8:無礼者と怒りの焔
遅くなりましたー!! バトルシーンに入れそう、かな……?
指名されて立ち上がった茜は睨みを利かせるフェルの前にわざと立ちはだかって問いかけた。
茜の背中に隠されるように下げられたフェルは少し不満げな顔をしたが特に何も行動を起こすことはなかった。
「ねぇ聖霊さん。とりあえず名前を教えて貰っても良い?」
「お断りだ。素性の分からない者に容易く情報を与えようとは思わない」
茜は優しく接したつもりだ。近所の年端もいかない子達と遊ぶときのように可憐と言われる外面を顔に張り付けて尋ねる。
そんな茜をちらりと見るだけで優しく接されたテリアは別段反応は示さなかった。テリアとしてはむしろ警戒心が強くなった。
その理由は優しい完璧なこの笑顔と裏腹にゆったりと寛いで立っているはずの姿からは考えられない隙のなさにあった。別に聖霊魔導学院に通うものであればある程度の護身術、戦闘術は会得していてもおかしくはない。
だからと言って入学したての小娘と言われるような華奢な茜がここまで隙がないのはほぼあり得ないだろう。
簡単に言えば、この年でここまで完成しているのはおかしいということだ。
それはテリアが朔夜と戦っていたあの夜にも思ったことだったりする。だから余計に不気味なのだ。
というわけで、テリアのとる行動はある意味当たり前なのだが、それを当たり前と思わない人物がいた。
「貴様っ! いい加減にしろ!」
赤髪を自身の霊力で荒ぶらせて親の敵を見るような目でテリアを見る、フラム・S・デフェールがそこにいた。
こうなることを回避しようとわざわざ動かなくてもいい茜がフェルの前へと移動したのだが、どうやら無意味だったようだ。
「先程から我慢をしていれば何だその態度はっ!? 茜が質問をしているというのに真面目に取り合うこともせず! あろうことか素性の分からない者だと!? わざわざ優しくしてもらっているのが分からないのかっ!!」
「ちょ、ちょっとフェル! いくらなんでもそれは言い過ぎだよ! 抑えて!」
「だが!」
「おーさーえーて!!」
「うっ、ぐぅ……!!」
何とか茜が宥めすかしているものの何かが少しでもフェルの琴線に触れれば再発する可能性は高い、いやほぼ確実に再発するだろう。そしてそれを分かっていながら、テリアは燃料となる言葉を口にしようとした。
しようとした、ということだから結果できなかったのだが、そうなったのは茜が絶妙なタイミングでテリアの前に向き直ったから。今度は地面に膝をつき、しっかりと目線を合わせて話をする。ご丁寧に両手を捕まえて。
「私たちはね、別に聖霊さんに危害を加えたいわけではないの」
「私に危害を加える気はないと」
危険だと叫ぶフェルの声が聞こえてくるがそれを無視して茜はテリアにどうしたいのかを説明する。テリアも捕まっているから何ていう理由ではなく、真摯に話し始めた茜に興味を持ったから自然と抵抗する気を無くし、落ち着いて聞いていた。
「うん。ただ、聖霊さんの契約相手がとんでもなく上の身分の人だったら私たちはその人のところまで聖霊さんを連れていく必要がある。そうしなきゃ私たちが聖霊さんを拐ったって思われてしまうから。名前を教えて欲しいなっていうのはいつまでも聖霊さんだと呼びにくいからで、結局のところどうしても知りたいのは聖霊さんの契約相手が誰なのかってことだけなんだ」
一通り話し終えた茜の顔はテリアに話して欲しいと訴えていた。
「……取り引きをする上で相手に全てを話すことは愚策だ」
「っ! まだ言うか! この場で消し炭にしてやる!!」
その言葉を受けて行動したのはフェルだけだった。行動したなんて生易しいものではなく、言葉通り消し炭に変えたのだ。テリアが座っていた椅子を。
蒼い焔が椅子を包み、一瞬で消える。数秒間燃えただけの焔は椅子を舐めるように燃やし尽くし、後には高温の熱を残した。フェルは椅子だけでなくテリア本体を燃やそうとしたのだろう。そのテリアは燃える前に右側へと避けていた。
左側に避けた茜がフェルを止める前にテリアの堪忍袋の尾が切れた。
「いい加減にしろ。この人間まで巻き込むつもりだったのか」
「茜だったら避けることは可能だし茜には焔が翔ばないようにコントロールしている!」
「とにかく人の話を聞け!」
「お断りだこの無礼者が!!」
テリアの説得も虚しくフェルの周りには手のひらサイズの蒼い焔が留まっている。
「驕りたかぶった愚者が! 茜に無礼を働き、俺に喧嘩を売ったこと、必ず貴様は後悔するぞ!!」
テリアの黒い髪は白銀へ、フェルの赤い髪は蒼へと変わってゆく。まさに一触即発という空気の中、茜に任せてから一言も話さなかった柊漣が漸く口を開いた。
「止めろ」
その一言だけで互いがぶつけ合おうとした霊力は霧散し、髪の色ももとに戻る。変わったのは消し炭になった椅子だけ。
「ここは俺の店だ。だからこの店にいる限り俺の決めた最低限のルールは守ってもらう。それと、街中での戦闘は禁止されている。懲罰ものだぞ」
壁に寄りかかりながらあきれた顔で、いやちょっと怒った顔で二人を睨み付ける。最も、反省しているのは完全に事情が分かっていて尚且つ怒られていない茜だけだが。あとの二人は完全にだからなんだという好戦的な顔をしている。
「それとチビ助」
「……なんだ」
そして伝えられた言葉はテリアを驚かせるには十分の威力を持っていた。
「誰の契約聖霊か分からないと対応ができないから甘味は出せな「三武朔夜だ」いぞ――は?」
口を開け、惚けた顔でテリアを見る柊漣は阿呆の極致だった。うん、そりゃあもう写真に撮って飾っておきたいくらい。因みに茜もテリアを凝視したまま固まっており、フェルにひたすら声をかけられていた。
「お、お前今なんて」
「だから、三武朔夜だ。私の契約相手は」
静寂が訪れた。頭のなかでテリアの言葉をリピートしている柊漣と茜。きっちり十秒がたったその時。
「「朔夜ああああ!!??」」
思いきり、出せるなかでの最大音量で叫んだ二人の目には耳を押さえて踞るテリアの姿が見えた。
「それがどうした!?」
踞ったまま、詰め寄ってきた二人に返事を返すテリアだが、かなりたじたじである。因みにフェルは置いてきぼりで二人の剣幕に唖然としている。
「ちょっと待て、今朔夜は行方不明なんだぞ。いつ会った!?」
「さっきはぐれるまで一緒にいたが……」
「一緒にいたってことは、今もここにいるのか!」
行方不明のはずの朔夜が神楽坂にいると知れただけで思わず安堵の息をこぼす茜。朔夜がいないと聞かされてから、すぐに戻ってくると信じながらも一番心配していたのだ。
自分を心配してくれているフェルに大丈夫だよと声をかけようとすると爆弾が飛び込んできた。もちろん比喩である。で、あるが、茜の心を乱すには十分すぎる威力を持っていた。
「いや、行方不明もなにも昨日の夜から一緒にいたぞ?」
何でもないことのようにテリアは言うが、これがどんな意味を持つのか茜と柊漣に分からないはずがない。健全な成長期の少年と顔形の優れた美少女が一晩を共に過ごすのだ。実際、そんな事実は無かったのだが、見事に誤解した。
「朔夜はいったい何をしてるの? いやこんな可愛い子に襲いかかりたい気持ちは分からないでもないわ。でもだからと言って乱暴に扱って良いわけでは無いというかもっと繊細に扱うべきというか」
「なるほど襲ったのか。確かに顔だけ見れば美形の域に入ってるしな。俺の好みではないがあいつの好みではありそうだ。だがまあこういうタイプが好みなのか。俺はもっと胸があった方が好みだな」
すでにオーバーヒートして活動限界を迎えそうな茜と冷静に判断している柊漣。やはり経験の差が表れる。
「皆、伏せろ!」
茜に覆い被さって叫ぶフェルの声にすぐさま反応したのは柊漣だった。そしてすぐに轟音が響き店が、いや町自体が揺れる。
「いったいなにが!?」
通常化した茜が思わず叫び、柊漣が外へと駆け出す。
そこはまさに地獄絵図と表すべき光景が広がっていた。
今回も読んでくださってありがとうございます!!
感想、ブクマ、ポイント評価などお待ちしております!




