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セレファイスの死体は不死の夢を見るか?  作者: 帽子
第一章

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7/14

1-6: 首の皮一枚繋がったとしても、気道が繋がっていなければ、いずれ死ぬ。

 そして僕は、それを見た。

 まず目に入ったのは、石畳が赤く光っていることだった。

 雲の隙間から差す僅かな月明かりを反射して、地面が赤くてらっている。


 それは、血だった。


 そのことに気付いた意識は、次にそれがどこから流れているのかを探す。

 目線を、血の流れを遡るように動かしていくと、そこには首があった。

 いや、語弊がある。

 言い直そう。


 そこには、首しかなかった。


 首の断面から、血が流れていた。

 頭部が存在していない首、そして当然その結果として頭部を持たない躰は、どこか滑稽で、そして不完全でありながら、同時に芸術品であれば傑作だとも思われた。

 薄暗いのでよく分からないが、裸ではない。スーツを着ているように見える。演劇を見に行ったりするときに着る、いわゆる正装だ。演劇。そう言えば今、『黄衣の王』という演目が人気を博しているらしい。今度見ようと思っていたのを忘れていた。いや違う、今は目の前の状況を、自分が置かれている立場を──


「ねぇねぇ」


 ──と、その場にそぐわないくらい軽い、鈴の音のような声がした。

 死体に目を取られて気付いていなかったが、その死体の近くに、しゃがみ込んだ人影があった。死体を覗き込んでいるようにも見えた。

「そこの人、ちょっと手伝ってくれないかな」

 その声の主に視線を向けたとき、ちょうど、雲が割れて月明かりがまっすぐに差した。

 赤く濡れた石畳も、頭部のない首も、その近くにいる人影も、すべてが一気に、まるでスポットライトに当たるように照らされた。


 声の主は、少女だった。

 銀髪に、キャスケット帽を被っている。

 ケープを羽織っている。

 そういう格好をする、典型的な職業がある気がした。

 なんだっけ。

 右手に何かを持っている。

 パイプだ。

 パイプ?

 火は点いていないみたいだ。

 それを口に咥えて、少女は頬ごと口角を上げて笑って見せた。

 笑った?

 なぜ?

 こんな状況で?

「てつ、手伝うって、何を?」

「妙なことを訊く人だなぁ。見れば分かるだろう?」

 と、本当に不思議そうに、少女はそう言った。

 確かに、変な質問だったかもしれない。

 でもそれは、変な頼みをされたからじゃないか。

 仕方ない。

 混乱して思考がまとまらない僕を前に、少女は、血塗れの手でパイプを持って、血塗れの手? それから、言った。


死体(これ)の処理だよ」


 瞬間、僕は駆け出していた。

 返事などもちろんしなかった。

 一瞬で、自分の前と後ろを入れ替え、そして走った。

 さっきまでゆっくり歩いてきた道を、全速力で走った。

 何だ?

 一体何が起こってる?

 ここはセレファイスだぞ?

 人は死なないんじゃないのか?

 じゃあ、あれも死んでないのか?

 莫迦な、首から上がなくなっても生きてる人間なんているか?

 いや、そういう魔法とか?

 あるいはゾンビ? アンデッド?

 いや、そもそも作り物だったのでは?

 そうだ、演劇!

 その小道具!

 例の『黄衣の王』は、かなり不気味な舞台だと聞く。

 そう、その小道具だったのでは?

 だから、さっきのあの人は劇団員で──

 こんな裏道で、ひとりで?

 いやひとりでならまだしも、あんな小道具を持ってきて?

 やっぱりおかしいじゃないか。

 おかしいと言えばこの裏道だ。

 ずっと走ってるのに、一向に表通りに出られない。

 いくらなんでもこんなに長くはなかっただろ?

 だって僕は、ここに足を踏み入れて、歩いたのだって高々数分で──。


「逃げられませんよ」


 と、声がした。

 でもその声は、さっきの少女の声ではなかった。


 声の主と思われる、いかにも魔法使いのようなローブを着た、あるいは錫杖(しゃくじょう)のような、大きな杖を持った、それとは不釣り合いなほど小柄な少女──さっきとは別の誰かが、足を止めた僕の前に立っていた。

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