表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
496/671

1534年11月2週目。帳面合わせ。大友の姫君も参加。開かれた場であることに衝撃。動く金額にも衝撃。

十一月二週目。

本拠の広間では、定例の帳面合わせが開かれていた。

八郎、父、母、兄たち、帳面役、庄屋衆。

そこに今回は、大友の姫君たちも座っていた。

姫君たちは、目の前に積まれた帳面の多さに、少し驚いた顔をしている。

「このような大事なものを、これほど開けた場で話されるのですか」

姫君の一人が、思わずそう尋ねた。

八郎は頷いた。

「はい」

「開けた場で話すから、皆が安心します」

「借金がたくさんあることより、返し方が分からないことの方が怖いです」

「どこにいくらあり、何で返し、どの順番で消すか」

「それを見せれば、待てる人が増えます」

五郎が補足する。

「隠すと噂になります」

「噂になると、庄屋衆も農民も不安になります」

「帳面で見せた方が早いんです」

大友の姫君は、静かに頷いた。

「なるほど」

「借金を見せるのではなく、返せる道筋を見せるのですね」

八郎は満足そうに言った。

「そうです」

「では、細かい数字をお願いします」

帳面役が一礼し、帳面を開いた。

「まず報告でございます」

「島津本家筋の農民の借金につきまして」

「今週をもって、全て完済となりました」

広間が一瞬静まり、それからどよめいた。

三郎が目を丸くする。

「全部か」

「はい」

帳面役は続ける。

「完済のお礼として、二か所の庄屋衆より、仕入れ一回分相当の寄付がございました」

「合わせて百八十万文でございます」

大友の姫君が驚いた。

「寄付まであるのですか」

八郎はさらりと言った。

「あります」

「ただ、こちらも寄付で返していますからね」

「寺社市、炊き出し、湯浴み、借金整理」

「銭は回れば戻ります」

母が苦笑する。

「この子は、寄付まで帳面で回すからね」

帳面役はさらに読み上げた。

「今週の総合利益」

「飯屋、市、湯浴み、高級湯浴み、寺社市、焼き芋屋、交易、話会、仕入れ差益、寄付分を含めまして」

「一千七百七十四万文の黒でございます」

父が息を吐いた。

「また大きいな」

大友の姫君たちも、思わず顔を見合わせた。

八郎はすぐに次の帳面を指した。

「では、そのうち」

「肥後南部の一部の城の借金、六百七十万文を全て返します」

その場にいた肥後南部の代表たちが、息を呑んだ。

城の借金。

侍の借金。

農民の借金。

長く土地に絡みついていたものが、これで消える。

年配の村代表が、震える声で言った。

「これで、城も、侍も、農民も」

「はい」

八郎は頷いた。

「その一帯は、借金なしです」

「寺社市をたくさん使ってください」

「湯浴みにも入ってください」

「余った銭は、道具や布団や種に使ってください」

代表たちは深く頭を下げた。

「もちろんでございます」

「これで、また暮らしが豊かになります」

大友の姫君が小さく呟いた。

「八郎様は、民の心をつかむのがお上手ですね」

八郎はすぐに首を振る。

「いやいや」

「皆さんのおかげです」

「私は帳面を見て、順番を言っているだけです」

三郎が笑った。

「その順番が怖いんやけどな」

帳面合わせが一段落すると、話は新しく始めた話会へ移った。

八郎は考え込むように言った。

「話会ですが、少し分けた方がよいかもしれません」

「笑いの会」

「料理の話」

「九州一円の話」

「商いの話」

「怖い話」

「旅の話」

「全部を一緒にすると、少し散らかります」

六郎が頷いた。

「たしかに、笑い話を聞きに来た人と、商いの情報を聞きたい人では違いますね」

七郎も言う。

「バカ話ばかりだと、飽きる人もいます」

三郎が笑った。

「バカ話ばっかり聞いてたら、頭悪くなるしな」

五郎が続ける。

「逆に、情報通の話ばかりやと堅すぎる」

「今回は笑い、今回は料理、今回は旅」

「そう分けた方が客も選びやすい」

大友の姫君も興味深そうに言った。

「商人にとっては、各地の話は役に立ちます」

「どこで米が高いか」

「どこで魚が取れるか」

「どこの道が荒れているか」

「娯楽であり、情報でもあるのですね」

八郎は頷いた。

「はい」

「ただ、まだ試し試しです」

「衣食住を満たすことが大事なのは分かっています」

「飯を食べる」

「湯に入る」

「布団で寝る」

「借金を減らす」

「そこまでは分かります」

「でも、その先が少し難しいです」

母が首を傾げる。

「娯楽のことか」

「はい」

「その先は、笑いなのか」

「もっと美味しいものを安く食べたい、なのか」

「祭りなのか」

「芝居なのか」

「私自身、庄屋の八男で、貧乏寄りの感覚なので、まだぴんと来ていません」

三郎が腕を組む。

「芝居は金かかるしな」

「役者、場所、衣装、飯、警備」

「一回やるだけならええけど、続けるのは重い」

八郎は頷いた。

「そこです」

「八郎商会が全部賄うべきなのか」

「場所代を取り、客から少しずつ取って回すべきなのか」

「寺社市の中で小さくやるべきなのか」

「まだ分かりません」

大友の姫君が静かに言った。

「豊かになった民が何を欲しがるか」

「それを見るのも、遊学の一つかもしれませんね」

八郎は少し笑った。

「ぜひ見て、教えてください」

「こんなものがあれば面白い」

「こういうものなら大友にもある」

「これは銭がかかりすぎる」

「そういう話がほしいです」

四郎が言った。

「自分たちの暮らしを守るために、今は島津本家の侍衆に八郎軍を鍛えてもらっています」

「よそが困っていれば、こちらに入りたいと思う者も増えます」

「だから守る力も要ります」

八郎は頷いた。

「衣食住と娯楽」

「そして、それを守る兵」

「全部そろわないと、長く続きません」

大友の姫君は、帳面を見つめた。

一千七百七十四万文の黒。

六百七十万文の借金完済。

話会の分類。

芝居の費用。

兵の訓練。

それらが同じ場で語られている。

姫君は小さく息を吐いた。

「父上への文が、また長くなりそうです」

八郎は首を傾げた。

「短くてもよいですよ」

姫君は微笑んだ。

「無理です」

「ここは、短く書くには動いているものが多すぎます」

広間に笑いが広がった。

八郎は帳面を閉じながら言った。

「では、今週も順繰りです」

三郎が即座に突っ込む。

「その順繰り、今週も重いわ」

それでも、皆の顔は明るかった。

また一つ、借金のない土地が増えたのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ