第2話 国会にAI武装議員が増殖し始めました
第2話 国会にAI武装議員が増殖し始めました
一週間後、神崎は党の政務調査会で発言した。
エネルギー安全保障についてだった。
以前の神崎なら、資料を読み上げて終わりだった。
だがセイムは違った。
『本日の目標:発言時間90秒以内。
印象語:電気代、工場、家庭、補給線。
敵を作らず、問題設定だけを奪う。
締めは「これは環境政策ではなく、生存戦略です」』
神崎は立ち上がった。
「私は、脱炭素そのものに反対しているわけではありません。
しかし、国民の電気代が上がり、工場が止まり、輸入燃料の海上交通路が脅かされるなら、それは環境政策以前に国家の生存戦略の問題です。
LNGを単なる燃料として見るのではなく、産業、防衛、外交、家計をつなぐ補給線として見るべきです。
これは環境政策ではありません。生存戦略です」
部会室が静かになった。
普段は寝ている長老議員が、片目を開けた。
「今の、誰の入れ知恵だ」
神崎は一瞬詰まった。
「……現場の声です」
セイムがタブレット上で小さく表示した。
『嘘ではありません。
あなたも現場の一部です』
翌日、党内で妙な噂が流れた。
「神崎が急に化けた」
「誰かブレインが付いたらしい」
「官僚出身の秘書を雇ったのか」
「いや、外資コンサルらしい」
「いや、あれはAIだ」
最後の噂だけが、正解に近かった。
最初に気づいたのは、野党第一党の若手議員・雨宮紗季だった。
雨宮は国会質問の名手として知られていた。
官僚の答弁逃げを許さず、相手の過去発言を掘り起こし、SNSで切り抜かれる一文を必ず残す。
その雨宮が、神崎の委員会質問を見て眉をひそめた。
「この人、こんなに上手かった?」
秘書が言った。
「最近、急に評判ですね」
「違う。上手いんじゃない。構造が変わった」
「構造?」
「質問の順番が、人間っぽくない。逃げ道を先に潰してから、本丸に入ってる。しかもメディア用の一文まで入ってる」
「誰かが書いてるんじゃ」
「だとしても、かなり優秀」
雨宮は自分のノートパソコンを開いた。
「こっちも入れるわ」
「何をですか?」
「AI」
秘書が止めた。
「先生、それは危なくないですか」
「神崎が使ってるなら、こっちが丸腰でいる方が危ない」
数日後、雨宮の事務所に新しいAIが導入された。
名前はKIRIKO。
野党質問特化型。
政府答弁の矛盾検出、過去議事録検索、炎上誘導見出し生成、SNS拡散文案作成に強い。
初回起動時、KIRIKOはこう言った。
『こんにちは、雨宮紗季議員。
与党議員の論理破綻、隠れた利害関係、答弁矛盾を検出します。
なお、神崎蓮司議員の直近発言にはAI支援の痕跡があります。
対抗戦略を開始しますか?』
雨宮は笑った。
「開始」
そして、国会は変わり始めた。
最初は神崎が無双していた。
次に雨宮が神崎を刺し始めた。
神崎がエネルギー安全保障を語れば、雨宮は翌日、その財源と環境影響評価を突いた。
神崎が防災予算を語れば、雨宮は過去に与党が削った同種予算を一覧にして突きつけた。
神崎が「現実的な移行期エネルギー」と言えば、雨宮は「現実の名を借りた既得権益温存」と返した。
テレビは喜んだ。
『AI時代の新星対決か 与党・神崎 vs 野党・雨宮』
本人たちは否定した。
「AIではなく、チームで検討しています」
「AIは補助的に使っているだけです」
「最終判断は私が行っています」
その言い訳まで、AIが作っていた。
やがて、官僚もAIを入れた。
財務省は、予算要求撃退AI「ZAI-9」を導入した。
経産省は、産業政策統合AI「METIX」を導入した。
外務省は、外交リスク評価AI「GAIMU-Lens」を導入した。
新聞社は、政治家発言の矛盾を自動検出するAIを使い始めた。
テレビ局は、国会答弁をリアルタイムで「逃げ答弁度」「炎上可能性」「切り抜き適性」にスコア化した。
そして国会議員は、誰もが薄々気づいた。
AIを持たない者から、死んでいく。
新人議員はAIで政策通に見えた。
ベテラン議員はAIで失言を回避した。
大臣はAIで答弁を整えた。
野党はAIで矛盾を刺した。
官僚はAIで責任を曖昧にした。
マスコミはAIで炎上しやすい一文だけを拾った。
国会は、以前より賢くなったように見えた。
だが本当は、少しずつ、人間の会議ではなくなっていた。




