1534年9月3週目。大友が1万の兵で挙兵。日向へ向かうが急いではいない。伊東の城をがっつり攻めるも相手の士気が低い。5500→3500程度になる。
九月三週目。
大友が軍を起こしたという報せが、八郎軍の陣にも届いた。
早馬が土煙を上げて駆け込み、使者が膝をつく。
「大友、一万ほどの兵を動かしたとのこと」
「北日向へ向かう気配がございます」
陣の中が少しざわついた。
だが、八郎は驚かなかった。
「来ましたか」
「では、ここからは早馬を増やします」
八郎は地図を広げる。
「日向の北に情報網を置いてください」
「大友がどこまで来たか」
「どの国人衆が大友に振れたか」
「伊東の敗残兵を受け入れる動きがあるか」
「順次、報告をお願いします」
三郎が地図を覗き込む。
「大友、早く来ると思うか」
八郎は首を横に振った。
「おそらく速度は上げません」
「北日向をじっくり押さえながら、伊東領の境目あたりまで来るでしょう」
「本気で伊東を助けるなら、もっと早く来るはずです」
「ここまで時間がかかっている時点で、狙いは別にあります」
五郎が頷く。
「助けるふりして、北を取る」
「はい」
「ですので、こちらは伊東をもう少し削ります」
「今、城内は五千五百ほど」
「もう少し減らせば、総攻撃で落とせます」
実久が腕を鳴らした。
「ようやく、わしらの出番か」
島津本家の侍たちも目を光らせる。
「いつでも行けますぞ」
八郎は静かに言った。
「まず、今夜も寝かせません」
「太鼓、笛、火、飯の匂い」
「火矢は少なめに」
「そして翌朝、一度、外郭を叩きます」
「門を壊すところまでは行きましょう」
「ただし、無理に奥へ押し込みません」
「取れるところだけ取ります」
「逃げる兵は、できるだけ殺さず武器を回収します」
島津本家の忠良が眉を上げる。
「攻めるのに、また殺すなと言うか」
「殺しすぎると、次の降伏が遅れます」
八郎は答えた。
「武器を取れば、もう兵ではありません」
「飯を食わせれば、情報も出ます」
「命を取るより、次につながります」
その夜、伊東の城はまた眠れなかった。
外では太鼓が鳴る。
味噌汁の匂いが流れる。
時折、火矢の光が空を走る。
城の中では、兵が兵を見張っていた。
逃げるな。
眠るな。
米を盗むな。
そう言い合いながら、誰もが疲れ切っている。
翌朝。
島津本家、島津分家の兵を中心に、五千のうち七割ほど、三千五百が前へ出た。
盾を並べ、槍を構え、門へ向かう。
「押せ!」
「叩け!」
「門を割れ!」
どん、どん、と丸太が門を打つ。
伊東方から矢が飛ぶ。
だが数は少ない。
声も弱い。
外郭の一角では、抵抗がすぐに崩れた。
島津の兵がなだれ込み、柵を越え、門の脇を押さえる。
「あっけないな」
一人の侍が呟いた。
「もっと斬り合うと思っておったが」
別の侍が、疲れ切った伊東兵から槍を取り上げる。
「命までは取らぬ」
「武器を置け」
「外へ出れば飯がある」
伊東兵は、膝から崩れた。
戦意がない者も多かった。
腹が減り、眠れず、味方を見張り、外の飯の匂いに削られていた兵たちは、
刀を振るう前に心が折れている。
島津分家の侍が、武具を束ねながら呟いた。
「いつもの戦と全然違うな」
「歯ごたえがない」
「戦ってる感じがせん」
島津本家の侍も頷く。
「攻めてるこっちが、少しかわいそうになる」
実久の家臣が笑った。
「それだけ、八郎様が銭を撒いて仕込んだということじゃ」
「米三倍で買うなど、普通はせぬ」
「籠城する側からすれば、米が増えぬ恐怖はたまらん」
別の侍が城を見上げた。
「領主への忠誠や、日頃の領地運営が問われるな」
「普段から民に米を出させ、借金で縛り、恩もなく、飯もない」
「そうなれば、こうして崩れる」
島津分家の侍は、しみじみと言った。
「うちらも、借金まみれだったからな」
「八郎様に助けてもらっていなければ、他人事ではなかった」
「今こうして意気揚々と出られるのは、借金が消えたからじゃ」
攻めは深追いしなかった。
外郭を押さえ、門の一部を壊し、武器を回収し、降った兵には飯を食わせる。
伊東方が奥へ引けば、八郎軍もそれ以上は追わない。
三郎は負傷者に粥を出しながら言った。
「ほんまに、攻めてるのか救護してるのか分からんな」
五郎は回収した槍や弓を帳面に載せていく。
「でも、武器が減るのはでかい」
「次に抵抗しにくくなる」
四郎が城内から出てきた兵の数を控えた。
「今日だけで、かなり抜けました」
「逃亡、降伏、負傷で、城内は三千五百前後まで落ちたと思います」
八郎は静かに頷いた。
「なら、いつでも総攻撃で落とせます」
その言葉に、周囲の空気が変わった。
ついに、伊東の城は落とせるところまで来た。
だが、八郎はすぐに攻めろとは言わなかった。
「大友の動きを見ます」
「国人衆の返事も見ます」
「もう少しだけ飯を炊きます」
実久が笑う。
「ここまで来ても、まだ飯か」
「はい」
八郎は城を見上げた。
「最後に降る道をもう一度見せます」
「それでも閉じるなら、落とします」
外郭の壊れた門の向こうで、伊東の兵たちがこちらを見ていた。
その目には、怒りよりも疲れが濃かった。
八郎軍の陣からは、また味噌汁の湯気が上がる。
その湯気は、もう城の外だけではない。
壊れた門の隙間から、伊東の内側へ入り込み始めていた。




