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理想の王子様なんていなかったので、自分で目指すことにしました。  作者: 空飛ぶひよこ
第三章 はりぼての理想

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幸福な子ども

「アルファンス……」


 確かに、悪魔に関する知識そのものから遠ざけられていた今までの状態を考えれば、今の状況は破格と言っても良い厚遇なのかもしれない。普通ならば、例えそれが危険度の低い物であったとしても、禁書自体見ることが出来ないのだから。

 手に入らないものを求め、嘆くよりもまず、手近な物から今回の問題の解決策を探るのが最も建設的で現実的な考え方だ。

 アルファンスの言うことは正しい。だけど正しいからこそ、分からない。


「アルファンス……何で君はそんな、冷静でいられるんだい。君は、お父様達の扱いが悔しいとは思わないのかい」


 瞬時に正しい選択を選べるアルファンスと、感情に流されてしまった自分の、絶望的なまでの差が、一体何処から生まれるのかが、私には分からない。


「……最初に学園の書庫で調査をするように言われた時点で、こうなることは大体分かっていたからな」


 アルファンスはどこまでも、冷静だった。


「国内で禁書が最も多く保管されているのは、王宮の書庫だ。そこにはそれこそ国の存続を脅かすような危険な上級悪魔を召喚する術が記載されたような本も、何冊も収められている。……最も、俺も実物を目にしたことはないがな。王宮の書庫は、宝物庫以上に最も厳重で強固な警備がされていて、王である父上ですら一人では自由に本の持ち出しが出来ないような魔法が掛けられている。恐らくはその中になら、赤毛の女の件にぴったり該当する悪魔に関する本もあるだろう。……だが父上は、王宮の書庫については一切触れず、ただ学園内で調査するようにとだけ言った。それが俺達に任せられる、許容範囲だと判断したからだろう」


 王宮の書庫……知識としては知っていたが、そんなことまで全く頭が回らなかった。

 王族であるアルファンスの方が、私よりずっと王宮のことに詳しいのもあるが、きっとそれだけの違いじゃない。


「もし憤りを感じる矛先があるのだとしたら、それは俺達の手に余ると判断した父上たちにではなく、その程度しか評価して貰えない俺達の未熟さにこそ、だろう。だからこそ俺達は、許された範囲で最善を尽くすしかないんだ」


 考え方の根本的な部分が……精神的な熟練度が、私とアルファンスは差があり過ぎるんだ。


「――君は、大人だな」


 思わず漏らした言葉を、アルファンスは鼻で笑った。


「俺が大人なんじゃない……お前が子ども過ぎるんだ。レイリア」


 馬鹿にしたかのような口調とは裏腹に、アルファンスの表情はどこか苦々しげだった。


「お前は子どもなんだよ。レイリア。……フェルド家当主殿や、優しい『お兄様』に守られて、綺麗なものに囲まれて真っ直ぐに育った、理想主義のお子様だ。絵本の王子様になるだなんて、荒唐無稽な夢を大っぴらに語って暴走しても、何だかんだで受け入れられて許されている、幸せな子どもだ。……俺も大概、王族のわりに恵まれた環境にあったとは思うが、そんな俺から見てもお前の環境はよっぽどだ」


「………」


「そんな顔をするな。レイリア。別に俺はそれを責めているわけじゃない。……先程すれ違った名前も知らない女生徒のように、そんなお前を愚かで滑稽だと思う人間がいる一方で、そんなお前だから惹かれる人間だって多いのだから。『子ども』のままい続ける……変わらないままのお前を通じて、失ったものを取り戻したような気持ちになる人間もいる。変わらない真っ直ぐさに、救われる人間だっている。一概に悪いことばかりという訳じゃない」


 ……アルファンスは、一体私に何を伝えたいのだろう。

 分からない。……いや、分かりたくないだけなのかもしれない。


「ザイードの件でも良く分かっただろう? 人は、自分がない物を持っている人間を、心の中である種の特別な位置に置く。抱く感情が憧憬ならば崇めるが、嫉妬ならば貶め引き摺り落とそうとする。だけど、感情の根本は一緒だ。憧憬は嫉妬に、嫉妬は憧憬に簡単に変わる……そして、お前の『子どもっぽさ』は、ある種の抑圧された人間のそう言った感情を誘発させるんだ」


「……アルファンス。何が言いたいんだ。話が変な方向に逸れてないか。それは、今の調査のこととは関係ないんじゃないのかい?」


「さあな。……自分でも話しているうちに、何を伝えたいのか分からなくなって来た。ただ、今のお前には伝えておいた方が良い気がしたんだ」


 アルファンスは棚から本を取り出して開くと、本に視線を落としたまま言い放った。


「理想の王子様を目指して、子どものままあり続けるのも、現実を知り理想を捨てて大人になることを選ぶのも、お前の自由だ。……だが、お前のあり方が周囲に齎す影響を、お前はもっと自覚した方がいい」


 自覚は……している。

 したうえで、「学園にいるうちだけは」という制限をつけて、理想を追求する道を選んだんだ。

 そう口にしようかと思ったが、やめにした。

 ……今は、そんなことより、まず本に目を通して、調査する方が先決だ。

 自分のあり方なんて、考えている余裕はない。

 私も慌てて、本をめくった。


 胸の奥に、悪い予感のように広がる黒いもやは、見ないふりをして蓋をした。

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