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1534年6月3週目。島津本家として市を飲む代わりに縁を1つ結ぶ約束をいれよう。今から宴にする。八郎兄弟たちは絶対裏があると勘づくwww

奥座敷に、しばらく沈黙が落ちた。

市を入れるべきだ。

その結論は、もう誰の胸にもあった。

だが、問題はそこではない。

どう入れるか。

島津本家が、どの顔で八郎家の仕組みを飲むか。

それが問題だった。

忠良は腕を組み、低く唸った。

「入れるのはよい」

「いや、よくはないが、入れねばならぬ」

「しかし、ただ入れるだけでは、こちらが頭を下げたように見える」

貴久も頷く。

「家臣団への説明が難しくなります」

「民のためとはいえ、八郎様の仕組みを丸ごと飲む形になりますからな」

そこで、長女格の姫が静かに口を開いた。

「では、酒の席にしてはいかがでしょうか」

忠良が眉を上げる。

「酒の席?」

「はい」

姫は少し考えながら続けた。

「正式な評定で、市を入れると決めたとなれば重くなります」

「ですが、宴の席で、八郎様たちと語らいながら、勢いで話がまとまった形にする」

「酒のせいにするのです」

貴久が目を細めた。

「なるほど」

「酒の席で、民のため、春姫様と二郎殿の縁のため、伊東への備えのため、と」

「その場の勢いを使うわけですな」

姫は頷いた。

「それだけではありません」

「ついでに、私たち姫君の中から一人を、八郎家へさらに縁づける話を出してもよいかもしれません」

「婚姻、あるいは養女として入る形でも」

「すぐに決めるのではなく、覚書のようなものです」

「酒の席の戯れとして、しかし後で形にできるものとして」

忠良は思わず姫を見た。

「お前、そこまで考えたか」

姫は少し恥ずかしそうに目を伏せた。

「八郎様に手のひらで転がされたままでは悔しいので」

「少しは、こちらも考えます」

忠良は声を立てて笑った。

「よい」

「悪くない」

貴久も静かに頷く。

「市を入れるだけでは、こちらが飲まされる」

「しかし、縁をもう一本取るなら、島津本家も得たものがあると言えます」

「春姫様と二郎殿だけでなく、もう一つ縁を結ぶ」

「家臣団にも説明しやすくなります」

忠良は指で膝を叩いた。

「向こうに要求できるものは少ない」

「銭では勝てぬ」

「市の仕組みでも勝てぬ」

「民心でも、すでに持っていかれかけておる」

「ならば、結びつきか」

「はい」

貴久が言う。

「八郎家は大きくなりすぎました」

「敵に回すより、内に縁を増やした方がよろしい」

「しかも、向こうの兄弟方はまだ全員が固まっているわけではない」

「三郎殿、四郎殿、五郎殿、六郎殿、七郎殿」

「縁の余地はございます」

姫君たちの何人かが、そこで少しだけ顔を赤らめた。

忠良はそれを見逃さなかった。

「ほう」

「見てきた感想は、市だけではなかったか」

妹姫の一人が慌てる。

「父上」

「仕事をしている姿を見ただけです」

「三郎様は飯場で真剣でしたし、五郎様は農民や庄屋衆と自然に話しておられました」

「四郎様は寺社市の説明が丁寧で、六郎様や七郎様も一生懸命でした」

「それだけです」

忠良はにやにやした。

「それだけ、な」

長女格の姫が咳払いをした。

「話を戻してください」

「戻すも何も、そこが話じゃ」

忠良は笑いながら言った。

「市を飲む」

「その代わり、縁を取る」

「酒の席で、戯れのように言い出す」

「後で、覚書にする」

「悪くない」

貴久が少し慎重に言う。

「ただし、八郎様は気づかれるでしょう」

「酒の席で出した話でも、裏の意図は読まれます」

忠良は苦笑した。

「読まれるじゃろうな」

「だが、読まれた上で乗ってくるかもしれぬ」

「八郎も、島津本家との縁が増えることは悪くないはずじゃ」

「日向を考えれば、なおさらな」

長女格の姫が言った。

「でしたら、今日、宴を開いてはいかがでしょうか」

「今日か」

「はい」

「姫君たちが市を見て戻った」

「八郎様たちも城にいる」

「二郎様、春姫様もおります」

「八郎家の兄弟方も、今なら揃えられます」

「この熱が残っているうちに、席を設けるのがよいと思います」

貴久は少し考え、やがて頷いた。

「確かに」

「日を置けば、また家臣団の顔色を見て話が重くなります」

「今日なら、見てきた姫君方の感想を肴にできます」

「酒の勢いも使えます」

忠良は大きく頷いた。

「よし」

「宴を開く」

「名目は、姫たちの里帰りと、市の視察慰労」

「それに、二郎と春姫の縁を改めて祝う」

「八郎家の兄弟たちも呼べ」

「一郎は千代姫のところか」

「ならば、二郎より下を集めよ」

「三郎、四郎、五郎、六郎、七郎、そして八郎」

「全員じゃ」

姫君たちがざわついた。

「父上、本当に今日なさるのですか」

「当然じゃ」

忠良はにやりと笑った。

「八郎ばかりに先を読ませてたまるか」

「こちらも、酒の火を入れる」

貴久が家臣に命じた。

「広間を整えよ」

「酒、飯、甘味を用意」

「八郎商会の料理人にも声をかける」

「三郎殿がいるなら、何か出してもらってもよい」

忠良が笑う。

「それもまた、向こうを巻き込む形になるな」

貴久もわずかに笑った。

「はい」

「ただ飲まされるだけではなく、こちらも少し飲ませましょう」

長女格の姫は、静かに息を吐いた。

「うまくいくでしょうか」

忠良は娘を見る。

「分からぬ」

「八郎相手に、こちらの思惑通りにだけ進むとは思わぬ方がよい」

「だが、市を入れることはもう避けられぬ」

「ならば、島津本家が何を得るかを考える」

「それが政じゃ」

貴久が続ける。

「姫様方も、今日見たことをそのまま話してください」

「民が何を言ったか」

「商人が何を言ったか」

「八郎様が何をしたか」

「それを宴の席で自然に出す」

「そして、縁の話を軽く混ぜる」

妹姫の一人が小さく呟いた。

「軽く混ぜるには、重すぎます」

忠良は笑った。

「それが家じゃ」

「酒の席で笑いながら、国の形が変わることもある」

やがて使者が走り、八郎たち兄弟のいる別室へ向かった。

そのころ、三郎と五郎は茶を飲みながら、ようやく一息ついていた。

そこへ家臣が現れる。

「忠良様より」

「今宵、宴の席を設けます」

「八郎様、ならびに兄君方にもご出席願いたいとのことです」

三郎は茶を吹きそうになった。

「またか」

五郎は顔をしかめる。

「絶対、何かあるやつや」

八郎だけが、少し楽しそうに笑った。

「酒の席ですか」

「では、何か話が動きますね」

三郎が睨む。

「お前、分かってる顔すな」

八郎はにこりと笑った。

「私は四歳児ですので」

五郎が即座に返す。

「四歳児は宴の裏を読むな」

その夜、島津本家の広間には、酒と飯と甘味、そして市と縁談の火種が並べられることになった。

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