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1534年9月1週目。昼と夜で7袋で分け、じっくり攻める。無理に押し込まない。飯を炊きじわじわ心をえぐる。夜中に火矢を100発放つwww

伊東の城の包囲が決まると、八郎は兵を七三に分けた。

七は昼。

三は夜。

昼の七は、城から矢が飛んでくるぎりぎりの距離まで、じわじわ近づく。

盾を立てる。

杭を打つ。

土を盛る。

飯を炊く。

けれど、無理に城へ取りつくわけではない。

三の夜組は、日が暮れてから動く。

太鼓を叩く。

笛を鳴らす。

酒を少し振る舞う。

火を焚く。

歌う。

笑う。

寝かせない。

攻めているのか、祭りをしているのか、よく分からない包囲だった。

八郎は帳面を見ながら言った。

「夜組には、ちゃんと飯を出します」

三郎が顔を上げた。

「当たり前やろ」

「いえ、前の戦では反省があります」

八郎は真面目な顔で続けた。

「昼の飯場ばかり見ていて、夜に動く人たちへの飯が雑になっていました」

「夜組は、夜に働きます」

「だから晩飯はしっかり炊く」

「昼に寝る者には、晩に炊いた分を温めて食べてもらう」

「昼夜が逆になるだけで、食わせることは同じです」

それを聞いた夜組の兵たちは、ぱっと顔を明るくした。

「おお、夜にもちゃんと飯が出るんですか」

「それはありがたい」

「前は眠いわ腹減るわで、きつかったからな」

五郎が苦笑する。

「こういう反省がすぐ飯に出るのが八郎軍やな」

三郎も頷く。

「飯で軍律を作ってるみたいや」

一方、昼組になった兵たちは兵たちで笑っていた。

「俺は昼組やからな」

「夜は騒げるぞ」

「いや、休めよ」

「でも城の中に聞こえるように笑うのも仕事やろ」

「それは夜組の仕事や」

そんな軽口が飛び交う。

普通の包囲戦なら、もっと張り詰めているはずだった。

だが八郎軍は、飯がある。

湯がある。

交代がある。

銭が払われる。

だから兵の顔が荒れない。

緩く見える。

しかし、その緩さの中で、包囲の線は毎日少しずつ前へ出ていた。

昼は矢の届く手前まで近づく。

夜は騒いで眠らせない。

油断した門には、盾を寄せて叩きに行く。

「開ける気はあるか」

「降るなら命は取らんぞ」

そう声をかける。

だが、無理に破ることはしない。

城の中の兵からすれば、気が抜けない。

本気で攻めてくるのか。

ただ脅しているだけなのか。

飯の匂いがする。

太鼓が鳴る。

外では笑い声。

中では米の残りを数える。

それが二日、三日と続くと、城の動きが明らかに鈍り始めた。

八郎は夜の城を見ながら言った。

「少し、鈍っていますね」

四郎が帳面を閉じる。

「矢の数も減っています」

「門の交代も遅い」

「夜の見張りも疲れているように見えます」

八郎は頷いた。

「では、火矢を使います」

三郎が眉を上げた。

「何本や」

「百本」

周囲の兵がざわついた。

「百本を一方向から、一斉に撃ちます」

五郎が地図を見る。

「方角は」

八郎は北側を指した。

「北から南へ」

「打った先に、遠方の国人衆が見える方向がよいです」

「城の中だけではなく、外にも見せます」

「八郎軍は、こういうこともする、と」

島津分家の実久の兵が低く笑った。

「脅しじゃな」

「はい」

八郎はあっさり認めた。

「ただし、焼き殺すためではありません」

「眠らせない」

「怖がらせる」

「遠くの国人衆に、今どちらが優勢か見せる」

「そのための火矢です」

夜半。

空気が静まり、城の中も外も、少しだけ眠気を帯び始めたころ。

北側に、火矢隊が並んだ。

油を染み込ませた布。

火薬を仕込んだ矢。

水桶と砂も後ろに並べられている。

八郎は小さな声で言った。

「一斉に」

合図の太鼓が一つ鳴った。

次の瞬間。

百本の火矢が、夜空へ走った。

ババババババババッ。

乾いた破裂音が連なり、火の筋が黒い空を裂く。

初めて聞く音に、八郎軍の兵たちですら思わず身をすくめた。

「うおっ」

「なんや今の音」

「味方でも怖いぞ」

火矢は北から南へ、城の内側へ降り注ぐ。

大火にするほどではない。

だが、音と光は十分すぎた。

城の中から悲鳴が上がる。

「火矢だ!」

「水を持て!」

「南側を見ろ!」

「北だ、北から来た!」

夜の静けさは完全に破られた。

城の兵たちは走り回り、眠っていた者も叩き起こされた。

一方、遠くの国人衆の城や村でも、その音は聞こえた。

夜空に走る火の筋。

遅れて届く、ばらばらとした破裂音。

「あれが八郎軍か」

「伊東の城が燃やされているのか」

「いや、まだ燃えてはおらぬ」

「だが、あんなものを夜に撃たれたら眠れんぞ」

国人衆たちは、黙って夜空を見た。

八郎は火矢の煙を見ながら、静かに言った。

「今日は百で十分です」

「明日は撃たなくてもいい」

「いつ来るか分からない方が、眠れません」

三郎が腕を組んだ。

「ほんまに嫌な攻め方やな」

五郎も頷く。

「飯で寄せて、音で削る」

四郎が城を見つめて言った。

「これで国人衆も、また返事を考え直しますね」

八郎は小さく頷いた。

「はい」

「降るなら早い方が得です」

「それを、夜空に書きました」

城の中では、まだ怒号が続いている。

外では、八郎軍の飯場から味噌汁の湯気が上がっている。

火矢の煙と味噌の匂いが混ざる夜。

伊東の城は、また一つ眠れない夜を重ねることになった。

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