7:煩すぎるその光
毎度毎度更新が遅くてすみません……。
勢いよく扉を開けて現れたのは茜だった。そしてそのあとからもう一人。
「急くな。人に荷物を持たせておいて」
華ヶ舞学院の制服を着ている赤い髪の背の高い男性が茜のあとから入ってきた。その両手には荷物があり、歩くのが辛そうだ。どれもこの近隣の店の名前が入っており、必要な分だけというには程遠い。小言というよりも愚痴を本人に言いながら荷物を付近のテーブルに置こうとする。しかし、それは叶わなかった。
「……」
「茜? 聞いているのか?」
茜は扉から数歩歩いたところで立ち止まり、動いていないのだ。
その男性に声をかけられても答えない。茜の視線はある一点に釘付けであった。
「いい加減に放せ!!」
「うるせぇ、大人しくしろ!」
店のど真ん中で未だに続いている喧嘩。互いに近所迷惑だと怒られるほどの大声で怒鳴り合い、方や首を絞め、方やその手首を引っ掻く。テリアの体が、白く発光しているのでかなり危ない状況だ。このままだと怒りで店をぶち壊しかねない。それに、相手をしているマスターも首根っこを掴んでいるというよりは首を絞めているという表現の方が正しいのだ。というか本気でテリアの首が絞まっているのだ。そんな危険な(物理的な限界が近づいている)戦いは止まることを知らない。
そして茜はこの店のマスターと思われる男性に首を捕まえられ、暴れているテリアを凝視していた。頬を赤く染め、口を少し開け、瞬きすらせずにじっと見つめていた。こっちはこっちで結構危険な状態だ。赤髪の男性は一度店の外に出て荷物を置くと、背伸びをして目を擦り、頬を叩いた。地面に置いた荷物を掴み上げると深呼吸してからもう一度扉を開けた。今度はゆっくりと。しかし中の様子は変わらない。夢であれば良いのにと思った赤髪の男性は一つの大きなため息をついた。
喧嘩している二人は見られていることだけでなく、店内に茜たちが入ってきたことにも気づいていない様子だった。そして茜も後ろで扉が動いたことに何も気づいていないようだった。否。気づいていたかも知れないが、どんな物音も今の茜には届かないのだろう。
そして茜は無言のまま、走って、飛びついて、抱き締めてその先へと転がっていった。
もちろん狙いはテリアである。先程から穴が開くほど凝視していたのはテリアなのだから。
「うおっ!」
「っ!?」
マスターは横から跳んできた茜の気配をすんでのところで察知したのだろう。ぎりぎり手を離し、重心を後ろに下げて避けることが出来た。
そしてテリアも直前に気づいたものの捕まっていた為に回避行動が取れず、茜に捕まってそのまま店の奥へと連れ去られていった。そしてすぐにテリアの悲鳴と茜の感激の声が店内に響いた。
「なんなんだお前は!?」
「可愛い! あーもうほんと可愛い!!」
ちょうど扉の方からは死角になるところで思いっきり百合百合な光景が広がっている。男二人は見なくて良かったはずだ。声だけでもかなり引いているから見たらきっと茜に対する態度が変わってしまう。
茜はテリアのお腹のあたりに腕を回し、逃げられないように固定していて、対するテリアは逃げようと暴れているのだが、それもまた戯れているようにしか見えない。
「「……」」
男性陣はその場で固まるしかできない。あんぐりと口を開け、二人が居るであろう方向を凝視しながら二人の心中は狂いまくっていた。
(なんなんだなんなんだあれ塔野茜だよな? 本当に塔野茜だよなぁ!? あんなキャラだったのかあいつは! というかあのチビ助と知り合いだったのかよ!? 女って本当に裏がありすぎるわ! マジで怖いんだが本当に頭イカれてるよなぁ!!)
(あれは……本当に茜なのか!? 出会ってから少ししか経っていないが全くの別人に見えるぞ!! 先程まで一緒にいたいつもの茜は何処へ行った!! というかあれは女だからこんな風になるのか!? 女だからでなければ困るぞ!! 男もあれの対象になるのであれば俺はこれからどう付き合っていけばいいんだっ!!)
まだ百合百合しい光景が死角外の場所で続いている中、荷物が手から滑り落ちた音で我に返った男二人は互いに顔を見合わせた。どちらの顔にも疲労が色濃く残っている。
「……取り敢えず、荷物を置くか?」
「……ああ、そうさせてもらおう」
互いに疲れはてた顔で会話をし、ため息を付いた。これからあの二人をどうにか止めなければならないのだから、ため息の一つや二つついても責められる謂れは無いだろう。止めるとなると大変な労力が用いられるだろう。いや、それ以前に女子二人の状態を見るだけで精神は大幅に削られるだろう。というか実際削られた。
◇◇◇◇◇◇
暫くして嫌々ながらも茜とテリアを押さえた二人は十分な距離を取らせながら会話をしている。万が一にも何かが起こらないように椅子に座った二人の後ろに自分達が付くという厳重体制で。
女子二人は見つめあっていてそれがまた男性陣の胃に圧力をかけている。髪を逆立てて見るテリアとニコニコと笑いながら楽しくて仕方ないと言う空気を出す茜。完全に余裕がある。
「さて、じゃあ取り敢えず説明しろ塔野茜」
「えー、いい加減にフルネームで呼ぶのやめてよー」
最初に口を開いたのはマスターだ。言葉の端々に茜に対する嫌悪感が見え隠れしている。茜はそれを歯牙にもかけないから全くダメージを受けていないようだ。もう少し自重すればいいものの、茜のテンションは特に変わらない。
「黙れ貧乳娘」
「ひどっ!」
わざとらしくショックを受けた表情をした茜は「了解しましたよ」というと後ろを振り返り、自分の傍らに立つ赤い髪の男性を前へと押し出した。
「フェルは私の契約聖霊で、かなりの戦闘狂。名前はフラム・S・デフェール。それであっちのむすっとしてて口の悪いのは旭柊漣。ここのマスターをやってる人」
前半は柊漣に向けて。後半はフェルに向けて伝えた言葉だ。互いに会釈をしてなかなかに仲が良さそうだ。というか出会って一時間も経っていないというのに確実に仲が良い。これは茜の功績とも考えられる。ただ、そのために払った犠牲は大きいが。
「……お互いに苦労しますね」
「ええ、まあ。そちらも契約聖霊になったとは。何かあったら言ってください、出来る限り力添えします」
どこかから「敬語とか変……!」という声が聴こえてきたが、柊漣は聞かなかったことにした。
そして全員の視線はまだ自己紹介をしていないテリアへと向く。
「で、お前はいったい何者だ。つーかなにしに来たんだよ」
柊漣が面倒くさそうに訪ねると、これがテリアだというような尊大な口調で返事が返ってきた。
「先程から言っているだろう、甘味を食べに来たのだと。もしやお前の頭には脳が詰まっていないのか?」
鼻をならして答えるその姿はさながら暴君。誰もが嫌がるであろうことは間違いない。ただ一人ハイテンション過ぎる茜を除いて。再び抱きつこうとして止められるぐらいには理性が崩壊している。
「我が儘って本当に可愛い!」
両手を頬に当てて、幸せに浸っているその姿は更にドン引きされること間違いなしだ。
「結局お前の名前はどうしたんだよ。まさか名無しとか言わないだろうな」
「敵にわざわざ名を言うやつがいるか?」
椅子に座ったまま、頑として名を言わないその姿に柊漣はとうとう痺れを切らしたのか最終兵器の投入を決めた。
そう、その名も塔野茜である。
「おい、貧乳娘。あとは任せた」
「はいはーい! やっとわたしの出番だね? すぐにでも情報を引き出しちゃうよ!!」
敵意の混じった視線と狩人のような鋭い視線が火花を散らし始めた。
感想、ブクマ、ポイント評価などお待ちしています!!




