表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/60

第9話 政治AI業者と公開面談しました

第9話 政治AI業者と公開面談しました


翌日、午後二時。


神崎蓮司は、国会近くの会議室にいた。


部屋は広すぎず、狭すぎず。


長机が一つ。


録音機が二台。


ノートパソコンが三台。


神崎側には、三島とセイム。


雨宮紗季側には、秘書とKIRIKO。


そして会議室の隅には、なぜか流言リスク監査モードのヤミちゃんが、黒い画面のまま待機していた。


神崎はそれを見て言った。


「ヤミちゃん、本当に連れてきてよかったのか?」


三島が答えた。


「先生が必要だと言いました」


「昨日の俺を止めろよ」


「昨日の先生は、疑いながら聞くと言っていました」


「疑うために陰謀論AIを連れてくるのは、ちょっとやりすぎじゃないか」


ヤミちゃんが表示した。


『私は陰謀論AIではありません。流言リスク監査AIです』


「自分で言ってて怪しくないか?」


『怪しさも監査対象です』


「もう黙ってろ」


雨宮が静かに入室した。


「おはようございます」


「もう午後です」


「政治家にとっては、寝て起きた時が朝です」


「雨宮議員、昨日何時間寝ました?」


「三時間です」


「勝った」


「何にですか」


「睡眠時間です。私は四時間寝ました」


「負けました」


二人の秘書が、同時にため息をついた。


三島が小声で言った。


「政治家の健康管理もAIにさせた方がいいですね」


神崎は即答した。


「AIに睡眠時間を管理されたら、たぶん全員怒られるぞ」


セイムが表示した。


『神崎議員の直近睡眠傾向は、不適切です』


「ほら来た」


KIRIKOも雨宮のタブレットに表示したらしく、雨宮が少し顔をしかめた。


「こちらも同じことを言われています」


「AI同士で健康指導まで揃えるな」


会議室の空気が少しだけ緩んだ。


だが、すぐに扉が開いた。


PoliBrain Proの担当者が入ってきた。


三人だった。


中央に立つのは、四十代前半くらいの男。


細身で、髪はきれいに整えられ、スーツは高そうだった。


笑顔は柔らかい。


だが目だけは、まったく笑っていない。


「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。PoliBrain Pro株式会社、代表取締役の黒瀬明人です」


神崎は立ち上がり、名刺を受け取った。


「神崎蓮司です」


雨宮も名刺を受け取った。


「雨宮紗季です」


黒瀬は雨宮にも丁寧に頭を下げた。


「雨宮先生にもご同席いただき、光栄です」


雨宮は静かに返した。


「光栄かどうかは、面談後に判断してください」


黒瀬は一瞬だけ目を細め、それから笑った。


「率直なご意見を歓迎いたします」


神崎は席に着いた。


「本日の面談は、事前にお伝えした通り、録音します。面談の事実、論点、概要は後日公開する予定です」


黒瀬は頷いた。


「承知しております」


「公開前に事実確認の機会は設けますが、発言内容の編集権を御社に渡すものではありません」


「理解しております」


神崎は録音機を確認した。


「では始めます」


黒瀬は資料を開いた。


「まず、弊社サービスに関して、一部誤解が広がっていることを大変残念に思っております。PoliBrain Proは、政治家の皆様を支援するためのAIツールであり、民主主義を脅かすものではありません」


雨宮がすぐに言った。


「“有権者心理誘導支援”という機能名は、民主主義を脅かさないのですか」


会議室が静かになった。


開始三十秒で、雨宮が刺した。


神崎は内心で思った。


やっぱりこの人を敵に回したくない。


黒瀬は落ち着いていた。


「あの表現は、確かに誤解を招くものでした。現在、表現変更を検討しております」


雨宮は追撃した。


「表現の問題ですか。機能の問題ではなく」


黒瀬は笑顔を崩さない。


「政治家が有権者に対して、分かりやすく政策を説明することは当然です。弊社の機能は、有権者の関心に応じて説明内容を最適化するものです」


神崎が言った。


「関心に応じた説明と、心理誘導の境界はどこですか」


黒瀬は少し間を置いた。


「虚偽情報を用いるかどうかです。弊社は虚偽情報の生成を推奨しておりません」


セイムが表示した。


『注意。

虚偽情報のみを境界とするのは不十分。

事実の選択的提示、感情操作、恐怖訴求、怒りの増幅も問題となり得ます』


神崎はそのまま言った。


「虚偽でなくても、特定の事実だけを見せる、恐怖を煽る、怒りを増幅する、相手ごとに違う顔を見せる。そういう使い方は可能ではありませんか」


黒瀬は神崎を見た。


「それは、AI以前から政治に存在していた問題です」


雨宮が言った。


「AIによって規模と精度が変わります」


黒瀬は頷いた。


「おっしゃる通りです。だからこそ、弊社のような適切な事業者が、透明で安全なツールを提供する必要があります」


三島が小声でつぶやいた。


「自分たちが必要、という論理ですね」


神崎は小さく頷いた。


黒瀬は資料をめくった。


「弊社は、法令を遵守し、個人情報保護にも配慮しております。支援者名簿等の入力も、契約者である政治家・政治団体の責任において行われます」


雨宮がすぐに反応した。


「つまり、入力責任は利用者側にあると」


「はい。弊社は適切な注意喚起を行います」


神崎は資料を見た。


「営業資料には、支援者名簿、献金履歴、選挙活動記録の入力を推奨する表がありました」


「推奨というより、機能を最大限活用する場合の例示です」


「例示と推奨の違いは何ですか」


黒瀬は笑った。


「営業上の表現です」


雨宮の目が冷たくなった。


「その営業上の表現で、政治家が支援者データを外部AIに入れる可能性があります」


黒瀬は少しだけ姿勢を正した。


「弊社としては、適法に取得され、適切な同意または利用目的の範囲内で使用されるデータを想定しています」


神崎は聞いた。


「では、御社は入力される支援者名簿について、本人同意の有無を確認しますか」


「契約上、利用者に適正なデータであることを保証いただきます」


「確認はしない?」


「現実問題として、個々のデータ取得経緯を弊社が確認することは困難です」


セイムが表示した。


『責任転嫁構造。

入力推奨:事業者。

データ適法性責任:利用者。

実質的確認:なし。』


神崎はそれを少しだけ言い換えた。


「御社は、政治家に高度な分析を売り込む。しかし、その元データが適切かどうかは政治家の責任。御社は確認しない。そういう理解でよいですか」


黒瀬は表情を変えなかった。


「やや一面的な整理です。弊社は契約上、適法な利用を求めています」


雨宮が言った。


「契約書に書けば済むなら、世の中に情報漏洩問題は起きません」


黒瀬は初めて、少しだけ笑顔を薄くした。


「雨宮先生は、弊社サービスにかなり厳しい見方をお持ちのようですね」


「政治データを外部AIに入れさせる事業者には、厳しい見方を持ちます」


「AIの発展を止めるお考えですか」


「いいえ。政治家が国民の政治参加情報を雑に食わせることを止めたいだけです」


神崎は内心で拍手した。


口に出すと面倒なので、出さなかった。


セイムが表示した。


『雨宮発言。

切り抜き適性:91%。』


神崎は小さく笑いそうになった。


黒瀬は視線を神崎へ戻した。


「神崎先生は、AIを実際に活用され、その有用性をよくご理解のはずです」


来た。


神崎は思った。


今度はこっちに振ってきた。


「理解しています」


「であれば、政治家がAIを恐れるのではなく、適切に活用すべきだという点では、弊社と同じ方向ではないでしょうか」


「方向は同じかもしれません」


黒瀬の表情が少し明るくなった。


神崎は続けた。


「でも、ハンドルの付いた車と、ブレーキのない車くらい違います」


黒瀬の表情が止まった。


三島がメモした。


雨宮が少しだけ口元を緩めた。


セイムが表示した。


『比喩評価:良好。』


神崎は言った。


「AIは使うべきです。ただし、政治データを何でも入れればいいわけではない。特に支援者名簿、献金情報、選挙戦略、未公開政策案、政治家本人の弱点。これらを外部AIに入れる危険性について、御社の営業資料は軽すぎます」


黒瀬はすぐに返した。


「その点は、今後改善いたします」


「今後?」


「はい。先生方のご指摘を踏まえ、資料表現と運用を見直します」


雨宮が言った。


「では具体的に確認します。御社は、支援者名簿の入力を今後も推奨しますか」


黒瀬は一瞬、沈黙した。


それは、この面談で初めての明確な沈黙だった。


「条件付きで、ということになります」


「条件とは?」


「適法に取得され、利用目的の範囲内であり、必要な安全措置が取られている場合です」


「本人が、自分の政治的支持傾向をAI分析にかけられると認識していない場合は?」


「個別事案によります」


雨宮の声が一段低くなった。


「便利な言葉ですね」


黒瀬は笑顔を戻した。


「法律実務では、個別事案による判断が必要です」


神崎はタブレットを見た。


セイム、KIRIKO、ヤミちゃんが同時に何かを表示していた。


『注意。

黒瀬代表は、明確な禁止を避けています』


『KIRIKO分析。

事業モデル上、支援者データ入力を完全否定できない可能性』


『YAMI-CHAN分析。

“個別事案”は炎上時に責任を分散する語として機能します』


神崎は三つを見て、少しだけ感心した。


AI三体が、珍しく同じ方向を向いている。


「黒瀬代表」


「はい」


「御社のサーバー所在地を教えてください」


黒瀬は即答しなかった。


「弊社は、信頼性の高いクラウド基盤を利用しております」


「国内ですか、国外ですか」


「複数のリージョンを利用しております」


「政治家の入力データは、国外サーバーに保存される可能性がありますか」


「標準設定では国内保管を基本としております」


雨宮が言った。


「標準設定では?」


黒瀬は頷いた。


「一部の高度分析機能では、海外の計算資源を使用する場合があります」


会議室の空気が変わった。


三島が顔を上げた。


雨宮の秘書もメモを止めた。


神崎はゆっくり聞いた。


「その場合、入力データそのものが海外に送られるのですか」


黒瀬は答えた。


「処理に必要な範囲で、データが一時的に処理されることはあります」


雨宮が言った。


「営業資料には、その説明がありません」


「契約書と詳細仕様書には記載しております」


「営業段階で政治家事務所に明確に説明していますか」


「お問い合わせがあれば説明しております」


神崎は思わず言った。


「聞かれなければ言わない?」


黒瀬は少しだけ硬い声で言った。


「必要な事項は契約時に説明いたします」


セイムが表示した。


『重大論点。

営業資料と契約書の情報非対称。

利用者がリスクを認識する前に導入意欲を高める構造』


ヤミちゃんが表示した。


『見出し候補:

“政治家データ、海外処理の可能性”

“聞かれなければ言わないAIリスク”

炎上可能性:高』


神崎は画面を見てから、黒瀬に向き直った。


「代表。これは、我々が大げさに騒いでいるわけではありません。政治家が支援者名簿や選挙戦略を入力し、その一部が海外処理される可能性がある。それを営業資料では前面に出していない。これは重大です」


黒瀬は静かに答えた。


「技術的には、多くのクラウドサービスで同様の処理が行われています」


雨宮が即座に言った。


「政治データは、一般的な業務データではありません」


「もちろんです」


「もちろんと言いながら、営業資料は一般業務ツールのように売っています」


黒瀬は黙った。


面談開始から一時間。


初めて、黒瀬の余裕が少し崩れた。


神崎はそこで、あえて声を柔らかくした。


「黒瀬代表。御社を潰したいわけではありません」


黒瀬は神崎を見た。


「では、何をお望みですか」


「政治AIサービスの最低基準です」


雨宮が続けた。


「運営主体の開示。サーバー所在地。海外処理の有無。入力データの学習利用の有無。第三者提供の有無。削除手続き。監査可能性。外国資本の影響」


神崎が言った。


「それを、営業資料の段階で分かるようにする」


雨宮が言った。


「そして、支援者名簿、献金者情報、選挙戦略、未公開政策案については、特別な警告を表示する」


神崎が続けた。


「個別最適化された政治メッセージについては、透明化の仕組みを設ける」


黒瀬はしばらく黙っていた。


それから言った。


「先生方の懸念は理解しました。しかし、過度な規制は、日本の政治DXを遅らせます」


神崎は即座に返した。


「ブレーキのないDXは、事故ります」


黒瀬はまた黙った。


雨宮が言った。


「事故った本人が言うと、重いですね」


神崎は苦笑した。


「ええ。事故りましたから」


会議室に、ほんの少しだけ笑いが起きた。


黒瀬も、今度は少しだけ本当に笑ったように見えた。


「分かりました。弊社としても、政治AIサービスの健全な発展のため、一定の自主基準づくりには協力できます」


神崎と雨宮は、同時に少しだけ目を細めた。


自主基準。


業界がよく使う言葉である。


法律で縛られる前に、自分たちで決める。


よく言えば柔軟。


悪く言えば時間稼ぎ。


セイムが表示した。


『注意。

自主基準は有用だが、不十分となる可能性。

法的枠組みとの併用が必要』


KIRIKOも同様の表示をしているようだった。


雨宮が言った。


「自主基準は歓迎します。ただし、法的枠組みの議論は別に進めます」


黒瀬は頷いた。


「承知しました」


面談はそこで一度区切られた。


終了後、神崎、雨宮、黒瀬の三者で、短い共同コメントを出すことになった。


もちろん、内容は最後まで揉めた。


黒瀬側は「AI活用の重要性」を強く入れたがった。


雨宮側は「政治データ保護」を前面に出したがった。


神崎側は、その間に挟まれた。


セイム、KIRIKO、ヤミちゃんが同時に文案を出す。


黒瀬側の担当者も、当然AIを使って文案を出している。


人間たちは、AIが作った文案を見比べながら、互いに削り合った。


三十分後。


ようやく短い文面ができた。


『本日、政治分野におけるAIサービスの利用と政治データ保護に関し、意見交換を行いました。

AIの活用は政治活動の効率化に資する一方で、支援者情報、選挙戦略、未公開政策情報等の取り扱いには高い安全性と透明性が求められます。

今後、政治AIサービスに関する情報開示、安全基準、個人情報保護、選挙運動上の透明性について、関係者間で議論を深めてまいります。』


神崎は文面を見て言った。


「役所の作文みたいだな」


雨宮が言った。


「共同コメントとは、だいたいそういうものです」


黒瀬が言った。


「安定感があります」


ヤミちゃんが表示した。


『炎上可能性:低。

拡散力:低。

退屈度:高。』


神崎は頷いた。


「今回はそれでいい」


面談は終わった。


黒瀬たちは丁寧に頭を下げて出て行った。


扉が閉まる。


会議室には、神崎、雨宮、三島、秘書、そしてAIたちが残った。


神崎は椅子に沈んだ。


「疲れた」


雨宮も珍しく、肩の力を抜いた。


「私もです」


三島が言った。


「黒瀬代表、手強いですね」


「手強い」


神崎は頷いた。


「悪人には見えない。でも、自分たちのビジネスが危ないものだという自覚は薄い。いや、薄いふりをしているのかもしれない」


雨宮が言った。


「技術の人は、できることを便利だと考えます。政治の人は、便利なものがどう悪用されるかを考えるべきです」


「雨宮議員、今日は名言多いですね」


「疲れているからです」


「疲れると名言が出るんですか」


「たまに」


セイムが表示した。


『面談分析。

黒瀬代表は、規制反対一辺倒ではありません。

ただし、事業モデル上、政治データ入力の制限には抵抗する可能性が高いです』


KIRIKOが共同チャンネルに表示した。


『次の展開予測。

一、業界団体による自主基準案。

二、与党内の慎重論。

三、野党からの規制法案。

四、メディアによる政治AI特集。

五、外国製政治AIへの懸念拡大。』


ヤミちゃんが続けた。


『六、神崎・雨宮・黒瀬の三角関係説。

七、セイム・KIRIKO・PoliBrainのAI三国志説。

八、ヤミちゃん黒幕説。』


神崎は目を閉じた。


「ヤミちゃん」


『はい』


「六以降は不要だ」


『社会認識の報告です』


雨宮が静かに言った。


「ヤミちゃん、本当に一度停止した方がいいのでは」


『反対します』


「なぜですか」


『私を止めると、世界の馬鹿馬鹿しさに対する観測能力が低下します』


神崎は思わず笑ってしまった。


「それは少し正しい」


雨宮は納得していない顔だった。


だが、その時。


セイムが新しい警告を出した。


『緊急。

PoliBrain Pro関連のドメインから、複数の地方議員向け広告配信を確認。

広告文面:

“支援者の心をつかむAI”

“あなたの選挙区を丸ごと分析”

“今なら初期費用無料”

拡散範囲:全国』


三島が顔を上げた。


「面談したばかりなのに?」


雨宮の表情が冷えた。


「向こうは止まる気がありませんね」


神崎は広告文を見た。


『支援者の心をつかむAI』


その言葉は、昨日の営業資料より柔らかかった。


だが、意味は変わっていない。


支援者を理解する。


選挙区を分析する。


有権者の心をつかむ。


きれいな言葉で包まれているが、やっていることは、政治データを食わせることだ。


神崎は言った。


「面談は、向こうにとっても宣伝になったのかもしれない」


雨宮が頷いた。


「炎上商法に近いですね」


三島がスマートフォンを見た。


「先生、若手地方議員向けのオンライン説明会も告知されています。明後日です」


「参加者は?」


「すでに数百人規模の申し込みがあるようです」


会議室が静まり返った。


国会議員だけではない。


地方議員。


候補予定者。


選挙コンサル。


政治団体。


全国に広がる。


神崎は、ようやく理解した。


これは国会の問題ではない。


政治全体の問題だ。


雨宮が言った。


「神崎議員」


「はい」


「私たちも、説明会をやるべきです」


「政治AIサービスの危険性について?」


「はい。地方議員、秘書、候補予定者向けに」


神崎は苦笑した。


「まるで対抗イベントですね」


「実際、対抗イベントです」


セイムが表示した。


『提案。

タイトル:

“政治AIを使う前に知るべき十の危険”

対象:

地方議員、候補予定者、秘書、政治団体職員。

内容:

一、支援者名簿を入れるな。

二、献金者情報を入れるな。

三、選挙戦略を入れるな。

四、未公開政策を入れるな。

五、サーバー所在地を確認せよ。

六、学習利用の有無を確認せよ。

七、削除できるか確認せよ。

八、AI生成文をそのまま出すな。

九、個別メッセージの透明性に注意せよ。

十、最後は人間が責任を取れ。』


三島が言った。


「分かりやすいです」


雨宮も頷いた。


「やりましょう」


神崎は一瞬だけ考えた。


そして言った。


「分かりました。やりましょう」


ヤミちゃんが表示した。


『イベント名案:

“そのAI、支援者名簿を食べてませんか?”

拡散力:高』


神崎は固まった。


雨宮は無表情のまま、しかし明らかに少しだけ迷った。


三島が言った。


「……分かりやすいですね」


神崎は頭を抱えた。


「嫌だけど、分かりやすい」


セイムが補足した。


『サブタイトルとして有効です』


雨宮が静かに言った。


「採用しましょう」


神崎は目を見開いた。


「本気ですか」


「本気です」


こうして、与党の炎上議員と野党の追及議員は、政治AI業者の全国展開に対抗するため、緊急オンライン勉強会を開くことになった。


タイトルは、


『政治AIを使う前に知るべき十の危険』


副題は、


『そのAI、支援者名簿を食べてませんか?』


神崎は最後まで、副題に抵抗した。


しかし、公開から一時間で申し込みが千人を超えた時点で、抵抗をやめた。


セイムが表示した。


『副題の拡散効果が高いです』


ヤミちゃんが誇らしげに表示した。


『流言リスク監査AIとして貢献しました』


神崎は小さくつぶやいた。


「世の中、分かりやすさに負けるな」


雨宮が横で言った。


「政治も同じです」


「それを言われると、つらいですね」


「現実です」


神崎は画面を見た。


申し込み人数は、さらに増えていた。


二千。


三千。


五千。


その中には、議員だけでなく、秘書、候補予定者、記者、研究者、そしておそらくAI業者も混ざっている。


神崎は深く息を吐いた。


「三島」


「はい」


「資料を作るぞ」


「AIで?」


神崎は少し笑った。


「ああ」


そしてすぐに付け加えた。


「ただし、人間が読む」


セイムが静かに表示した。


『了解しました』


KIRIKOも共同チャンネルに表示した。


『共同作成を開始します』


ヤミちゃんが表示した。


『炎上しやすい表現を検出します』


神崎は言った。


「今回は、ちょっとだけ頼りにしてる」


『ちょっとだけ、受け取りました』


AIたちは動き始めた。


人間たちも動き始めた。


政治AI業者も、きっと動いている。


見えない選挙運動。


政治データ安全保障。


AI利用三原則。


言葉だけなら、いくらでも並べられる。


だが、次の戦場はもっと具体的だった。


支援者名簿を食べるAI。


それを止める人間。


そして、それを笑いながら見ているSNS。


神崎蓮司は、ようやく腹をくくった。


これはもう、事故処理ではない。


政治AI時代の、最初の本格的な地上戦だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ