、ありがとうございました。」
「気にしなくていいよ。」
「同じ受講生だから。」
少女は少し安心したように笑った。
「私は勝浦海咲です。」
「北八王子の魚人街から来ました。」
「探索者になりたくて、一人で来たんです。」
二郎も軽く頭を下げる。
「八木二郎。」
「俺も今日が初めての登録なんだ。」
「よろしく。」
海咲は嬉しそうに笑った。
「はい。」
「よろしくお願いします。」
ダニッジが小さく笑う。
『初めての友達になりそうじゃな。』
その時、研修室の扉が開いた。
「G級ビデオ研修を開始します。」
職員の声が響き、受講生たちは教室へ入っていった。
⸻
広い研修室には大型スクリーンが設置されていた。
約四十人の受講生が席に着く。
照明が落ち、映像が始まる。
『探索者協会 G級基礎ビデオ研修』
まず説明されたのは探索者法だった。
・探索者の権利と義務
・ダンジョン内外での法令遵守
・武器の適正な携帯方法
・街中での抜刀禁止
続いてモンスター討伐後の基本。
討伐証明となる部位の回収方法。
魔石や素材の保管方法。
ダンジョンでのマナー。
PKについての説明も行われた。
「探索者同士の殺傷・略奪は重大犯罪です。」
「PK行為は探索者資格剥奪および刑事罰の対象になります。」
映像は続く。
探索者ランクと銃器所持基準。
G級・F級・E級……銃器携帯不可
D級……二連散弾銃まで所持許可
C級……拳銃の所持許可
B級以上……ライフルなど軍用銃器の所持許可
最後はダンジョン内での安全管理。
救難信号の使い方。
負傷者への応急対応。
スタンピード発生時の避難手順。
六十分のビデオ研修は終了した。
照明が点灯する。
前へ出た職員が受講生へ告げる。
「皆さん、お疲れ様でした。」
「続いて別室にて、職員による六十分の基礎講習を行います。」
受講生たちは席を立ち、隣の研修室へ移動する。
二郎は隣を歩く海咲へ小さく笑いかけた。
「まだ半分か。」
海咲も苦笑する。
「長いですね。」
「でも頑張りましょう。」
「はい。」
こうして二人は、探索者として最初の一歩を踏み出すため、基礎講習室へと向かった




