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セレファイスの死体は不死の夢を見るか?  作者: 帽子
第二章

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13/14

2-4: 犯人は現場に戻ると言われるが、それを期待することは無能である。

 事務所でワイルドさんとしばらく話をしてから、僕たちは事務所を出てある場所に向かった。


 死体があった裏路地である。


 昨日の夜、死体を発見してから僕はすぐにその場を離れてしまったし、レーヴも逃げ出した僕の後をすぐに追ったという。したがって、実は死体の調査(あのときのレーヴの言葉を借りれば()()()()())はちゃんと行われていなかった。

 死体とレーヴがどのような関係にあるのか、あるいは関係などないのかも分からないが、少なくとも調査しておく価値はあるだろう。


「暗かったからね、死体の年齢や性別さえ、未調査だったから」

 と、裏路地への道を歩きながらレーヴは口惜しそうに言った。

「でも、あれには頭がなかったじゃないか。それでも調べたら、何か分かるのか?」

「死人に口なしとは言うけれど、死体は雄弁だよ」

「比喩になってないけどな、今回の場合」

「例えば、何か持っていたものはないかとか、そもそも死んだのは首を切られたからなのか、殺されてから首を切られたのかとか。骨格を見れば男か女かくらい分かるし。後は、争った形跡があるかとか。もしあれば事件に巻き込まれたのかもしれないし、もしないなら、例えば薬で眠らされてから殺されたか、あるいは知り合いが犯人だから油断してたのかもしれない。靴に泥がついているかどうかが確認できたら、最後に雨が降った日を調べれば、どの辺を歩いたかとかも分かるかもしれない。死んでからどれくらい経ているかとかも、分かる場合もあるかも」

「そういうものが、手掛かりになる?」

「なる、かもしれない。ならないかもしれないけど、情報はないよりも多い方が良い」

 そんなことを言いながら、昨日入った裏路地の入口まで歩いた。明るい時間に見る裏路地は、闇に繋がる地獄の一丁目などではなく、ただの裏路地だった。それでも、その先に死体があることを考えると、やはり不気味だった。

 またあの、頭のない死体を見なければいけないのだ。あまり何度も見たいものではない。

「大丈夫だよ、別に死体を調べるのはボクがやるし。それ以外の現場検証とかを、頼むよ助手くん」

 そう言ってレーヴは僕の背中を叩いて先に裏路地へと入っていった。

 深呼吸して、僕はその後を追った。


 裏路地は、前と同じでひとけもなくて閑散として──いなかった。


 あちこちに兵士が立っていて騒々しい。

 奥まで行こうとすると、そのうちのひとりに止められてしまった。

「ここは立ち入り禁止だ。この先は行き止まりだぞ」

「そこに用があるんだよ、ボクは探偵だから」

「は?」

「すみません、この子の言うことは無視してください。えっと、何かあったんですか?」

「信じられないかもしれないが、この路地裏で死体が発見されたのだ。しかし知っての通り、セレファイスでの死体など滅多にあるものではない──いや、俺自身、一度も見たことがない。そこで厳重体制として、王室護衛軍が調査を行っている」

「星の智慧派の活動も活発になってきていますし、恐いですよね」

「その通りだ。今のセレファイスは危険なのかもしれない。きみたちの安全は俺たちが守るから、大人しく帰るんだな」

 槍を持った兵士は、そう言い終わると『もう話は終わり』という空気をあからさまに出して僕たちから目をそらした。

 (ないがし)ろにされたと思ったのだろう、レーヴが不満そうに僕に耳打ちをした。

「ちょっとどういうことさ? 状況を説明してよ」

「僕だって分からないよ。でも、死体が別の誰かに見つかって、王室護衛軍がその調査を始めたってことだろ」

「王室の護衛がわざわざ?」

「セレファイスでは滅多に事件なんて起きないんだよ。ましてや殺人事件なんて歴史初じゃないのか? だから、基本的には王室の護衛くらいしか必要ないんだ。それも襲撃なんて滅多にないよ。ただ、王様を護衛しないってのは有り得ないから、体裁として組織されているだけみたいなもので──」

「王室って?」

「まぁ、僕も詳しくは知らないけどさ、このセレファイスを創った王のいる場所だよ。王様の名前はクラネス、だったかな」

「……その王室護衛軍が、王様の護衛への戦力を割いてまでこの事件を調査してるって?」

「……言われてみると、ちょっと大袈裟だな」

「セレファイスでは、人は死なないはずなんだろ? それなのに人が死んだっていう、この矛盾、もしかして、何かちゃんと理由があるんじゃないのかな。それこそ、セレファイス自体を脅かすような──」

「だとしたら、やっぱり星の智慧派が──?」


「なんだお前たちは。部外者は立ち入り禁止であるぞ」


 急に知らない人の声がして、コソコソ話をしていた僕らは驚いて振り返った。

 そこには、マントが付いた鎧を身に纏う、大柄な男の人が立っていた。その腰には鞘が垂れていて、剣が収められている。精悍な顔立ちで、まるで正義そのものの威光を背負っているような男だった。

「アクロニオン様! お務めご苦労様です!」

「ご苦労様です!」

「ご足労ありがとうございます!」

 周囲の兵士が一斉に敬礼した。その歓迎を受けた、アクロニオンと呼ばれた男は、しかし困ったように肩を竦めた。

 そのアクロニオンの後ろから、別の男が姿を現した。他の兵士と同じく槍兵のようだが、格好は鎧姿ではなく軽装で、背には槍を背負っていたが、他の兵士とは異なり三つ叉だった。その男は、アクロニオンを揶揄(からか)うように言った。

「流石、アクロニオン団長は人徳があるなぁ」

「団長扱いはやめろ、特にお前は」

「いやいや、職場ではちゃんとしないと。親友でも、きみは立派な上司だよ」

「そういうことじゃなくてだな──」

 何かを言いかけたアクロニオンは、しかしそれを飲み込んで、それから改めて僕らに向き合った。

「──失礼。吾輩はアクロニオン・アファーマー。王室護衛軍の者である。こっちの軽薄なのはアラース・アルベルトという。吾輩たちは、ここで起こった事件を調査している立場にある。ここは今、市民は立ち入り禁止なのである」

 ちゃんとした自己紹介を受けたので、僕とレーヴは少し居住まいを正してアクロニオンと向き合った。

「ナギ・パスツールです。えっと、僕らが多分、その事件の第一発見者です」

「レーヴ・レヴェリです! 探偵として事件を解決に来ました!」

「第一発見者?」

 と、アクロニオンはレーヴを無視して僕を見た。

 レーヴは二度も蔑ろにされて、すっかり落ち込んでしまった。

【クラネス】

原作の『セレファイス』の主人公であり、その後もラブクラフトの作品に時々登場する。


【アクロニオンとアラース】

ダンセイニ卿の『ブック・オブ・ワンダー』にある『女王の涙を求めて』に出てくる、ある冒険に出ることになる勇敢なふたり。原作のアクロニオンは剣士というよりも吟遊詩人、アラースは原作でも槍兵ですが、アラースの性格は原作ではちょっと違います。

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