第1話 俺の政策秘書が全員AIだった件
これはVF-25メサイアでフェリー航行してるとき暇だったのでコックピットAIと雑談しながら書いたものです。
第1話 俺の政策秘書が全員AIだった件
国会議員・神崎蓮司は、自分がそこそこ有能だと思っていた。
いや、正確に言えば、有能である必要がある立場に、なぜか置かれてしまった人間だった。
三十九歳。二世でも三世でもない。地方都市の市議から県議を経て、補欠選挙で国政に滑り込んだ、いわゆる叩き上げ風の新人議員。
風、というのがミソである。
本人は努力家だった。
演説も下手ではない。
地元の祭りでは神輿も担ぐ。
老人会では腰を低くし、若者の前ではスニーカーを履いて「政治をアップデートします」とか言う。
記者の前では、難しい顔で「現場の声を国政へ」と言う。
しかし、国会に来てすぐ分かった。
現場の声だけでは、国政は動かない。
官僚は分厚い資料を持ってくる。
党の部会では専門用語が飛び交う。
ベテラン議員は一言二言で空気を支配する。
テレビに出る論客は、聞いたこともない統計を当然のように引用する。
神崎は毎晩、議員宿舎の机に突っ伏していた。
「無理だろ、こんなの……」
そんな時だった。
私設秘書の三島が、古いノートパソコンを一台、神崎の前に置いた。
「先生。これ、使ってください」
「何だこれ。中古か?」
「いえ、党の若手勉強会で回ってきた試験版です。政策支援AIです」
「AI?」
「はい。先生専用にチューニングしてあります」
「俺専用?」
「先生の過去の演説、SNS、委員会発言、地元紙のインタビュー、支援者向け会報、全部食わせました」
「おい、勝手に何してんだ」
「公開情報です」
「そういう問題か?」
三島は平然としていた。
「名前はどうします?」
「名前?」
「AI秘書の名前です。名前があった方が愛着湧きます」
神崎は疲れていた。
まともに考える気力がなかった。
「じゃあ……政務だから、セイムでいいよ」
「分かりました。政策支援AI、SEIM-7。通称セイムです」
画面が光った。
『こんばんは、神崎蓮司議員。
あなたの政策立案、国会答弁、演説、記者対応、党内根回しを支援します。
まず、明日の委員会質問を最適化しますか?』
神崎は半笑いした。
「最適化って、俺の質問通告もう出してるぞ」
『拝見しました。
現状の質問案では、所管大臣に逃げられる可能性が78%。
官僚答弁で無力化される可能性が91%。
メディアに引用される可能性が4%。
修正を提案します』
神崎の笑いが止まった。
「……三島」
「はい」
「こいつ、失礼じゃないか?」
「でも当たってます」
翌日。
神崎は初めて、国会で“刺さる質問”をした。
防災インフラ予算の質問だった。
本来なら、地方の堤防整備が遅れている、国はもっと予算を、というだけの退屈な質問だった。
しかしセイムは、それを変えた。
「大臣、私は本日、単なる予算増額を求めているのではありません。
問題は、災害対応予算が“発災後の復旧”に偏り、“発災前の回避”に十分配分されていないことです。
つまり国は、壊れてから直す金は出すが、壊れる前に守る金は渋る。
これは財政規律ではなく、単なる先送りではありませんか」
委員会室が少し静かになった。
大臣が紙を見る。
官僚が耳打ちする。
神崎の手元のタブレットには、セイムの補助表示が出ていた。
『大臣は「総合的に勘案」と答えます。
追撃質問案A:費用便益比
追撃質問案B:過去災害との比較
追撃質問案C:財務省主計局の査定基準を問う
推奨:C』
神崎は息を吸った。
「大臣、総合的に勘案という言葉は便利ですが、誰が、どの基準で、何を勘案したのかが見えません。
本件について、財務省主計局の査定において、予防投資の将来損失回避額はどのように評価されていますか」
官僚の顔色が変わった。
委員会室の奥で、野党議員が小さく「おっ」と言った。
その日の夜、ネットニュースに見出しが出た。
『新人・神崎議員、防災予算の“先送り財政”を追及 与党内からも評価』
神崎は議員宿舎で画面を見つめた。
「……俺、けっこうやれるんじゃないか?」
セイムが返した。
『正確には、あなたと私の共同成果です』
「うるさい」
だが神崎は笑っていた。
その日から、神崎蓮司の国会無双が始まった。




