4-7: 運も実力のうちであるとしたら、実力は刻一刻と揺蕩うものであることになる。
噴水から立ち上った水流は、まるで巨大な蛇のように空中を舞い、周辺の巨大蛭を叩き潰して回った。その動きはまるでエトワールが持つ見えないタクトに操られているかのようで、その圧倒的な力を持つエトワールは、確かに魔女と呼ぶに相応しい存在だった。
「助けてくれるんですか?」
「ふふふ、まぁ、今は助けてあげる、というところかしら。だって、世界を滅ぼすのはわたくしだから」
その不気味な言葉に質問を重ねようとしたとき、暴れた蛭が塀を壊して僕らの方へと突っ込んできた。スラデンが見えない剣で迎え撃とうと構える。
一瞬、光が奔った。
そして、蛭の頭部が抉られたように消え、指令器官を失ったらしい蛭は地面に躰を落として動かなくなった。
「すっごく気持ち悪い。悪趣味。最悪です、さいあく」
そこにいたのは、錫杖をこちらに向けて心底嫌悪するような顔をしたシンシンだった。
意外な人物の登場に、思わず僕は訊ねた。
「どうしてきみまでここに?」
「だってこんな騒ぎ、単純に迷惑ですし……。活動場所がなくなられるのは、嫌ですし。わたしはエトワールと違って、別に人類の滅亡とか望んでないですから」
「いやはや、アクロニオンには『星の智慧派には逃げられた』と報告を受けていましたがね、まさかこんな形で助けてくれるとは思いませんでしたよ」
「あなたたちを助けるわけじゃありません。ただ、わたしがわたしの居場所を壊されるのが嫌なだけですから」
「この場に限っては同じことです。護衛軍団長として、お礼を申し上げます。ありがとう」
「良いんですか、魔女に護衛軍がお礼なんて?」
「感謝は、その対象を選ばないのがあっしの流儀なんでね」
「まぁ、いいですけど。足を引っ張らないでくださいね!」
エトワールの水の大蛇から逃れた巨大な蛭は、次々に僕らを目掛けて突進してきた。僕とレーヴには、それを防ぐ能力も、攻撃手段もない。しかしスラデンとシンシンは、ふたりだけで次々に化け物を圧倒していった。
シンシンが一撃必殺の光線を放つ。それに蛭が頭を刳り貫かれる。スラデンが僕らには見えない何かを振る。すると蛭の頭部が落ち、あるいは胴体が細切れになる。
「ナギさん、レーヴさん! 早く王室へ! ここはあっしらが食い止めますから!」
スラデンの言葉に、僕とレーヴは顔を見合わせて頷いた。そして、大蛇に潰され、光に焼かれ、不可視の剣に刻まれる巨大な蛭の大群の中を、宮殿目掛けて真っ直ぐに走った。
「危ない!」
と、シンシンの声がした。
シンシンは、別の方向に杖を向けていた。
その杖とはまったく違う方向から、水の大蛇からも逃れた巨大な蛭が、僕らを押し潰そうと巨体を起たせていた。近くで見るとまるで塔か何かのようなそれに、自分がひどく小さな存在になってしまったような錯覚を覚える。
ムングの印で、どうにかなるだろうか。
だが、その印を結ぶ間に、こっちが潰されてしまうのでは──。
「走って!」
レーヴの声がした。
「構わず走るんだ!」
構わず?
レーヴは、僕の手を引いて巨大な蛭に向かって突進しようとしていた。
そのまま潰されてしまうのではないか。
あるいはその表面に蠢く繊毛のような小さい蛭に血でも吸われてしまうのか。
しかし、立ち止まっても一緒なら──
それなら、走り続けよう。
僕はレーヴに言われた通り、蛭に向かって走り続けた。
次の瞬間、真横から光線が走った。
それは他の蛭にしたのと同様、僕らの目の前の巨大な蛭の頭を抉った。
シンシンの攻撃が間に合ったのか!
でも、どうして? どうやって?
あの一瞬で攻撃の矛先を変えるなんてこと──。
「ナギさん、これを!」
スラデンの声がして、首を回してそちらを向くと同時に、何かが投げられた。
それは、輝くトラペゾヘドロンのもうひとつ欠片だった。
「何かの役に立つかもしれませんから! お預けしますよ!」
そう言ったスラデンの手にある、不可視の剣から煙のようなものが上がっているように見えた。
まるで巨大なエネルギーをその剣で受けたような──。
アビキスは、周囲と同じ光や色を返す性質がある──か。
「生意気ですよ、わたしの前でそんな風に反射を使いこなすなんて!」
シンシンが何かに怒っている声を背にして、僕とレーヴは王宮の中へと走り込んだ。




