1534年6月3週目。宴会が進み姫君たちとの関係について詰められる八郎の兄上達wwww
宴の席は、だんだん酒も回り、空気も柔らかくなってきていた。
ただし、柔らかいからといって、話が軽くなるわけではない。
市の導入。
島津本家の面子。
八郎家との縁。
どれも軽く扱えない話である。
八郎は甘い水を飲みながら、ぽつりと言った。
「ただ、特に恋愛事は、私は疎いので」
三郎が即座に顔を上げた。
「お前が恋愛語るな」
「語れないから疎いと言っております」
八郎は真面目な顔で続ける。
「お互いに、好きと言ってくれないと分からないんですよね」
広間が一瞬静かになった。
姫君たちの何人かが、少し頬を染める。
八郎は構わず続けた。
「今、少しおしゃべりしている方」
「どこぞで遊びましょうと言えば、一緒に遊んでくださる方」
「そういう方と婚姻を考える形なのかな、と」
「他に候補があるのかな、と」
五郎が慌てて箸を置いた。
「おい」
「俺らがすごい遊び人みたいな言い方するのやめろ」
三郎も顔をしかめる。
「こっちはな、一人の縁で国が動くと思うと、どぎまぎして無理なんや」
「なるほど」
八郎は頷いた。
「そういえば、五郎兄様はもっと軽い感じがいいと言ってましたもんね」
五郎が固まった。
「言ってない」
「そんなこと言ってないぞ」
長女格の姫が、すっと五郎を見る。
「五郎様は、軽い方がよろしいのですか」
「いや、違います」
五郎は慌てる。
「軽いというのは、そういう意味ではなくてですね」
別の姫が少し笑う。
「なるほど」
「せっかく良い感じかと思っておりましたのに」
「そのように言われると、少し複雑な気分です」
五郎の顔が引きつった。
「いやいやいや」
「そういうことを言ってるんじゃなくて」
「責任感の問題で」
「責任感」
姫が繰り返す。
「はい」
五郎は必死に言葉を探す。
「姫様方と仲良くするのは、そら嬉しいです」
「でも、こちらは庄屋の出で、そちらは島津本家の姫様方で」
「ちょっと茶を飲むだけでも、周りが見る」
「遊びましょうと言われても、遊んだら遊んだで、これはどういう意味やとなる」
「そういう重さがあるんです」
長女格の姫が、わざとらしく首を傾げた。
「では、私たちも軽くなりましょうか」
「やめてください!」
五郎が声を上げる。
「それはそれで困ります!」
三郎が腹を抱えて笑う。
「お前、完全に詰められとるやないか」
五郎は三郎を睨む。
「兄さんも他人事ちゃうぞ」
「俺は飯の話をしてるだけや」
「その飯で姫様方が寄ってくるんやろ」
三郎も黙った。
そこで長女格の姫がにこりと笑った。
「でも、五郎様は春姫の時、かなり男気を見せてくださったと聞いております」
「そうです」
妹姫の一人が乗る。
「お局方に対して、手順と気持ちが大事だと、はっきり言ってくださったとか」
「今ここで布団を敷けば満足か、と」
五郎は頭を抱えた。
「あれを何度も言われるのが困るんです」
「一回、勢いで男気を見せたからといって」
「何度も見せられるわけではないんです」
八郎が頷いた。
「そうですね」
「毎度毎度、男気が出るわけではありません」
「八郎、助け舟か?」
五郎が少しだけ期待した顔をする。
八郎は続けた。
「でも、一回できたことは、もう一回できるかもしれません」
「沈めに来た!」
姫君たちが楽しそうに笑った。
「そうですわ」
「一度できたなら、二度目もあるかもしれません」
「私たちも、見てみたいです」
五郎は完全にたじたじになった。
「いや、そんな見せ物みたいに」
「見せ物ではありません」
長女格の姫が言う。
「人柄を見たいだけです」
「飯場で農民と話す姿」
「庄屋衆を丸める姿」
「春姫様の時に筋を通した姿」
「それらを見て、私たちは少し興味を持っているのです」
五郎は黙った。
その言葉は、からかいだけではなかった。
少しだけ、本音が混じっていた。
八郎はそこで、にこりと笑った。
「ただ、あまり追い詰めたら、五郎兄様が逃げてしまいますよ」
五郎が八郎を見る。
「お前、今度こそ助け舟か」
「はい」
「五郎兄様は逃げ足もそこそこ速いです」
「余計なこと言うな!」
すると、二人の姫が五郎の両側からそっと袖をつまんだ。
「追い詰めてなどおりません」
「ただ、一緒にお茶をして」
「少し遊びましょうと言っているだけです」
五郎は左右を見て、完全に固まった。
三郎が笑いすぎて肩を震わせる。
「五郎、逃げ足見せるなら今やぞ」
五郎はぎこちなく笑った。
「……逃げたら、もっと追われる気がします」
八郎は深く頷いた。
「正解です」
「姫様方は、逃げるものを追うのが上手そうです」
長女格の姫が八郎を見た。
「八郎様も、逃げない方がよろしいですよ」
八郎は甘い水を持ったまま、真顔で答えた。
「私は四歳児なので、抱っこされたら逃げられません」
「そこだけ四歳児になるな!」
三郎と五郎の声が揃い、宴の席はまた大きな笑いに包まれた。
だがその笑いの中で、五郎の袖をつまむ姫君たちの手は、しばらく離れなかった。




