11:六芒星の戦闘狂
皆様お久しぶりですっ!
訳あって来れなくなってましたがそれは活動報告の方で!
爆破が起きてから走ること五分。その中心地へ向かう朔夜たちの前に現れた者がいた。髪は茶色で、詳しく表すとしたら茶褐色だろうか。鮮やかとは言えない色味だ。ハイネックのインナーに袖のないコートを着て、手にはコートと同じく黒地に緋の刺繍が入った艶のある手袋。その紋様は霊式に似ているが形は六芒星。全く異なるものなのか、それとも新たな術式か。
そんな彼が口を開いた。
「なぁんだ。可愛い女の子はひとりだけじゃんか」
可愛い女の子。この場に女性は一人だけなので間違いなくジュレのことを言っている。女だからと下に見ているのか、それとも意味は特にないのか。
ケラケラと笑っている割りには一分の隙もない。何か武器を持っているわけでもなく、構えているわけでもない。ただそこにいるだけなのに。
「どちら様だ? 生憎先約があってな。手早く済ませたいのだが」
「まあそう言うなよ。少し位は付き合っていけ、お坊っちゃん」
軽く、睨みを利かされた。
「「「ッ!」」」
この男の殺気によって足が自然と下がった。それだけ、格が違う。思わずジュレは唾を呑む。
「さあ、かかってこいよ。ここを通りたいんだろ? なら俺を倒せ。精々俺を――楽しませろ」
嗤ったこの男から溢れ出るのは殺気だなんて生易しいモノじゃない。荒れ狂うナニカをその身体に飼っているみたいに兎に角まともじゃない。まるで狂人だ。戦闘に於いてのみその本性を顕す戦闘狂。戦に狂い血に酔う生粋の化け物。
「……良いだろう。朔夜、此処は俺達が引き受ける。お前は進め」
ゆっくりと前へ出ながら朔夜に告げた。その瞳は相手から外れることはない。そして静かに霊力を練り上げ始めた。
「なっ! 俺も――」
「行けっ!!」
空を震わせる声。反論は許さず、肯定のみを許容する。その声には決意が乗っていた。此処で命を散らす決意。そうでもしなくてはこいつを止められないのだ。そしてその隣にジュレが並び立った。
「朔夜、私達が残る方が合理的だ」
その姿は既に本来のものへと変わっていた。その背中は銀の鎧で覆われ、靡く桃色が写し出されている。そして腰。其処にあるのはミスリルの十字剣。
それが表すのは――。
「ジュレ、君は……!」
「なるほど聖職者か! これは魂削た! 確かに、俺の濁った霊力には其れが一番だろうな!」
「……嗤うのか」
ぼそりと呟いたのは聞かせるためじゃない。戦場で嗤える者は強者か馬鹿と決まっている。明らかに前者だろう。
此れは少し――
――愉しめそうだ
その言葉に警戒する。こいつは、危険だ、と。なんとしてでも朔夜をこの先に行かせる。それが、パートナーである二人の考えだった。そして仕掛けようとした、そのとき。
「おい、あんた」
嗤いを収めることなく朔夜に告げた。三歩、横に擦れて路を開けた。たかが三歩。されど三歩。それは確かに隙であり、向こう側へと続く活路。
「行って良いぞ。つーか、行け」
何を言っているのか。此処を護ることこそが使命なんじゃないのか。それともこれは罠か。そんな思考が朔夜の頭のなかを渦巻く。
「手前を見逃した方が愉しめるんだよ」
その顔に、言葉に、嘘は見られない。だから朔夜は飛び出した。瓦礫で埋まりかけた路を駆けた。二人の横を抜け、茶髪の男の傍らを疾駆する。
そしてその姿は見えなくなった。
「さあ、これで憂いは無くなっただろ? あいつは此処を通った。お前たちを縛るものは何もない。勿論、此処で逃げても良い。その場合……あいつを俺が討つ」
「そんな脅しなど効かぬよ。基より私達は此処に残る理由がある」
二人が朔夜を行かせた理由は二つ。一つは三人で突破するのは明らかに無謀だったから。そしてもう一つは。
「どうせ残るのならパートナーとの方が良いだろう?」
契約を結んでいる吉城とジュレの初陣だから。互いの戦力の確認を行う為にも。そう判断した結果だ。
そして、今此処に残ることにも二つの理由がある。朔夜を殺させないためと二人のルールを守るため。
本来、勝てる見込みがゼロの相手に立ち向かうことは命を溝に棄てるようなモノだ。それでも、仲間を置いて逃げるなど言語道断。助けられる命があるのなら、助けるべきなのだ。それがこの二人のルールで、それこそがこの二人の契約の理由。
こいつを野放しにしておけば、どんな被害が出るのか分からない。それは決して許されないことだ。
だから。
「切り刻まれる用意は良いな?」
「貴様を倒す」
「良いねぇ。そう来なくっちゃぁ!」
死闘が、始まる。
生死の波というものはやはり存在するのだ。平和の後には戦争があり、戦争の後には平和がある。それが長かろうが短かろうがいずれ回ってくることには違いない。
敵は一人。
たかが一人、然れど一人。一対二などハンデのうちにも入らない。勝てる見込みなんてない。
初めての死地に二人は遭遇している。
「行くぞ」
言ったのはどちらか。ジュレか吉城か、はたまた二人か。練り上げられる聖属性の霊術と無属性の霊術。
始めに攻撃したのはジュレだった。
ミスリルの十字剣を鞘から抜き左下から切り上げる。掠りもしない。まるで予想していたかのようにひらりひらりと曲芸のように避け続ける。顔にはやはり笑みが浮かんでいて完全にペースを掴んでいた。
同じことが続くだけかと思われたが急に高く飛び上がり空で一回転してから三メートル後方に降り立った。
後ろから攻撃したのは吉城。ジュレが攻撃している間に後ろへ回り込み渾身の一撃を放った。
「~~っ!?」
つもりだった。
「吉城っ!」
利き手である右腕を体重移動によって打ち出した。意味のある一撃のはずが……結果は右腕の損傷。細く、そして深く傷つけられ、血が迸る。
傷を癒す間もなく後ろから豪速の蹴りがきた。無防備な背中にそれを受け、目前にいたジュレごと吹っ飛ばされる。
「がはっ!」
「うがぁっ!」
遠くから聞こえるその声に彼はさして興味もなかった。向かってこなければそれまで。それがこの男の考え方だ。二人の姿は煙に巻かれて見えなくなっている。その間に男は盛大な欠伸をかました。
危機感なんてものは存在しない。この場は戦場でもなく狩場でもない。ならば何か。答えは闘技場である。男が警戒する敵は無く、また仕留める獲物もいない。見世物のように其処に居るものをいたぶる。それだけだ。
再び二人が襲いかかってきても踊るように避け、首根っこを掴んで投げ飛ばす。
「……暇だなぁ」
爆発の余韻に包まれる地と比べ男の見上げる天は青い。
凶器を向けられても殺気を向けられても、この男にとっては猫にじゃれつかれているに過ぎない。
文字通り男にとっては暇な時間で退屈。
先程の笑顔なんてとうに消え去った。少しは楽しめるかと思ったのに暇なことに代わりはなかった。
「そろそろ終わりかねぇ……」
男は五分とたたずにそう口にした。
「誰が、終わりだっ!」
突撃してきた吉城の手をひょいとかわして腹を殴ってジュレのいるであろう方向にどかした。
「もうそろそろ立たなくなるかって思ってんだよ」
「残念ながらその当ては外れるようだ」
血の匂いとともに真横に見えた剣先。それが男の前髪を一つ落とした。数秒遅れれば目が潰れていただろう。
驚きの表情を隠せずに落ち行く髪を見るその男はやはり何を腹に抱えているか分からない。しかし。
「退屈は紛れるか?」
再び笑った。自然と上がる口角が問いに答えた。
傷だらけの二人と未だ傷のない一人。それが改めて対峙する。
「何年ぶりだぁ……? 俺を斬る敵なんて、なぁ……」
笑みは深くなるばかり。
「ちゃんと、相手してやるよ。次は傷を付けて見せろ」
次はもう一方のチームです!




