1534年11月1週目。薩摩本家の侍たちを慰労。一日休み。夕方には宴で姫達が慰労。芋焼酎を振舞い二郎兄様が薩摩の芋焼酎の増産を頑張ってくれるから喜ぶ侍たち。姫達の慰労と芋焼酎は内緒ですよwww
しごき倒しの訓練が始まって、一週間が過ぎた。
八郎軍の兵たちは、毎日のように転がされ、走らされ、槍を叩き落とされ、盾ごと押し倒されていた。
島津本家の侍たちは、容赦がない。
だが、その分、きちんと見ている。
倒れ方。
立ち上がり方。
槍の構え。
荷駄の守り方。
飯場への戻り方。
ただ叩くだけではなく、戦場で死なないための動きを叩き込んでいた。
八郎は、その様子を見て言った。
「さすがに、一日休みを取っていただきましょう」
三郎が頷く。
「まあ、あれだけしごいてもらってるからな」
五郎も苦笑した。
「八郎軍も泣いてるけど、島津の侍衆もずっと動いてるからな」
ということで、その日は訓練を休みにした。
昼は、それぞれの訓練地で飯を融通した。
握り飯、味噌汁、焼き魚、芋、漬物。
夕方からは、薩摩川内の館で慰労の宴が開かれた。
もちろん、島津本家の侍は六百人もいる。
全員を一か所に集めるわけにはいかない。
各地に散っている侍衆は、それぞれの場所で宴を開く。
酒と飯は早朝から荷駄で送り、足りぬところは近くの市から融通した。
薩摩川内の本拠では、芋焼酎が多めに用意された。
二郎と春姫。
島津本家の姫君たち。
八郎の家族も顔を出し、侍衆へねぎらいの言葉をかけた。
「遠いところ、ありがとうございます」
春姫が丁寧に頭を下げると、島津の侍たちは一斉に姿勢を正した。
「いえ」
「こちらこそ、借金を減らしていただく上に、これほどの飯と酒まで」
「ありがたいことでございます」
景気づけも兼ねて、村々の娘たちも手伝いに呼ばれていた。
酒を運び、飯を配り、笑いながら話をする。
もちろん、無理なことはさせない。
八郎商会の女衆が目を光らせ、三郎も飯場の近くで見ている。
それでも、場は明るかった。
若い娘たちは、島津の侍たちの太い腕や広い背中を見て、ひそひそと笑っている。
八郎はそれを見て、ぽつりと言った。
「みんな元気ですね」
島津の侍の一人が、芋焼酎を水で割りながら笑った。
「八郎殿の領は、民の顔が明るいですな」
「借金が減り、湯に入れて、飯があり、話会などという娯楽まである」
「そりゃ元気にもなりましょう」
八郎は頷いた。
「島津本家も、もうそろそろ農民の借金は大きく減る頃です」
「それが進めば、湯浴みの回数が増えます」
「余分なものも買います」
「酒も買います」
「話会もできます」
「そうなると、こういう交流をした時に、もっと明るくなると思います」
侍たちは少し黙った。
その後、嬉しそうに笑った。
「それは楽しみですな」
八郎はふと、島津の侍たちを見回した。
「あと、あれですね」
「筋肉がよいのではないですか」
三郎が吹き出した。
「急に何を言うてんねん」
八郎は真面目だった。
「筋肉隆々な人は、好かれるのでは」
「島津の姫君様方も、筋肉は好きですよね」
姫君たちが一斉に少し頬を赤くした。
一人が小さく言う。
「まあ、好きは好きです」
宴の場がどっと沸いた。
春姫は二郎の方を見て、静かに言った。
「私は、素朴な方がよいです」
二郎が咳き込んだ。
三郎がにやにやする。
「おお、熱いですな」
五郎も笑う。
「芋焼酎より熱い」
二郎は耳まで赤くなりながら、何も言い返せなかった。
その芋焼酎も、宴では大いに受けた。
侍たちは水で割ったものを口にし、目を細める。
「きついですな」
「でも、癖になりますな」
「これは戦の後に飲むと、体に染みる」
八郎は説明した。
「まだ高いです」
「ただ、二郎兄様が島津本家側で芋をたくさん植えてくださっています」
「今年の収穫がうまくいったので、芋焼酎を多く仕込めます」
「来年の春には、もっと流通できると思います」
侍たちの目が輝いた。
「二郎様」
「来年も飲めるよう、よろしくお願いいたします」
二郎は慌てて頭を下げる。
「できるだけ、きちんとやります」
「ありがとうございます!」
侍たちは一斉に杯を掲げた。
「芋焼酎様々ですな!」
「二郎様様ですな!」
二郎は困ったように笑い、春姫は隣で嬉しそうにしている。
八郎は、そんな様子を見て頷いた。
「私はここで現場を見ながら、芋の方もきちんと対応します」
「芋焼酎も、順繰り増やします」
その言葉に、侍たちは深く頭を下げた。
「ありがたきこと」
「訓練にも力が入ります」
三郎が小声で言う。
「酒で士気上げてるな」
五郎も頷く。
「借金減って、飯があって、湯があって、酒がある」
「そら本気でしごいてくれるわ」
宴はさらに盛り上がった。
村の娘たちも笑い、侍たちも笑い、姫君たちも時折声をかける。
八郎はその様子を見て、ふと呟いた。
「あまりこういうのが広まると、問題ですね」
三郎が聞き返す。
「何がや」
「島津の姫君様方と会えて、飯もあり、湯もあり、芋焼酎もあり、村の娘さんたちとも話せる」
「そういう場所だと分かったら、この領地で訓練したい侍が増えます」
五郎が笑った。
「人気になるな」
「次の月に来る六百人が揉めるかもしれん」
八郎は真顔で言った。
「内緒です」
「次に来る人たちが、肥後薩摩のどこの場所で訓練するかはまだ決めていません」
「こんな待遇が毎回あると思われると、困ります」
島津の侍たちは大笑いした。
「無理ですな」
「これは戻ったら自慢します」
「いや、自慢したら次の者が怒るぞ」
「なら、少しだけ自慢するか」
三郎が腹を抱えた。
「少しだけ自慢が一番揉めるやつや」
五郎も笑う。
「八郎、もう遅いで」
八郎は少し困った顔をした。
「では、次も順繰り考えます」
侍の一人が豪快に笑った。
「その代わり、明日からまたしごきますぞ」
八郎は深く頭を下げた。
「お願いします」
「冬に泣いて、春に死なない軍にしてください」
侍たちは杯を掲げた。
「承知!」
その声は、訓練場の怒号と同じくらい太かった。
宴は夜遅くまで続いた。
飯と湯と酒。
借金減免と姫君の笑顔。
そして、明日からまた始まる地獄の訓練。
島津の侍たちは笑いながら飲み、八郎軍の兵たちは遠くで震えながらも、少しだけ誇らしげに
その声を聞いていた。




