4話 食事の席でのお話
夕食の時間になり、私は食堂へと足を運ぶことにした。
このまま一人で部屋に籠もっていても、ただ思考が堂々巡りをするだけだと思ったからだ。
案内された食堂は圧倒されるほど広く、長い木製テーブルにサイラスが一人で座っていた。
私が部屋に入ると、彼は無言でこちらを見ると、自身の真向かいにある席へと視線を落とした。
「そこに座れ」ということなのだろう。
「し、失礼します……」
食事が始まっても、会話らしい会話は一切なかった。
静まり返った室内に、カトラリーが皿に当たる硬質な音だけが規則正しく響く。
その空気に息が詰まりそうになりながらも、私は必死にタイミングを計っていた。
(今しかない……。二人きりの今だからこそ、聞かなきゃ)
メインの皿が下げられ、デザートが運ばれてきたところで、私は意を決して口を開いた。
「……あの、サイラス様」
「なんだ」
サイラスは視線を上げず、短く応じた。
「どうして……私のような者に、求婚してくださったのですか?」
一瞬、彼の手がぴたりと止まった。
「身分が釣り合わないことは、重々承知しております。それに、私の顔はこの通りですから……今までの縁談も、すべて破談になってしまいました。アシュフォード伯爵家にとって、私と婚約することのメリットなど、何一つないはずです。それなのに、なぜ……」
「君は」
サイラスが、低く静かな声で私の言葉を遮った。
彼はゆっくりとナイフを置き、まっすぐに私を見つめてきた。
その凍てつくような青い瞳の奥に、ひどく複雑で切ない色が揺れるのを私は見逃さなかった。
「……そうか。君は、知らないのだな」
「え……?」
問い返そうとした私を置いて、サイラスは音もなく席を立ってしまった。
「ま、待ってください! 私、何か大切なことを忘れているのですか!? いったい何のことだか……!」
思わず立ち上がり、彼の背中に向かって声を張り上げる。
けれど、サイラスは振り返ることなく、ドアへと歩みを進めた。
「今日はもう、ゆっくり休め」
「サイラス様……!」
「……いつか、話す」
それだけを言い残し、彼は食堂を去っていった。
パタンと閉まった扉を見つめながら、私は呆然と立ち尽くす。
(何なの……? 私は、彼の何を知らないというの……!?)
サイラスの後ろ姿が脳裏に焼き付いて離れない。
解けることのない新たな疑問に、私の頭はさらに激しくぐるぐると掻き乱されるのだった。





