1534年7月2週目。一郎兄様と千代姫に挨拶を兼ねたお茶会。姫君達と島津本家での出来事も話しながら責任が重いと愚痴をこぼすwww
数日休んだあと、八郎たちは一郎と千代姫の館へ向かった。
挨拶を兼ねた遊び。
そう言えば聞こえは軽いが、実際には島津分家の姫君たちとの顔合わせも兼ねている。
三郎と五郎は、道中からすでに少し固まっていた。
「また茶会か」
「茶会という名の縁談やろ」
八郎は首を横に振る。
「縁談ではありません」
「交流です」
「言葉を変えただけや」
館に着くと、一郎と千代姫が出迎えてくれた。
千代姫は柔らかく笑う。
「皆様、お疲れ様でした」
「島津本家の市立ち上げ、大変だったでしょう」
五郎は深く息を吐いた。
「大変でした」
「ただ、こちらは本家より気持ちが少し楽です」
「それはよかったです」
千代姫はくすりと笑った。
「父もよくこちらへ来ますから、距離が近いのです」
一郎も頷く。
「実久様は、情報を取りに来るのもあるやろうけど、千代がいるからな」
「今年は芋の話もあるし」
千代姫は嬉しそうに続けた。
「芋焼酎が父に受けたのです」
「作付けの様子を一郎様が話してくださるので、父も楽しみにしています」
一郎は少し照れたように頭をかいた。
「父上が話をこっちに合わせてくれるからや」
「軍事の話になったら、私は分からへん」
「それこそ八郎の方がよう分かるやろ」
八郎は首を傾げた。
「行軍にはいつも一緒ですからね」
「ただ、強さはよく分かりません」
「私は飯を炊きながら帳面を見ているだけです」
三郎が即座に突っ込む。
「それで国取っとるんやから怖いんや」
一郎も笑う。
「楽な身分やな」
「楽ではありません」
八郎は真顔で返した。
「金は湯水のごとく消えていきます」
「湯水どころか、湯浴みの釜ごと消えとるな」
広間に笑いが広がった。
茶が出され、島津分家の姫君たちも自然に席へ加わった。
本家のような張り詰めた空気は薄い。
三郎と五郎も、少しだけ肩の力を抜いていた。
分家の姫の一人が言う。
「こうしてお話できると、前より自然な感じがして嬉しいです」
「もう少ししたら、二週間ほどこちらの近くへ来てくださるのでしょう」
「一緒にお仕事できるのを楽しみにしています」
五郎は苦笑した。
「島津本家では、結構大変だったんです」
「監視の目がやばくて」
姫は首を傾げる。
「監視されて困ることがあるのですか」
「ないです」
「ないけど、なんとなくです」
三郎も頷く。
「仲良くなればなるほど、お父様の顔とか、領民さんがどう思うかとか、家臣がどう見るかとか、
いろいろ考えてしまうんです」
分家の姫は、少し真面目な顔になった。
「男性陣は、あまり減るものがないように見えます」
「でも、こちらは減るものが多いのです」
「だからこそ、私たちも軽くは動けません」
五郎は驚いたように顔を上げた。
「それが分かるから、こちらも重く感じるんです」
姫は少し笑った。
「では、私たちのことは嫌いですか」
「嫌いとかではないです」
五郎は慌てて手を振った。
「女性と仲良くなりたい気持ちは、そらあります」
「ただ、姫君と仲良くすることで、後ろについている色々なものが動くのが丸見えなのがつらいんです」
千代姫が静かに言った。
「それなら、まずは置いておきましょう」
「一緒に市を回る」
「寺社市を回る」
「私たちの地元を歩いてもらう」
「それくらいからでよいのではありませんか」
別の姫も頷く。
「私たちの地元は、島津本家の半分ほどです」
「背負うものも半分と思ってください」
三郎が少し笑う。
「そう言われると、だいぶ楽ですね」
「のどかですよ」
「父上も本家ほど堅くはありません」
千代姫がにこりと笑った。
「それに、うちは私が一番しっかりしていますので、統制も取れています」
五郎が固まった。
「何の統制ですか」
三郎も小声で言う。
「統制が取れてるということは、筒抜けということでは」
千代姫は涼しい顔で返す。
「筒抜けにされて困ることをなさるおつもりですか」
「そういうわけではないです!」
五郎は慌てる。
「ちゃんと手順を踏むとか、そういうことはします」
「ただ、なんとなく」
「なんとなく、このままにさせてください」
姫君たちはけらけら笑った。
八郎は満足そうに茶をすすっている。
「なるほど」
「島津本家では大変でしたが、分家でも結構詰められていますね」
五郎が八郎を睨んだ。
「めちゃくちゃ詰められてます」
「未婚の男だけで話し合っていても、一郎兄さんと二郎兄さんが入ってくる」
「そうなれば千代姫様や春姫様に筒抜けになる」
「実家まで軽く浸食されてる感じがあるんです」
千代姫が少しだけ眉を上げた。
「私たちは邪魔ですか」
「いや、そんなことはないです」
三郎が慌てて答える。
「皆様には、大事にしてもらっている気はします」
「だから余計に、軽く扱えないんです」
その言葉に、千代姫は柔らかく微笑んだ。
「なら、よかったです」
「無理に決める必要はありません」
「ただ、少しお時間があるなら、お茶でもどうですか」
分家の姫も笑って続ける。
「別に二人きりでなくてもよいですよ」
五郎はほっと息を吐いた。
「そう言っていただけると、気持ちは軽いです」
三郎も頷く。
「それなら、まあ」
八郎がにこにこしながら言った。
「では、今日はお茶からですね」
「順繰りです」
五郎が即座に返す。
「だから縁を借金みたいに言うな」
一郎と千代姫が笑い、分家の姫君たちもつられて笑った。
本家ほど重くはない。
だが、軽くもない。
それでも、茶の湯気の中で話せるくらいには、兄たちの肩の力は少しずつ抜けていった。




