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1534年10月3週目。八郎が娯楽を考える。芸人や見世物は重い。領土内や九州の面白い話自慢を集めて会を開こう

十月三週目。

帳面合わせを終えた夜、八郎は久しぶりに本拠の食卓で飯を食っていた。

芋粥。

焼いた魚。

味噌汁。

漬物。

父と母、留守を守っていた者たちがそろい、ようやく少し落ち着いた空気が流れている。

八郎は芋粥をすすりながら、ふと箸を止めた。

「娯楽が要りますね」

母が眉を上げる。

「また急に何を言い出すんや」

父も苦笑した。

「日向の戦費見たばっかりやろ」

「はい」

八郎は真面目な顔で頷いた。

「でも、飯、湯浴み、布団、酒まで行くと、次は娯楽です」

「ただ、芸人を呼ぶとか、芝居小屋を建てるとかは重いです」

「なので、まずは面白い話を集める場を作ります」

「なんじゃそりゃ」

父が言うと、八郎は芋粥の椀を置いた。

「肥後、薩摩、大隅、日向、できれば琉球」

「九州一円の面白い話を持ち寄る会です」

「旅の話」

「商いの失敗話」

「変な魚の話」

「怖い話」

「珍しい酒の話」

「国人衆の笑える話」

「そういうものを、お客さんに聞かせます」

母が首を傾げる。

「それで銭になるんか」

「なります」

八郎は即答した。

「見世物小屋みたいな場所を作ります」

「入場料は二十五文」

「中に客を集めて、喋り上手な人を五人ほど出します」

「行商人でも、船乗りでも、寺の小僧でも、侍でもいいです」

「一人十五分から二十分くらい喋ってもらいます」

父が目を細めた。

「話すだけか」

「はい」

「で、一番面白かった人に、客が竹串を投げます」

「竹串?」

「おひねりです」

八郎は手を動かしながら説明した。

「竹串一本五文で売ります」

「客は気に入った話し手に竹串を投げる」

「終わった後、竹串の数に応じて話し手へ銭を渡します」

「入場料二十五文のうち、十文は話し手全員に分けます」

「五人なら、30人はいれば一人あたり最低でも50文から60文くらいは出ます」

「五文は場所代にします」

「残りは八郎商会の手間賃と、灯り、座布団、見張り、呼び込み代です」

父が指を折って考える。

「客が五十人入れば、入場料だけで千二百五十文」

「場所代が二百五十文」

「話し手分が五百文」

「残りで手間賃と小屋代か」

「はい」

八郎は頷いた。

「八郎商会の懐はあまり痛みません」

「客の銭で場所代と手間賃が賄えます」

「さらに竹串が動きます」

「面白い話をした者には、おひねりが入ります」

「一番受けた人は、一本5文で50人が投げれば二百五十文くらい持って帰るかもしれません」

母が少し笑った。

「そんだけもらえるなら、そら張り切るわ」

「はい」

「それに、話が面白い人を育てられます」

「市に来る客も増えます」

「飯屋も売れます」

「湯浴み帰りに聞く人も出ます」

「寺社市と合わせてもよいです」

父は感心したように言った。

「また全部つなげるんやな」

「娯楽も商いです」

八郎は胸を張った。

「ただ、最初から大きくはしません」

「まず一つの市で試します」

「うまくいけば、順繰り広げます」

「市の数だけやれば、話し手も増えます」

「肥後の話、薩摩の話、大隅の話、日向の話」

「琉球から来た船乗りが話せば、きっと人が集まります」

母が不安そうに言う。

「変なこと言う人も出るんちゃうか」

「出ます」

八郎はあっさり答えた。

「なので、最初は軽く審査します」

「悪口だけの話」

「領主を無駄に煽る話」

「嘘が過ぎる話」

「人を傷つける話」

「そういうものは止めます」

「でも、多少の失敗話や笑い話はよいです」

「むしろ、失敗話の方が面白いです」

翌朝、試しに触れを出した。

「面白い話を持つ者、集まれ」

「旅の話、商いの話、海の話、山の話、笑える話、怖い話」

「話し手には手間賃あり」

「客の竹串に応じて、おひねりあり」

すると、思った以上に人が来た。

「俺、琉球帰りの船乗りの話聞いたことあるで」

「肥後で牛に追われた行商の話ならある」

「大隅の山で化け物を見た」

「いや、それ猪やろ」

「島津の侍に酒で負けた話ならできる」

「米俵を数え間違えて寺で怒られた話もある」

八郎は、その人だかりを見て満足そうに頷いた。

「いけそうですね」

帳面役が苦笑する。

「本当に人が集まりましたな」

「みんな、喋りたいんです」

八郎は言った。

「今まで飯を売り、湯を沸かし、借金を消しました」

「次は、人の話を銭にします」

「話が上手い人が育てば、各地の市がもっと面白くなります」

「飛び入りも、ありにしましょう」

「ただし多すぎるなら順番か審査です」

父が笑った。

「また新しい仕事を作ったな」

「はい」

「呼び込み役」

「席の案内役」

「竹串売り」

「話し手」

「見張り」

「灯り番」

「飯場」

「全部仕事です」

母が呆れながらも笑った。

「戦から帰ってきて、今度は話芸かいな」

八郎は胸を張った。

「娯楽です」

「豊かになったら、人は笑いたくなります」

「笑える場所があれば、市に来ます」

「市に来れば飯を食べます」

「飯を食べれば仕入れが回ります」

「仕入れが回れば借金が消えます」

父が先に言った。

「順繰りやな」

八郎は嬉しそうに頷いた。

「はい」

「順繰りです」

こうして、八郎商会の市に新しい札が立つことになった。

――九州面白話の会。

飯と湯と帳面の次は、笑いで人を集める。

八郎の商いは、また少し妙な方向へ広がり始めていた。

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