第13話 金星の塔、最期の闘い
三人は再び同じ部屋へ戻っていた。
アフラは静かに拍手する。
「素晴らしい。」
「ですが、本当の試練はこれからです。」
塔の中心に巨大な水晶が現れる。
そこから紅紫色の光が三人を包む。
突然。
ナディアの胸が激しく高鳴る。
アントニウスを見るだけで苦しい。
彼を失う恐怖。
彼を守りたい想い。
彼の笑顔を見たい願い。
すべてが何十倍にも膨れ上がる。
「駄目……」
「これが私なの?」
ナディアは涙を流す。
「それとも塔なの?」
アントニウスも異変を感じていた。
ナディアが傷つく姿を見るだけで胸が締め付けられる。
冷静さが消えていく。
そこへアフラが囁く。
「愛は美しい。」
「ならば永遠にしてあげましょう。」
「二人とも、この塔で暮らせばいい。」
「誰も傷つかない。」
「誰も失わない。」
ナディアはアントニウスへ手を伸ばしかける。
しかし、その手を止めた。
「……違う。」
「もし、この気持ちが本物なら。」
「塔がなくても残る。」
「もし偽物なら。」
「ここで選んではいけない。」
彼女は自分の胸へ手を当てる。
「私は、自分の心を取り戻してから答えを出す。」
アントニウスも静かに頷いた。
「それでいい。」
「答えは急ぐものじゃない。」
二人の言葉を聞いたアフラは、初めて表情を曇らせた。
「感情を……疑う?」
「人は感情に従う生き物でしょう?」
アントニウスは剣を抜く。
「感情は大切だ。」
「だが、人は感情だけで生きているわけじゃない。」
「信じるかどうかは、自分で決める。」
アフラの微笑みが消えた。
「ならば。」
「力ずくで、永遠の愛を与えましょう。」
紅紫色の光が暴走する。
巨大な女神像がゆっくりと立ち上がった。
塔全体が揺れ始める。
ナターシャは双剣を構える。
「来る!」
アントニウスは剣を握る。
ナディアは黒い粘土板を掲げた。
金星の塔、最後の戦いが始まる。
紅紫色の塔の最上階。
無数の花びらが宙を舞う神殿。
中央には巨大な女神像。
その足元で、金色の法衣をまとった神官アフラが静かに微笑んでいた。
「ようこそ。」
「試練を乗り越えた者たち。」
「ですが、この先へは進ませません。」
アントニウスは剣を構える。
ナディアは黒い粘土板を握りしめる。
ナターシャは大弓へ矢をつがえた。
アフラは両手をゆっくり広げる。
「私の力は、人の心だけではありません。」
「愛とは、距離を超えて届くもの。」
「だから攻撃もまた、距離を選びません。」
神官アフラの戦闘
突然、床一面へ紅紫色の魔法陣が浮かび上がる。
「散れ!」
アントニウスが叫ぶ。
ドゴォォォン!!
神殿全体へ光の柱が降り注ぐ。
石床が砕ける。
ナターシャは柱へ飛び移りながら叫ぶ。
「広範囲攻撃!」
「全部避けるしかない!」
その瞬間。
アフラは空中へ浮かび上がる。
紅い翼が背中から広がる。
さらに両手から無数の光の槍を放つ。
ビュオオオッ!!
空から雨のように降り注ぐ槍。
同時に地面からも紅い結晶が突き上がる。
上下同時攻撃。
アントニウスは回避しながら分析していた。
「地上も空も……」
「攻撃範囲が広すぎる。」
ナディアが叫ぶ。
「近づけません!」
ナターシャが矢を放つ。
ヒュン!
矢はアフラの肩を掠める。
しかし彼女は微笑むだけだった。
「その程度?」
「私は戦場全体を支配する神官。」
「一人では勝てません。」
巨大な紅紫色の球体が頭上へ現れる。
「終わりです。」
ドォォォォォン!!
神殿全域を爆発が飲み込む。
違和感
煙が晴れる。
三人は辛うじて柱の陰へ逃げ込んでいた。
アントニウスは静かにアフラを観察する。
「……変だ。」
ナターシャが息を切らす。
「何が?」
「攻撃は完璧だ。」
「死角がない。」
「なのに……」
アントニウスは剣を握り直す。
「一度も近づいてこない。」
ナディアも気付く。
「確かに……。」
アフラは常に距離を保ち、
二十歩以上近寄ろうとしない。
アントニウスの脳裏に、
ローマ軍団で学んだ戦術が浮かぶ。
「遠距離戦しかできない。」
「いや……」
「近距離戦を恐れている。」
ナターシャが驚く。
「まさか。」
アントニウスは静かに笑った。
「見つけた。」
「弱点だ。」




