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1534年6月3週目。島津本家の市導入を認める代わりに姫との縁談や養女を取ることの一筆が欲しいぞwww

その夜、島津本家の広間には酒と飯が並べられた。

名目は、姫君たちの里帰りと、市の視察の慰労である。

忠良は上座に座り、少し照れたように盃を持ち上げた。

「まあ、せっかく来てくれたのじゃ」

「今日は酒の席にしよう」

「姫たちもいろいろ見て疲れたであろうし、感想を言い合う会ということでな」

そこまで言って、忠良は少し咳払いをした。

「まあ、何でもよい」

「わしは飲みたいのじゃ」

広間に笑いが起こった。

二郎と春姫は夫婦として並び、その周りには八郎家の兄弟たちと島津の姫君たちが、

自然と男女で対になるように座らされていた。

三郎が周囲を見て、眉をひそめる。

「なんか、あれやな」

「縁談みたいになってますね」

五郎も小声で続ける。

「席の置き方に意図を感じるわ」

忠良は大げさに手を振った。

「いやいやいや、深い意味などない」

「ただただ、交流の場を作りたいという親心じゃ」

八郎がにこにこしながら首を傾げる。

「親心ですか?」

「そうじゃ」

「親心じゃ」

「面白ければいいですよ」

八郎がそう言うと、長女格の姫がすかさず口を挟んだ。

「八郎様は、我々の意図を読み取った上で、にこにこしておられるのが憎らしいです」

「そんなことはありません」

八郎はさらりと言う。

「私はお姫様方も結構好きですよ」

姫君たちが一瞬、言葉に詰まった。

三郎と五郎が同時に八郎を見る。

「お前、そういうところやぞ」

「四歳児のくせに間がうまいんよ」

忠良は笑いながら盃を置いた。

「なかなかやる男じゃな、八郎殿は」

「四歳児です」

「四歳児が姫をどぎまぎさせるな」

笑いが広がったところで、忠良は少し声を落とした。

「さて」

「市を見た姫たちの意見は、大方決まっておる」

「入れた方がよい、ということじゃ」

姫君たちは静かに頷いた。

忠良は酒を一口飲み、続ける。

「だが、わしの率直な気持ちを言えばな」

「島津の家としては、ただ市を入れるだけでは、八郎家に頭を下げたように見える」

「それは、あまりよくない」

貴久も頷く。

「家臣団への説明が難しくなります」

「民のためとはいえ、ただ飲むだけでは形が悪い」

忠良は八郎を見た。

「そこでじゃ」

「姫を一人、養女にするか」

「あるいは、誰かと縁を作るか」

「紙切れ一枚でよい」

「将来の縁について、覚書のようなものをいただけぬか」

その瞬間、三郎が飲んでいた酒を吹きそうになった。

五郎も箸を止める。

四郎は静かに目を伏せ、六郎と七郎は完全に固まった。

「いきなり重い話来たな」

三郎が小声で呻く。

五郎も顔を引きつらせる。

「酒の席で紙切れ一枚って、一番怖いやつや」

八郎は少し考え込んだ。

「なるほど」

「ただ、兄様方の気持ちは考えてあげないといけません」

忠良はにやりと笑った。

「最悪、縁がすぐ決まらぬなら、養女でもよいぞ」

「うちの長女を八郎の子にするというのも、面白いのではないか」

長女格の姫が目を見開いた。

「父上」

八郎も首を傾げる。

「どういうことですか」

忠良はからかうように言った。

「抱っこされて嬉しかったのであろう」

長女格の姫の頬が赤くなる。

八郎は真面目な顔で頷いた。

「嬉しかったですね」

「ただ、結婚は少し違うと思います」

「年の差がありますから」

長女格の姫はじろりと八郎を見る。

「そういうところがまた憎らしいのです」

「褒められていますか?」

「褒めておりません」

広間にまた笑いが起こる。

忠良は今度は三郎と五郎を見た。

「では、どうじゃ」

「三郎殿、五郎殿は、姫たちから人気があると聞いておる」

「ここらで、何か手を打たぬか」

三郎と五郎の顔がさらにこわばった。

「いや、待ってください」

八郎が口を挟む。

「分家の方も、今の流れを知っています」

「実久様が少し拗ねています」

「うちにも同じくらい時間をくれ、と」

忠良は即答した。

「分家は側室でもよいであろう」

「こちらは正室で一人もらってくれればよい」

「父上」

春姫が困ったように声を上げる。

八郎も手を振った。

「どんどん兄様方の顔がこわばっております」

「そこら辺は追々で」

忠良は盃を置く。

「追々でよい」

「だから一筆じゃ」

「将来、島津本家との縁を前向きに考える」

「それくらいの紙でよい」

八郎は腕を組んだ。

「最悪、養女でもよいのであれば、それはそれで手はあります」

忠良が目を細める。

「ほう」

「八郎家だけではなく、島津本家の姫君を養女として預かり、将来、大友や大内に嫁ぐという

 形もあります」

「あるいは、島津家臣団の中で、武術大会や兵法の競い合いをして、優れた者と

 縁を結ぶのも面白いかもしれません」

貴久が少し身を乗り出した。

「兵法の競い合い、ですか」

「はい」

「将棋や囲碁でもよいです」

「戦略を練れる者」

「兵を動かせる者」

「民を見られる者」

「一番強い者、あるいは一番賢い者と姫君が縁を結べば、家臣団の士気も上がります」

忠良は唸った。

「それはそれで、確かに面白い」

「島津の家臣たちにも顔が立つ」

長女格の姫が呆れたように言う。

「八郎様」

「私たちを賞品のように扱わないでください」

八郎は慌てて頭を下げた。

「すみません」

「ただ、姫様方にも選ぶ目が必要です」

「宴だけでは分かりません」

「働く姿、考える姿、民を見る姿」

「そういうところで見る方がよいと思います」

その言葉に、姫君たちは少し黙った。

忠良はにやりと笑う。

「それはそれ」

「これはこれじゃ」

「市を入れるための形として、島津本家と八郎家の縁を一つ増やす」

「この話は、やはり残る」

八郎は兄たちをちらりと見た。

三郎、五郎、四郎、六郎、七郎。

全員が、余計なことを言うなという顔をしている。

八郎はにこりと笑った。

「では、覚書の文面は慎重に」

「将来の縁を前向きに話し合う」

「市導入と島津本家の面子を立てるため、互いに誠意を尽くす」

「そのくらいなら、兄様方も今すぐ首を絞められずに済むと思います」

三郎が叫んだ。

「その表現やめろ!」

五郎も続く。

「今まさに首絞められてる気分や!」

忠良は大笑いした。

「よし」

「今宵はそのあたりで詰めよう」

「酒の席の戯れとして始め、明日には紙にする」

八郎は盃の代わりに甘い水を持ち上げた。

「私は四歳児なので、酒は飲めません」

「ですが、話は飲みます」

長女格の姫が小さく笑った。

「やはり、憎らしいです」

宴の広間には、酒と笑いと、国を動かすための紙切れ一枚の重さが、静かに混ざり始めていた。

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