1534年7月1週目末。2週間を島津の市の立ち上げで過ごす。一旦兄様達と本拠地へ戻る。なぜか姫君達も遊学を決め込んで一緒に帰るwww
七月一週目の末まで、島津本家領では市の立ち上げが続いた。
最初の一束は、もうほとんど回り始めている。
そして隣の一束にも、釜が入り、湯が沸き、寺社市の準備が進み、米払いの帳面が作られ始めていた。
町娘姿の姫君たちも、最初の戸惑いはどこへやら、すっかり市の空気に馴染み始めていた。
湯番の女衆に声をかける者。
米払いの列を整理する者。
寺社市で農民の話を聞く者。
三郎や五郎が飯場や庄屋衆を回る姿を、横で見ながら手伝う者。
六郎や七郎の説明を、少し離れて見守る者。
皆、それぞれに役目を見つけていた。
その日、一区切りがついたところで、八郎は姫君たちを集めた。
「この二週間、手伝っていただきありがとうございました」
「つきましては、お手当をお渡しします」
そう言って差し出したのは、十万文分の支払いだった。
姫君たちは目を丸くした。
「十万文?」
「そんなにもらってよいのですか」
「私たちは、楽しくやっていただけですのに」
八郎は首を横に振った。
「いえ」
「これはお駄賃として、きちんともらってください」
「皆様は実際に働いてくださいました」
「人を動かし、話を聞き、列を整え、米払いの意味を覚え、湯浴み場を回す手伝いを
してくださいました」
「働いたなら、銭を受け取る」
「そこを曖昧にすると、仕事ではなくなります」
長女格の姫は、少し照れたように笑った。
「八郎様は、そういうところが徹底していますね」
「商売ですから」
「それと」
八郎は続けた。
「先々、日向の方で同じようなことをするかもしれません」
「秋から冬にかけてになると思います」
「その時、兄様方を借り出すことになるでしょう」
三郎と五郎が嫌な顔をした。
「またか」
「日向まで話が飛んだぞ」
八郎は気にせず言った。
「もしよろしければ、その時も今のような形で、一緒に仕事をしていただけると嬉しいです」
「お手当と屋敷はこちらで用意します」
「島津本家と分家を同じ扱いにするか、別々にするかは、その時考えます」
「ただ、兄様方と縁を作る機会にもなると思います」
兄たちが一斉に八郎を睨んだ。
「最後にそれをつけるな」
「市と縁談を同じ袋に入れるな」
姫君たちはくすくす笑った。
「では、これから兄様方はどうされるのですか」
「いったん本拠へ戻っていただきます」
八郎は答えた。
「一週間ほど休んで、その後、島津分家の方へ二週間ほど行くことになると思います」
「分家の姫君方にも、同じように機会を作らないと不公平ですので」
長女格の姫が、すっと目を細めた。
「では、私たちはどうしましょうか」
「島津本家でお休みされるのがよいかと」
「いえ」
妹姫の一人が楽しそうに言った。
「島津の市は十分楽しめました」
「今度は、八郎様の本拠へ遊学という形で伺おうと思います」
三郎と五郎が同時に固まった。
「遊学?」
「ついてくるんですか」
長女格の姫はにこりと笑う。
「一週間お休みということは、私たちも一週間遊べるということですよね」
五郎が慌てて手を振った。
「いや、僕たちは仕事でくたびれたので」
「湯に入って、寝ている気がします」
「なぜそんなに逃げるのですか」
「逃げてません」
三郎も続けた。
「本当に疲れてるんです」
「飯場も庄屋衆も、ずっと回ってたんで」
妹姫が首を傾げる。
「向こうなら、お父様方の目もありません」
「多少、ゆっくりまったりお話しできるかもしれませんよ」
五郎が青ざめた。
「ゆっくりまったりした後で、絶対お父様に言うでしょう」
「なぜ、そんなに嫌がるのですか」
「嫌がってはないです」
「ただ、重いんです」
長女格の姫が楽しそうに頷いた。
「なるほど」
「お兄様方は、軽く遊びたいということですね」
「そういうことじゃないねん!」
三郎の声が広間に響いた。
八郎はにこにこしている。
「では、皆で本拠へ戻りましょう」
「兄様方は湯に入って休む」
「姫君方は遊学する」
「私は帳面を見る」
「その後、一郎兄様と千代姫様のところへ挨拶に行きます」
「今回の顛末も話さなければなりません」
妹姫が苦笑した。
「ああ、なるほど」
「分家の姫様方が気になるのですね」
「違います」
五郎が即座に言った。
「ただ挨拶に行くだけです」
「そういうことにしておきます」
「ほんまに違います!」
三郎も疲れた顔で呟いた。
「帰って休むだけのはずが、なんでまた外堀が埋まるんや?」
八郎は胸を張った。
「休みながら縁を深める」
「よいことです」
「休ませる気ないやろ」
兄たちの悲鳴に、姫君たちの笑い声が重なった。
こうして、島津本家での二週間の市立ち上げは一区切りを迎えた。
だが、兄たちにとって本当の休みが来るかどうかは、まだ誰にも分からなかった。




