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3話 初めて認められた呪いの痕

 案内された客室は、広々として清潔で、窓からは手入れの行き届いた美しい庭園が見渡せた。


「エリシア様、こちらがこれからお使いいただくお部屋でございます」


 扉を開けてくれた若いメイドは、私の顔を見た瞬間、パッと花が咲いたようなとびきりの笑顔になった。


「ようこそいらっしゃいました! 私、メイドのリリーと申します。お会いできて、私、とっても嬉しいです!」


「え……?」


 予想外に弾んだ歓迎の声に、私は思わずその場に固まってしまう。


(嬉しい……? 私のこの顔を見て、会えて嬉しいだなんて……?)


 おずおずと部屋に入ると、メイドはうきうきとした様子で荷物の整理を始めた。

 その足取りは、見ているこちらまで楽しくなるほど軽やかだ。


「あの……なぜ、そんなに嬉しそうなの……?」


 どうしても気になってしまい、私はおそるおそる尋ねてみた。

 するとリリーは、待っていましたとばかりに目を輝かせる。


「だって、あの……あの旦那様が! 初めて、意中の女性をこのお屋敷にお招きになられたのですもの! 使用人一同、ずっと首を長くしてお待ちしておりました!」


「……初めて?」


「はい! しかも旦那様ったら、執事長に今日五回も『もうすぐ着くか』と確認していらして……」


「そ、そうなの……」


 あまりに意外すぎるサイラスの行動に、私はすっかり呆気に取られてしまった。

 その時、コン、とノックの音が響いた。


「……サイラスだ。入るぞ」


「え、はい……っ!」


 私が慌てて声を返すとすぐに扉が開き、サイラスが表情を変えずに室内へと入ってきた。


 リリーが素早く一礼して部屋を出ていった。

 二人きりになった室内に、氷のような静寂が落ちる。

 サイラスは私を一度だけ一瞥すると、すぐに窓の外へと視線を逸らしてしまう。


「部屋は……問題ないか。不都合があれば何でも言え」


「は、はい。とても素敵なお部屋で……申し訳ないくらいです」


「そうか」


 短い返答の後、それ以上の言葉が続かない。

 何とも言えない気まずい沈黙が、重く部屋を漂う。

 気まずくなり彼の方をちらりと見るが、窓の外の景色を見つめたままだ。


(やっぱり……私の顔を、直視したくないのかしら……)


 無意識のうちに、呪痕のある頬を隠すように手が動く。


「……その呪痕が、気になるか」


「え……っ」


 突然降ってきた問いかけに、心臓が跳ね上がった。

 サイラスは、窓からゆっくりと私の方へと向き直る。

 その青い瞳は、冷たいようでいて、どこか悲しげに揺れているようにも見えた。


 サイラスはゆっくりと私の方へと向き直る。


「他の者が君を見るような目で、私が君を見ていると思っているのだろう」


 図星を刺されて、言葉が出てこない。


「……私は違う」


「え……?」


 サイラスは静かに、けれどはっきりとそう言った。


「その痕は、君が過酷な運命から生き延びた『証』だ。私には、それを醜いと思う理由など、どこにもない」


「サイラス、様……」


 感情の読めない氷の仮面を被ったまま。

 彼はそれだけ言い残すと、流れるような動作で踵を返した。


「夕食は一時間後だ。無理に食堂へ出向く必要はない。長旅で疲れているなら、部屋に運ばせる」


 扉がパタン、と静かに閉まる。


(生き延びた、証……)


 一人残された静かな部屋で、私はそっと自分の頬に触れた。

 気味が悪いと罵られ、腫れ物のように扱われてきたこの呪痕。

 誰かにそんな風に肯定してもらったのは、私の人生の中で間違いなく初めてのことだった。

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