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プロローグ:充実した一日

「つーいーたぁーー!!!!」

「ここにいると邪魔だから退くぞー」

「荷物放り捨てていくんじゃねぇーよ茜!」

「えへへーごめんごめんっ!」


 桟橋の上で両手を広げ大人しさの欠片もなく、くるくると回っているのは茜だ。周りの注目を集めているのは九割九部九厘茜のせいだと吉城はこっそり溜め息を付いた。

 茜の首根っこを掴んで端へ連れていくのも背の高い吉城の仕事だ。


「あー、くるくるしすぎて目が回るぅ~!」


 後ろの柵に寄りかかり上を向く。澄んだ大空を見上げる茜はこれから始まる日常に期待を膨らませていた。右腕を真上に伸ばし、まさに歓喜の産声を上げる。


「よっしゃ、いくぞーーーー!!!」

「何をしてんだお前は。ほら、一度ここに座れ。相変わらず落ち着きがないなお前は。朔夜もそう思わないか?」


 反射的に吉城は茜の頭を軽く叩いた。ただでさえ目立っているのにこれ以上目立つのはごめんだ、と。「えー、けちー」なんて言う茜を無視し、後ろに振り返って声をかける。ただ、そこに朔夜はいなかった。


「どしたのー?」

「朔夜が消えた」

「えー、またぁー!?」

「それは俺の台詞だ」


 ハイテンションな茜、所在不明の朔夜。どうやら今日も吉城は苦労人みたいだ。気付かないうちに溜め息を付いていた。



 ◇◇◇◇◇◇



「まずいな……。はぐれちまったか」

 そう溢した朔夜は人の波に撥ね飛ばされていつの間にか町の外れにいた。

 自分の荷物を背負い、右手で車輪付きの鞄を引き摺りながら歩きだそうとするといきなり左から衝撃が来た。見ればごろつきと間違えそうな人相の悪い男だ。

 三人とも自身と同じ制服を着ているから華々舞学院の生徒であることは間違いない。……というか制服を着ている時点で華々舞学院の生徒であることは確定なのだが。如何せん人相が悪く、いかにもな不良にしか見えない。


「よう、お前新入生か? 順位どんくらいだよ~」

「ぁ、っとその……」

「つか、首飾り見せろよ。そっちのが速ぇから。見せれるよな?」


 朔夜の同意も得ずに首飾りに手を伸ばす。

 華々舞学院の生徒が言う首飾りとは身分証明書と同じだ。特殊な素材でできているので通信機代わりにもなるし、学園SNSで色々な情報を得ることもできる。


 生徒は政府によってランキングで振り分けられその実力に伴って色や権限が変わってくる。下から黄土、銅、銀、金、白金(プラチナ)黒金(くろがね)、ミスリル、ミレイジュ。これを評価として表すときは下からG、F、E、D、C、B、A、Sという記号を用いて表す。更にこれを上位、下位で分けるので結局本当はA+などと表すことになる。ミスリルのみS+、S-とA+、A-に振り分けられていて、ミレイジュは特殊な位置付けとなっている。


 学生のうちで目指すべきなのはDランクの金。ここまでいけば学園内では一目おかれるだろう。

 もちろん朔夜に声をかけてきた相手は全員銅ランクだ。華ヶ舞学園は強いものが上に立つ場所。だからいかにも荷物持ちで付いてきている朔夜はランクが低いだろう、とちょっかいをかけに来たのだ。一応年功序列の問題もあるのでランクが先輩より上でなければその先輩を敬うべきだ。


 荷物を持っているがゆえに抵抗できない朔夜の服の中から出てきたのは、黄土色だった。

 思わず朔夜は苦笑いする。どういう反応をされるのか分かりきっていたから。


「え、黄土色……?」

「黄土色って、え?」

「あの、え? ええ?」


 朔夜の目の前には困惑した表情の三人組。朔夜をパシリに使ったりお金をぶんどろう、などと考えていたのだが……。

 ガシッ、と力強く朔夜の肩に手を載せると泣きそうになりながら彼らは言った。


「……おいお前、なんかあったら俺たちに言え!!」

「すぐに助けにいくから!!」

「安心しろ。もう大丈夫だ!!」


 今まで存在しか聞いたことのない黄土色を見て、なぜか母性が芽生えたのだった。彼らは朔夜の荷物を持ち、あまり危険のない大きな道を通って学園まで送り届け、その途中で朔夜にクレープを買い与え、自分達の連絡先を与える始末。更には遊ぶ約束まで取り付けた。


「あばよ!」

「じゃあな!」

「またな!」


 大柄強面の不良さんたちが笑顔で大きく手を振って去っていった。

 ……きっと子供が見ていたら泣いていたと思う。


「…………味方ができた、のか?」


 黄土色だということを悲しめばいいのか、喜べばいいのか。半分泣きそうになりながら、自分を待っていた幼馴染を見つけて歩いていく。

 朔夜にとっては充実した一日となった。濃すぎる一日、途も言えるけれど。

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