表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/24

EP 8

ビキニアーマーを捨てた女帝スアイとの出会い

ポポロ村のコテージの庭には、パチパチとはぜる炭の心地よい音が響いていた。

「よし、皮の表面がキツネ色になってきたわね」

私はトングを使い、網の上でこんがりと焼かれている大きな魚をひっくり返した。

村の川で獲れたという凶暴な肉食魚『ピラダイ』だ。見た目は少し怖いけれど、たっぷりと塩を振って炭火でじっくりと塩焼きにすると、鯛を遥かに凌ぐ極上の旨味が引き出されるのだ。

ジュワッ……と皮から滲み出た脂が炭に落ち、香ばしい煙がふわりと立ち上る。

「……たまらん。この匂いだけで、俺はイモッカをロックでいけるぞ」

テラスの椅子に深々と腰掛けたルーベンス様が、すでにサケスキーの入ったグラスを傾けながら、熱っぽい視線をピラダイ(と私)に向けている。

フェンリルたち『害獣(神々)』は、今朝ルーベンス様が「お前ら少しは自分で飯のタネを稼いでこい」と闇魔法で森へ狩りに放り出したため、今は久しぶりの平和な夫婦水入らずの時間だった。

「ふふっ、もうすぐ焼けますからね。お腹のところに『マヨ・ハーブ』を少し塗って、醤油草を――」

私が仕上げの調味料を手にした、その瞬間だった。

「――くんくん。……やべぇ、めちゃくちゃ良い匂いがするっすね」

背後の茂みがガサリと揺れ、ふらりと一人の女性が姿を現した。

思わず、私は手元のトングを落としそうになった。

(す、すっごく綺麗な人……!)

現れたのは、透き通るような白い肌と、氷のように美しい銀水色の髪を持った『超絶美女』だった。年齢は私より少し上……17歳くらいだろうか?

しかし、その圧倒的な美貌に反して、彼女の服装はひどく土臭かった。

ルナミス帝国にチェーン展開しているホームセンター『タローマン』で売っている、ガテン系職人御用達のダボダボのオーバーオール。首には白いタオルを巻き、手には無骨な片手斧を持っている。完全に『農作業の途中』といった出で立ちだ。

「あ、急にごめんっす。裏山で木を伐採して、サウナ用の薪を作ってたら、あんまりにも美味そうなBBQの匂いがしたもんで……」

女性が気さくに笑いながらタオルで汗を拭った、その時。

テラスでくつろいでいたルーベンス様が、サケスキーを盛大に吹き出した。

「ブーッ!? げほっ、ごほっ……! お、お前は……元氷魔将軍のスアイ!?」

「あ? ……なんだ、アバロンの過労死寸前貴公子ルーベンスじゃん。奇遇っすね。あんたもキャンプっすか?」

「なぜお前がこんな辺境の村にいる!? お前は三年前に突如として魔軍の幹部を辞表一枚で辞め、行方をくらませていたはずでは……!」

ルーベンス様が信じられないものを見るように目を丸くしている。

元氷魔将軍。アバロン魔皇国軍の兵士たちが回すガチャ(MODULE型糧食)において、血みどろの争奪戦が繰り広げられる【EXレア】カードの被写体その人だ。

「あぁ、将軍職っすか。あんなの、やってられないっすよ」

スアイさんは片手斧を肩に担ぎ、心底ウンザリしたようにため息をついた。

「だって、あたし『氷』の魔将軍っすよ? 年中吹雪の中で戦うのに、なんで支給される装備が『露出度90%のビキニアーマー』なんすか! 腹は冷えるし、霜焼けになるし、意味のないエロスはただのセクハラっすよ!」

「…………」

「『視聴者ゴッドチューブのPVが稼げるから我慢しろ』って魔王様は言うけど、冗談じゃないっす! あたしは世俗を捨てて、このポポロ村の山を切り拓いてDASH村(開拓キャンプ)を作ることにしたんすよ! 今は冬に向けてスキー場をDIY中っす!」

どうやら彼女は、魔皇国のセクハラ装備とブラックな職場環境にキレて、完全なスローライフ・キャンパーへとクラスチェンジを果たしていたらしい。

「あの……スアイさん」

スアイさんの熱弁に圧倒されつつも、私は焼き上がったばかりの『ピラダイの塩焼き』をお皿に乗せて、そっと差し出した。

「薪割り、お疲れ様です。もしよかったら、一緒に食べませんか? マヨ・ハーブと醤油草を焦がした、特製の塩焼きです」

「えっ……マジっすか!?」

スアイさんの美しい瞳が、ピラダイを見た瞬間にカッと見開かれた。

彼女は「いただきます!」と両手を合わせると、豪快にピラダイの身にかぶりついた。

パリッ……ジュワァァァッ。

炭火で炙られた皮が弾け、鯛以上にふっくらとしたホクホクの白身が口の中で解ける。そこにマヨ・ハーブの酸味とコク、醤油草の香ばしさが絡み合い、極上のキャンプ飯の味が爆発した。

「〜〜〜〜ッ!! うまっ!! なにこれ、超美味いっす!!」

スアイさんは目をキラキラさせ、オーバーオールをパタパタと揺らして歓喜した。

「外で食う炭火焼の魚ってだけで最高なのに、この脂のノリと塩加減! あんた、ただの可愛いお嬢様かと思ったら、ガチのアウトドア料理人キャンパーっすね!?」

「えへへ、そんなことないですよ。……あ、熱燗もありますけど、飲みますか?」

「イモッカの熱燗!? 飲むっす! サウナと薪割りの後の塩焼きに熱燗……くぅ〜っ、整う〜っ!!」

イモッカのお猪口をくいっと煽り、おっさんのような歓声を上げる絶世の美女。

私はすっかり彼女と意気投合し、「今度、燻製の作り方を教えてください!」「おう、任せとけっす!」と盛り上がっていた。

そんな私たちの姿をテラスから見ていたルーベンス様は、静かにグラスをテーブルに置いた。

「……駄犬やトカゲだけでなく、ついに軍の元最高幹部(と書いてキャンパーと読む)まで手懐けたか。我が妻のB級グルメの引力は、もはやブラックホール並みだな」

深い深いため息をつきながら、ルーベンス様は私の元へと歩み寄り、私の腰をグッと自分の方へ引き寄せた。

「おい、スアイ。俺の妻に気安くアウトドアの技術を仕込もうとするな。アリアは俺のものだ」

「ははっ、相変わらず独占欲が強いっすね、ルーベンス。安心しろっすよ、あたしの恋人はこの大自然とDIYっすから」

カラカラと笑うスアイさん。

どうやらポポロ村での私たちの新婚旅行は、また一人、個性的すぎる(けれどとても気の合う)新しいお友達を迎えて、さらに賑やかなものになりそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ