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プロローグ:出逢い頭に変態

 次から本編に入ります!! けっこう頑張っているので微笑ましく見て下さい!


平成30年3月5日 更新

 朔夜を後ろからぎゅうっと抱き締めているのは燃えるような赤毛が特徴の女性だった。朔夜の肩に甘えるように頭を擦り付け、ハートマークを彼方此方に飛ばしているような、そんな女性だった。


「へ?」


 初めに我に返ったのは朔夜だった。


「う、わぁぁ!?」


 頬を赤く染め逃げようともがくが逃げられず、華奢な体から連想する筈もないその剛力に呆気なく囚われたのだった。


「ふにゃはははは!! ようやく大人しくなったか少年っ! さぁさぁこのまま別の部屋でアンナコトやコンナコーーぶべっっっ!?」


 調子にのって可笑しな笑い方を始めた頭の可笑しな人にクリティカルヒットした茜の拳。

 朔夜の肩口にあったとある顔をぶっ飛ばした体勢のまま、茜は呟いた。


「……黙れ変態」


 立ち位置的に誰も茜の顔を見ることが出来ず、その場の温度が極限まで下がった。微動だにしない茜が行使した捕縛霊術の光と現れた鎖の擦れ合う音だけが遠くまで響いていた。

 そして茜はようやく拳を収め、動き出したかと思えばゆらりと朔夜へ一歩近づき、両手で制服の襟首を掴む。


「変態変態スケベ変態!! 朔夜の馬鹿ぁぁぁ!!」


 朔夜を力の限り前後に揺らしながら泣き喚きだした。冷や汗が流れている吉城は目が点になってまた固まっていた。


「なんで俺なんだぁぁぁぁ!?」

「抱き付かれて鼻の下伸ばしてた癖にぃぃぃい!! 朔夜のスケベぇぇぇ!!」

「まぁこうなるよな……」


 要するにまぁ、嫉妬である。朔夜本人にその気は無くても顔を赤くして照れていたのは事実。御愁傷様と言うしかない。そして膠着状態から復活して幼馴染二人を父親のように見つめている吉城。

 襲われかけたというのになんと平和なことか。穏やかな時間は死にそうになった朔夜のために吉城が茜を止めることで終わりを迎えた。


「さて、この変態どうする?」


 未だ拘束されたままの変態の処遇をどうするか決めなければならない。

 そして、一秒たたずに出てきた結論は。


「「「放置」」」


 三人が完璧に一つになった瞬間だった。


「本当はこのまま海に捨てたいけどね」


 憎々しげに吐き捨てる茜は、まだ顔が赤いようだ。自分がしでかしたことに終わってから気付くというテンプレである。


「「同感」」


 それに応える二人も憎々しげに吐き捨てた。ちなみに吉城の内心は「歓迎会に遅れて入るとか初っぱなから死んだ……」である。


「捨ててる時間も無いし、海にゴミを捨てたら駄目だしな」

「いや、ちょっとごみ扱いしないでよっ」


 先程よりも遥かに俊敏な動作で構える三人。お前にかけてやる慈悲なんてないという目だ。朔夜を狙われる可能性を考慮したのか、朔夜を真ん中に挟んだ。その三人にへらへらと笑って返すのは、捕まっていたはずの変態。


「あ、あと変態っていうのは止めて欲しいなぁー」

「じゃあ、頭の可笑しな人」

「それもやめて!?」


 実際に変態で頭の可笑しな人だろうという無言の圧力に傷ついた振りをして泣き真似を始めた。けれど誰ものってくれないので渋々泣き真似を止めて喋り始めた。


「茜ちゃんは“みる”ことや“反応する”ことが得意なんだね。不自然さに一番に気付いてた」


 唐突に喋りだしたその内容に三人が固まる。相手の分析。戦場で生き残るために、最も重要なこと。


「もし茜ちゃんが気付かなかったら、君達二人とも通りすぎてたよね、まぁその後気迫に呑まれそうになってたけど。こればっかりは経験かなぁ。吉城くんは茜ちゃんをすぐに護ろうとしてた。“はやさ”が武器なのかな? けど周りに対する注意がまだまだ疎か。これも経験だね。最後に朔夜くん。君は正体を見抜けたけどすぐに口に出してしまった。危機感皆無だったねぇ」


 言い終わるとともに笑いかけてくる。先程までのへらへらした姿とは違って働く大人、といったイメージだ。

 指摘されたのは全て三人が直さなければならないと自覚しているところ。そして分析されたのは今回が初めて。返す言葉も無い三人は唖然としている。益々、この人のことが分からなくなったようだ。


「あと私の名前は変態じゃないよ」


 大人しくなった三人に再びの言葉。「じゃあなんて呼べばいいんですか」と不貞腐れたように言う茜に満足したようで、笑みを深めた。


「聞くがよい皆の者!」


 ……ちょっと、いやかなりイタイ人だろう。右手で顔の半分を覆い、上から目線で三人を見てくるのだ。

 呆れた顔を通り越して憐れみの目で見られていることをこの女性は理解していない。


「先生! 教授! 理事長! お姉ちゃん!ママ! どれでも好きに呼ぶと良い!」


 もじもじしながら「できれば、お姉ちゃんがいいなぁ……」と言ってくる変態、もとい女性に対し、「なら変態で」などという軽口すら返せなかった。


「理事長?」

「ああ、そうさ!」

「華ヶ舞学院の?」

「勿論だとも!」

「教育者?」

「その通り!」

「「「…………」」」

「ん? 他にも聞いてくれていいんだよ?」




「「「嘘だぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」」




 揃った三人の絶叫は防音であるはずの壁を突き抜け、今にも始まろうとしていた華ヶ舞学院主催、新入生の為の余興の会場に轟いた。中の生徒は悲鳴に近い絶叫に何事かと身構えたり、驚きでお茶をこぼしてしまった。グラスの割れる音が響くなか、教員達は襲撃なのかと考え、新入生のことを生徒会役員に任せ、急いで扉の前に集まった。外で何が起こっているのか確認し、その事態を収拾しなければならない。空気の糸が張りつめられたかのような感覚。しばらくしてゆっくりと少しずつ扉を開けた。教員達の目に飛び込んできた映像は。


「大丈夫……。痛くしないよ……?」

「や、め……っ」


 ねとねとの液体で全身を拘束されて倒れている茜。朔夜を脱がしにかかっている理事長もとい変態。変態を引き剥がそうとしている吉城。生徒達からすれば、想像を絶する光景に違いない。目の前の変態が理事長だなんて夢にも思わないだろう。しかしどうやら慣れっこなのか教員達は呆れ果てて言葉も出ないようなのに、生徒にこの光景を一切見せずに対処した。

 教員はすごい。色々と別の方向にすごい。日本一の学院がこんなに人格が破綻した人間を理事長に迎えていることを隠し通しているのだから。


「それじゃあ気を取り直して! はじめまして、新入生諸君!! 私は理事長の岩崎未来だ!」


 あれから救出された二人は教員によって翼持つ乙女の備え付けの医務室に運ばれた。吉城は他の教員とともに理事長の捕獲に勤しんだ。怯むことなく変態にぶつかっていくその姿は、教員達から多くの尊敬と信頼を集めたそうだ。この時に出来た吉城のファンクラブは元々のファンクラブと合流するのだが、それはまた別の話。


 また、理事長である未来の裏の顔については口外禁止となった。悟らせることすらNGというのが日本政府の意向であるとか。三人が「政府が関わってるのか!?」と再び絶叫しそうになったことは言うまででもない。被害にあった生徒は知っているとしても、被害者がここ数年いないのだとか。

 まだ未来を怖がっている朔夜は、茜と吉城の側から離れようとしない。演説の途中や席に座っている間等、隙を見せればすぐに意味深な笑みを浮かべてくる理事長は、全ての先生から警戒されている。


 理事長や教員の話が終わり、ティータイムの時間となった。そのため、あちこちで和やかな会話がなされている。そんな中三人は窓側のテーブルで話をしていた。


「結局、歓迎会とか余興だからってことで襲われなかったけど……」

「色々と大変だったな。一番の被害者は朔夜だが、さすがに俺も疲れた」


 被害らしい被害を受けていない吉城もさすがに疲れたらしい。野獣という異名を持つ彼でも限界のようだ。被害を受けた当の本人はというと、やっと落ち着いて会話の出来る状態になった。先程まで、理事長の「り」と聞くだけでだめだったのに。


「あの人は変態で、とんでもなく面倒臭いけど、あの言葉は正しかった」


 不貞腐れている朔夜の言葉には、ほんの少しだけ尊敬が混じっていた。落ち着いて理事長のことをしっかりと考えられるようになったからだろう。

 不意に茜が上を見上げて言う。

 

「そうだよね、あの言葉はすごい正しかった。萎縮して呑まれそうになったのも確かだし」

「俺が周りを見れなかったのも、確かだから。反論は出来ない」


 それぞれが理事長のことを少しだけ尊敬した今、三人の目標は決まった。


「俺らの目標は、とりあえず理事長を見返すことだな」

「あの変態にああも言われちゃうとねぇ」

「次は、勝つ」


 それぞれが想いを込めて未来を見る。

 その視線に気付いたのか、獰猛な笑みを浮かべて見返してくる。それは何故か獲物を罠に誘う危険な笑みにそっくりだった。


 天の楽園――シエル・イル。四百年前にやって来た人類の第二の故郷。その下にある限り無く広がる大地では、存在を疑うような闇より暗い歪な何かが吼える。

 それが怒りによるものなのか、嗤いによるものなのか、悲しみによるものなのか、怨嗟の声なのか。何にしろ人類は、その咆哮を聴くことはない。

 いつか、聖霊と共に再びその地に降り立つまでは。

 上手く書けてますかね~。

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