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1534年10月3週目。帳面合わせ。久しぶりに数週間分の利益を見て戦費や市の立ち上げの費用と付け合わせする。

十月三週目。

薩摩川内の本拠では、大きな帳面合わせが開かれた。

広間には、父と母、帳面役、八郎商会の商人衆、留守を守っていた家の者たちが並んでいる。

三郎以下の兄たちは、まだ佐土原に残っていた。

日向二十四万五千石の立ち上げを続け、証文を破り、市を回し、湯浴みを広げている最中である。

だからこの日の帳面合わせは、八郎が本拠に戻って最初に見る、大枠の数字だった。

八郎は座布団にちょこんと座り、目の前の帳面を見た。

「では、八月四週目から十月二週目までの日向攻めと、佐土原以南の立ち上げ費用を見ます」

帳面役が緊張した声で読み上げる。

「日向攻め、停戦、佐土原以南二十四万五千石の立ち上げを含む仮計上」

「総額、六千八百万文でございます」

広間が静まり返った。

父が思わず息を吐く。

「六千八百万文……」

母も眉を寄せた。

「どえらい額やね」

八郎は頷いた。

「どえらい額です」

帳面役は続ける。

「内訳として、大友家への停戦料、現物払い含む仮計上が一千万文」

「島津本家、島津分家への支払いが合計八百万文」

「本家四百五十万文、分家三百五十万文でございます」

八郎はすぐに言った。

「島津への支払いは、十月三週目中にきちんと形を作ってください」

「ここを渋ると、次の戦も縁も崩れます」

「本家、分家とも、兵を出してくれました」

「姫君方も佐土原に残って手伝ってくれています」

「ここは厚くてよいです」

帳面役が深く頷く。

「承知しました」

さらに別の帳面が開かれた。

「続いて、日向二十四万五千石の立ち上げ費用です」

「三万五千石の束が七つ」

「一束につき、市立ち上げ九十万文」

「湯浴み百五十万文」

「高級湯浴み百二十万文」

「一束三百六十万文」

「七束で二千五百二十万文でございます」

母が思わず言った。

「また湯にそんなに使うんかいな」

八郎は真面目に答える。

「湯は人を戻します」

「それに、仕事を作ります」

「釜番、湯番、薪割り、桶洗い」

「銭が村に落ちます」

「その銭で寺社市が回ります」

父は帳面を見ながら唸った。

「理屈は分かるけど、数字が大きいな」

「はい」

「ただ、ここからが大事です」

帳面役が収益の帳面を開いた。

「八月四週目から十月二週目まで」

「肥後、薩摩、大隅、既存市、湯浴み、高級湯浴み、寺社市、交易、仕入れ差益、島津本家筋の

庄屋衆からの御礼分など」

「すべて足し上げまして」

「九千二百五十五万五千九百文」

広間の空気が、今度は別の意味で止まった。

母が目を丸くする。

「今、なんぼ言うた?」

帳面役がもう一度読み上げた。

「九千二百五十五万五千九百文でございます」

父は、しばらく口を開けたまま帳面を見ていた。

「それも、どえらい数字やな」

八郎は指で帳面をなぞる。

「ここから、戦費六千八百万文を引きます」

帳面役が続ける。

「残り、二千四百五十五万五千九百文」

「さらに、日向七束の市、湯浴み、高級湯浴みの立ち上げ費用、二千五百二十万文を差し引きます」

「差し引き」

「マイナス六十四万四千百文」

広間に、妙な沈黙が落ちた。

八郎は首を傾げる。

「なかなか収まりのいい数字になりましたね」

「たくさん使った割に」

母が呆れた。

「収まりがいい、で済む話なん?」

父も苦笑する。

「日向を攻めて、大友に一千万文払って、島津にも八百万文払って、湯まで何百も立てて」

「それで赤が六十四万文で済むんか」

八郎は胸を張った。

「帳尻が合っちゃいました」

「合っちゃいました、やないわ」

母はそう言いながらも、少し安心した顔をした。

帳面役が補足する。

「島津本家筋の商家衆の借金完済に伴う御礼分が残っていたこと」

「また、既存の高級湯浴みと寺社市がかなり回っていること」

「薩摩、大隅、肥後の市が、日向出兵中も止まらなかったこと」

「そのあたりが大きいです」

八郎は頷いた。

「仕組みが回っています」

「私や兄様方が少し離れても、本拠の市が止まらなかった」

「それが一番大きいです」

父が感心したように言った。

「国が、勝手に少し動くようになってきたんやな」

「はい」

「ただし、見ないと崩れます」

「だから帳面は見ます」

母がすぐに言う。

「見たら寝なさい」

「はい」

八郎は少し眠そうに頷いた。

しかし、すぐ次の帳面を開いた。

「ここからは日向の市が乗ってきます」

「佐土原以南の飯屋」

「湯浴み」

「高級湯浴み」

「寺社市」

「四国交易」

「元伊東兵の雇用」

「最初は借金を消す方に回しますが、半年もすれば効いてきます」

父は静かに頷いた。

「つまり、この赤六十四万文は、痛いけど痛くない赤か」

「はい」

「二十四万五千石を動かすための赤です」

八郎はさらに言った。

「あと、芋です」

「九月に芋が取れ始めています」

「少し休んだら、芋の味を見ます」

「焼き芋屋ができるかもしれません」

母が呆れた顔をした。

「今、戦費の話をしてたんちゃうの」

「戦費を返すには、次の飯が要ります」

八郎は真面目だった。

「焼き芋」

「芋粥」

「芋団子」

「芋餅」

「冬場に売れます」

「それから、うなぎももう少し何とかしたいです」

「日向でも川魚があります」

「高級湯浴みと合わせてもよいです」

帳面役の一人が笑った。

「戦から帰ってすぐ、次の飯ですか」

「はい」

「それと、豊かになったところは娯楽が足りません」

「祭り、見世物、相撲、芝居、甘味」

「何か考えます」

母はため息をつきながら、八郎の頭を撫でた。

「めっちゃ考えるやん」

八郎は少しだけ笑った。

「順繰りです」

その日の帳面合わせは、赤六十四万四千百文で閉じられた。

だが、それは敗けの赤ではなかった。

日向二十四万五千石を得て、島津への礼を払い、大友との停戦を買い、

市と湯浴みを立ち上げた上での、わずかな赤である。

帳面役たちは、静かにその意味を理解し始めていた。

八郎は最後に小さく欠伸をした。

「では、島津への支払い準備」

「大友への現物払いの品目」

「日向の追加釜」

「芋の味見」

「順番にお願いします」

母がぴしゃりと言った。

「その前に寝なさい」

八郎は素直に頷いた。

「はい」

「今日は寝ます」

こうして、本拠に戻った八郎の最初の帳面合わせは終わった。

兄たちはまだ佐土原で証文を破っている。

だが本拠の帳面は、すでに次の飯と湯と遊びの欄を作り始めていた。

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