12:二つ目の邂逅
「いったい外で何が――!」
真っ先に飛び出したのは茜だ。店の扉を蹴破るようにして通りへ出ると思わず固まった。目の前の惨状に言葉を失い立ち尽くす。
「嘘、でしょう……?」
飛び散る赤と紅。整っていたはずの街並みも地面が抉れ店は崩れて街路樹は根が露になっている。華やかだった街は火焔の化け物を背景に見るも無惨な姿となっていた。
「なんで、こんな……」
初めて見る凄惨な光景になにも言えない。実際茜はただの十六歳の少女で大人に比べればまだまだ幼子。降りかかる血の味も向けられる殺意も腐った死体の臭いもなにも知らない。
「おいお前。護ってやらんのか?」
戦場の熱を浴びる茜を見ながらテリアはフェルに声をかけていた。相も変わらぬぞんざいな口調。圧倒され震える茜の背を見て何か思ったところでもあったのだろうか。
「……護る?」
「人間は弱く儚く脆い。大切に籠の鳥にするのかと思ったのだが……どうやら違うようだな」
その言葉に嘲りが含まれているのを読み取ったテリアはフェルの言わんとするところを察した。「俺の主人はこんなに弱くない」というわけではなく、「この程度越えられなくてどうする」といった試練の一種なんだろう。来るべきいつかの為に己が信頼できる主であるかどうかを定める。
「きっと脆いが、しかし崩れないだろうな。ーーほら、推測は当たりだ」
淡々と告げるだけの二人は、人間の強さを垣間見たのだと思う。
茜の瞳は、折れていない。
恐怖に歪み、笑顔すらままならないというのに。
「フェル、貴方の力を……私に貸して」
逃げることなく言ってくるのだ。
そんな少女が好ましいと、フェルは思うのだ。あのときも、そうだった。
フェルは鼻で笑った。
「俺の主ともあろうものが何を言ってるんだ」
フェルは天邪鬼なようだった。
「そんな良いところで悪いが……ちょっと良いか?」
「柊蓮」
「お前達はあの中心地に向かいたいんだろうが俺は行けねぇ。チビ助だって朔夜がいるかもしれねぇんだから行くんだろ? 俺は止めはしない。行ってこい」
柊蓮は真面目な顔でそう言った。いつの間にかその肩には黒いマントがかかっていた。
「どこ行くの……なんて聞かない方がいいよね」
「そうしてくれると、助かる」
「帰ってきたら甘味だぞ。私は腹が減ってるんだ」
「朔夜もいたら考えてやるよ」
いつの間にかフェルは扉のそばにいてテリアがそのもとへ向かっていた。
「じゃあ、行ってきます」
そう、呆気ないように三人は戦地へと赴いた。
◇◇◇◇◇◇
「きゃぁぁぁぁ!?!?!?」
「喧しい。黙ってられんのかお前は」
煙の立ち込める市街を疾る影。最短ルートを通って中心地へ向かう三人は尋常じゃないほどの速さで距離を縮めていた。暴言を吐きながらも目的地へと向かっていく様は仲の良い兄妹だ。
「おい、茜に対してどんな口の聞き方をしてやがる。燃やすぞ?」
「きゃああああぁぁぁ!?!?!?」
「ほう……。やれるものならやってみるがいい!」
真っ直ぐと向かっていくなかで一人だけ叫び続けているのは茜である。何故叫んでいるのかなど一目瞭然。文字通り真っ直ぐ向かっているのだから。目的地へと最短ルートで真っ直ぐ、家々を越えて。
要り組んだ土地柄故に普通に行けば辿り着くのは困難と考えたのだろう。テリアは家屋の上へと飛びフェルは茜を抱き上げて後を追った。この時点で既に「待って何するのねぇ!?」という抗議の言葉があったようだが二人の耳には届かなかった模様。聖霊たちの常識的なスピードで屋根の上を走り始め、今に至る。あくまで聖霊たちの、常識的なスピードである。
「とまってよぉぉおおおお!」
フェルに抱きつくことしかできない茜には御愁傷様と言うべきか。一応横抱きの体勢であって所謂「お姫様だっこ」なのだがそんなことを気にしてる余裕は無かった。
「む」
そして急停止。
「うわぁぁぁぁんぐぅっ!?」
乙女にあるまじき声が聞こえたような気がしないでもない。茜の顔色が真っ青なのも気のせいだろう。
「ねぇ、いったい何がーー」
「止まってくださいましたか」
茜の言葉に被せたように話したのは白い少女。そして、閉じていた目を開くと、言った。
「申し訳ありませんがここから先は通せないのです」
またひとつ、戦いの蓋が開かれそうだ。




