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1534年7月3週目。島津本家の姫君とお茶会。これから島津分家の方に行くから大変という割に足が軽いと見抜き詰める姫君達www

島津本家でのお茶会は、出立前の挨拶という名目で開かれた。

八郎、三郎、四郎、五郎、六郎、七郎。

そこに春姫と、島津本家の姫君たちが加わる。

茶と菓子が並び、表向きは穏やかな席だった。

だが、三郎と五郎の背中はどこか落ち着かない。

春姫がにこりと笑った。

「このお茶会が終われば、皆様は島津分家の方へ行かれるのですよね」

五郎は少しだけ肩の力を抜いた。

「はい」

「二週間ほど、市を見たり、分家の姫様方と話したり」

「まあ……向こうは向こうで大変なんですけどね」

そう言いながらも、どこか声が軽い。

長女格の姫がすかさず目を細めた。

「五郎様」

「なんだか嬉しそうですね」

「私たちと一緒にいるのが、そんなに嫌でしたか」

五郎は慌てて手を振る。

「違う違う違う」

「嫌とか、そういう話ではなくて」

三郎も横から言う。

「島津本家は、やっぱり重いんです」

「家の空気も、侍の目も、全部重い」

「分家の方は、領分も半分やし、もう少しゆるいと聞いてますから」

長女格の姫は、にっこり笑った。

「私たちも、こうしている間は、かなりゆるくしているつもりですけど」

三郎と五郎は顔を見合わせた。

「……そうかもしれませんね」

「苦笑いで流しましたね」

妹姫がすっと五郎の袖をつまんだ。

「では、そんなに皆で話すのが重いなら、別室で個別にお話ししますか」

「いやいやいや」

五郎の声が裏返った。

「皆で喋りましょう」

「なぜですか」

今度は反対側の袖を、別の姫がつまむ。

「二人きりは嫌なのですか」

三郎も別の姫に袖を引かれ、固まった。

「いや、あの」

「僕らの何がそんなにいいんですか」

少しぶっきらぼうに、五郎が言った。

すると長女格の姫は、意外にも真面目な顔で答えた。

「働いている姿です」

「八郎様のお兄様だから、というだけではありません」

「市で農民と話す姿」

「庄屋衆と帳面を見ながら、相手の顔色まで見ているところ」

「湯浴みの列を整える時に、怒鳴らずに人を動かすところ」

「普通に、人としてよい方だと思いました」

三郎は言葉に詰まった。

別の姫が笑いながら続ける。

「たぶん、市に出ても人気でしょうね」

「実際、若い女の人から声をかけられていたのを見ました」

五郎が固まる。

「なんで見てるんですか」

「見ますよ」

「私たちも手伝っていましたから」

「それに、まんざらでもなさそうでした」

三郎が吹き出しそうになり、五郎は顔を赤くした。

「まんざらでもないって」

妹姫が楽しそうに畳みかける。

「次に誘われたらどうしようかな、という顔をしておられました」

「してません!」

「してました」

「ええ……」

長女格の姫が首を傾げる。

「軽いお付き合いならできて、重いお付き合いはできないのですね」

「なるほど、なるほど」

五郎はもごもごと口ごもる。

「いや、元が庄屋の子ですから」

「そういう軽い付き合いというか、町の空気というか」

姫はすぐに返した。

「元が軽かったら、今も何をしてもよいというわけではないと思います」

「八郎様の顔もありますし」

春姫も静かに頷く。

「そうですね」

「八郎様の顔を立てるためにも、私たちと仲良くするのは大事かもしれません」

三郎が天を仰いだ。

「そこで八郎の顔を使うんか」

八郎は茶を飲みながら、にこにこしている。

「私は何も言っていません」

「その顔が言うてるんや」

五郎はため息をついた。

「女の人が嫌いなわけではないんです」

「そこを疑われると困ります」

妹姫が身を乗り出す。

「では、嫌いではないのですね」

「嫌いではないです」

「なら、なぜ逃げるのですか」

「逃げてないです」

「逃げています」

「この話が主になってくると、疲れたわと思って家に引きこもりたくなるんです」

長女格の姫が笑った。

「贅沢な悩みですね」

「贅沢というより、責任感の問題です」

五郎は真面目に言った。

「姫様方と仲良くするということは、後ろに島津本家がある」

「ごつい侍さんたちがいる」

「ごつい父上たちの顔が見える」

「軽く茶を飲むだけでも、これはどこまでの意味なんやと考えてしまう」

「そこが怖いんです」

姫君たちは少し黙った。

からかいの空気が、少しだけやわらぐ。

春姫が静かに言った。

「それは、私たちも同じです」

「ただ、私たちは逃げられません」

「だから、話しているのです」

三郎がぽつりと呟く。

「それを言われると、弱いな」

長女格の姫は、また少し笑った。

「では、責任感のないお付き合いをしますか」

五郎は慌てた。

「いやいやいや、そういう問題ではないです」

「結局、どちらも駄目ではありませんか」

「駄目というか、怖いんです」

妹姫は五郎の袖を軽く引いたまま言った。

「では、怖いままでよいです」

「逃げずに、お茶だけしましょう」

「今日は、それで十分です」

五郎は少し黙り、それから小さく頷いた。

「……それなら」

三郎も苦笑する。

「まあ、茶くらいなら」

八郎がそこで口を開いた。

「一つずつですね」

三郎と五郎が同時に睨んだ。

「縁を市みたいに言うな」

姫君たちは声を立てて笑った。

重い話は、軽くはならない。

だが、茶を飲み、袖を引かれ、困りながら言葉を交わすうちに、三郎と五郎の肩の力は

少しだけ抜けていた。

分家へ向かう前の茶会は、逃げ場のない詰問ではなく、逃げなくてもよい場所へと、

少しずつ変わっていった。

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